鉄骨を叩いてばかりだ
鉄骨を叩く音が聞こえる。
もう何年経っただろうか。
この工事が始まってから、もう随分と経った気がする。
最近ではこの音が無いと、むしろ落ち着かなくなってしまった。
いつになったら終わるのだろうか。
ブルーシートが掛かっていて中が見えないものだから、どこまで出来ているのわかりゃしない。
考えてみれば、何を作っているのかすら知らないのだ。
きっと何処かに書いてあるだろうし、調べれば分かることなのだが、不思議なことに今まで少しの疑問すら抱かなかった。
本当は、何も作っていないのかもしれない。
ブルーシートの中に入っていった土方達は皆、ひたすら鉄骨を叩いているだけなのかもしれない。
穴を掘っては埋めて、穴を掘っては埋めて、ただそれだけの繰り返しなのかもしれない。
しかし、ブルーシートの中に限ったことでなく世の中はこんな事ばかりだ。
例えば会社。確かに夜中まで電気は付いたままだし、中に入ってみると皆パソコンのキーボードを叩いているが、本当の本当はどうだかわからない。ただ、電気を付けて、やたらめたらにパソコンのキーボードを叩きつけているだけかもしれない。
本当はわからない。
世の中の事なんてよく知らないから、皆が本当に何をやっているのかなんてわからない。
自分のことでさえそうだ。
疑問を抱いているように見えて、何かを考えているように見えて、実の所、ただただぼうっとしているだけかもしれない。
鏡を取り出してみたが、よくわからない。
自分は一体何をしているのだろうか。
鉄骨を叩く音が聞こえる。
この音はいつまで続くのだろうか。




