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満足な昼下がり
文字を書くのだ、忘れぬように
と、彼は言った
文章じゃなくて、詩じゃなくて、小説じゃなくて。
文字を、ですか
と、私が言った。
私たちは河川敷を歩いていた。
忘れちゃいけないのは文字だけで、後は忘れても困らないものさ、
と止まり、石を投げた。
形の悪いでこぼこした石で、川の中にぼとりと落ちた。
まぁ、そんなに変わらないかもしれないが、
そんなことはないですよ。大分違います。
そうかな、
また、悪い石、ぼとり。
まぁ、しかし、変わらないと僕は思ってるんだがなあ、
ぼとり。波をたてて。
石が悪いですよ。
変わらんって、
ぼとり、と。
少し黙って、
手を取って、
でも、あなたが言うならそうかもしれないですね。
大きく振りかぶって、
悪い石
飛んだ
生き物みたいに
水面を三回、
はは、かなわないなあ
と笑って彼
これほど満足な時はなかった。




