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だからこのイカ臭い世界に身体を預けたらしい

空、

空を、飛ぶ。

空を飛んでいる僕の絵の具、暫くすると墜落してその汚い中身をぶちまける事になるだろう。でも、だとしてそれと僕になんの因果があるのか。僕はとうに絵を描く事をやめた。それでも尚、視界に入ってくるという事は恐らく未練があるのに違いない。

腕に目をやると、虹色の目玉時計が午後11時を指す。いい時間だ。僕はゆっくりと、現実を待つ。

カーテンを上げると、光が差し込む。月光を浴びると少しずつ現実が此方側へとやってくる。仕方がないので、溺れたエビの検死報告書を渡す。

立ち上がり、扉を開く。





ハチ公は今日も来ない飼い主を待つ。周りを囲む、白髪交じりの子供達。ああやってお互いを暖めあって、待ち続けている。

うー、ワンワン?ワンワンワンワン!会話を試みる。uwa、nanikonohito。ワオーン!ワオーン!atamaokashiinjaneeno。難儀なことだ。幸あれ。

さて次はどうしたものかと思う。今来るよ。どうしたものかと思ふ。今来むよ。いかにしたものかと思ふ。今来むよといふも聞きもたりて、まねびありく。イマコムヨ!

それにしてもイカ臭いな。本当に臭い。耐え難い耐え難い。この臭いの根源は何処だろう。僕だ。僕だけが。空を。

クマがいた。森の中ではなかった。大都会、コンクリートジャングルの中だった。看板を持っていた。死んだふりは効かないといふ、なら殺したふりをしよう。懐の爪を確と握ると、手を振った。くまさん、くまさん、僕だよーん。

首を狙った。上手く刺さらない。まるで布のようではないか。ア、刺さった。さてと、一気に引き抜かなければ。そりゃあ、えい。力を入れ過ぎたようで、身体の重心がズレる。ぐるぐる回る、空も、月も、クマも、あー、気持ちいー。

やっと回転を止めた僕は静かに手を合わせた。成仏してください。クマさんの頭を外す。なんだ、人間ではないか。がっかりだ……。

勿体無い。被ろう。よし、今日から僕がクマさんだ。鋭い掻き爪で、美しい女のはらわたを引きずり出して、それはピンク色で艶やかに光っていて、僕なんかが想像出来ないような素敵な物全てが詰まっているからで、毎日、回るんだ。いつか、少女は気付く。自分の貪っていた物は単なる借り物に過ぎない事に。

そろそろこのクマも、エピゴーネンになる頃だ。全ては時に拠って定められているえさらぬ事よ。

素晴らしい公園に通りかかった通り過ぎた戻ってきた。丁度僕の父親ぐらいの年だろうか。若者たちに絡まれているようで、血まみれだよ。若者の後頭部を殴った。驚いたようで視線が集まる。思っていたより若い。殴った。鼻面から血を流す。殴った。殴って殴った。殴った。珍しく爪を使わなかった。

全てが終わった頃、血まみれ禿頭が礼儀正しく感謝した。蹴り飛ばした。そしてクマを脱ぐと、それを禿頭に被せてやった。さぞ暖かい事だろう。抵抗して脱ごうとするので、ロープでぐるぐる縛った。

僕は、満足した。

満足、してしまった。





カチンと、落ちてきた。頭にぶつかり、たんこぶを作ったまま、まばたきする。

腕に目をやると、虹色の目玉時計が午後11時を指す。いい時間だ。僕はゆっくりと、現実を待つ。

カーテンを上げると、光が差し込む。月光を浴びると少しずつ現実が此方側へとやってくる。仕方がないので、溺れたエビの検死報告書を渡す。

立ち上がり、扉を開く。


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