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あなたにふれる
地面を踏みしめていた。
僕と世界の接触部は地面のみであった。
僕が知覚しているのはその接触部である。
というのも、僕は身体の知覚が全体的に鈍く、あまり信用できないので、その中で唯一信頼に値するのが、触覚だったからだ。
僕は賛辞なんて要らなかった。ただ、頭を撫でて欲しかった。
僕は罵倒なんて解らなかった。ただ、殴って欲しかった。
僕は愛の言葉なんて、
ただ、
抱き締めて欲しかった。
僕は裸足で地面を踏みしめていた。
この地面は暖かく、檸檬の香りがした。そして、柔らかい髪、可愛らしく、小さな。
嗅覚や視覚、聴覚、その他のどれでも無かった。
ただ、触覚で感じていた。
僕は、確かにあなたを踏みしめていた。




