斜欠を判ず
髭面の男がいた。
男は部屋に入ってきた。
部屋は只広く暗く、中央にテエブルが一脚置かれているだけの部屋であった。また、照明が一つテエブルの頭上で、薄暗くオレンジ色に点滅していた。
男はテエブルの上に乗り、テエブルの上で胡座をかいた。
「ぶぃーー、ぶぃーー」
突如として奇声を発し始め、扉を睨みつける。
すると、示し合わせたかのようにノックの音が響く。またそれに応じて男は奇声を止めた。
「入りなさい」
「はい」
男に許可を貰い、部屋に入ってきたのは背の高い女だった。女は軍服を着ていて、また白衣を折り畳み、脇に抱えていた。
男はテエブルの上で立ち上がり、両腕を広げた。
「生きるも死ぬも同じ事。ならば何故生きるのか、生かすのか」
女は恭しく白衣を広げ、男に着せた。
「死ぬ事が怖いからです。殺す事が怖いからです。軍医様」
「戦争の代わりとなる、瀉血が必要だ。気の遠くなる時間過ごし、腐り切ったそれらを外に逃がすのだ」
「外が汚れますが?」
「この世の全ては足し引きでしかない。引いたら足さねばならん」
「私が引かれたら、何を足しますか?」
「君を足そう。君と同価値の物は君しかない」
女は微笑み、男は顔をしかめる。
「考えるだけでも、困った事態だ」
男はテエブルを降り、部屋を出る。女も後に続く。
ここで転ずるが夢。




