割愛
だから、あいつの事、そんな、嫌いでもないかもしれない。と、思った。
つい、数時間前の、事だった。
後輩の、文化祭の準備を手伝った。
本当は、こんな事をする理由は無かった。
彼は部長を後輩に譲っていたし、僕だってそうだ。元々、三年生、僕らは六年と呼ぶのだけれど、は文化祭には関わらない決まりだったし、人手が足りないようにも見えなかった。
様子を見に行くだけのつもりだったのに、こんな時間まで。
愛しき彼が望んだから、というのは理由には当たらない。僕はたとえ、彼が関わることであっても、面倒な事はしないと決めていたし、後輩とは仲が良くなかった、悪かったわけではないが、ので、理由など本当に全然であった。
そうして辿り着いた帰路。
「お腹空いた」
と、彼は言った。
彼が食べる時は、なるべく僕も食べると決めていた。
食事は重要で、それだけ意味を伴うと、僕は知っていたからだ。
油ぎったポテトをつまんで口へ運ぶ彼を見つめながら、僕は問う。
「電車の中、移動中、何してるの?普段」
「音楽を聞いている」
「それだけ?」
「重ねて、考え事をしている」
「どんな?」
彼は、放り込んだポテトを、数回咀嚼してから、答える。
「四次元とか、そういう」
とても彼らしいと思った。
そこでまあ、そこそこに嫌いなあいつの顔が頭を過ぎったんだ。
あいつは、少し、いや大分周りより頭が良くて、若干それを鼻にかけていた。少しだけなので、誰も嫌なやつだとは言わなかった。
僕はプライドの高さだけは誰にも負けていないので、そういったことに過剰反応してしまうのだ。
きっと彼は4次元の事など考えないだろうなあと思った。そういう小市民な所は僕によく似ている。彼はそんなことを言われても嬉しくはないだろうけど。
文化祭にひたむきになってしまうのも、そうだ。僕によく似ている。どんな事でも頼りにされることが嬉しいのだろう。ただ、彼は後輩とも仲良く、僕は仲が悪かった。
僕のこういう迎合しないところが人当たりの悪さの所以であった。
こんなこともあった。
猫の死体が落ちていて、皆集まって見ていた。声に出して面白いとは言わないものの、皆の目にはゴシップを楽しむそれが見えた。愛しの彼はこういったことに気付かない質で、見てもなるべく関わらないだろう。
僕は、なんとも言えない興奮があった。手に汗を握り歯をかみしめて震えを抑えて。
ふと顔を上げると向こうには、同じ顔をしたあいつがいた。
だから、
あいつのことが嫌いなのだけれど、
そんなに嫌いでもないかもしれない、
と思った。




