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僕が彼を殴った理由

頭を整理、頭を整理。

まず、何が起こったのか。

彼が其処にいて、僕が此処にいた。

丁度手を伸ばせば届く距離で、彼が笑っていた。

僕が殴った。

彼が怒って、それから僕が怒って。色々あって終わり。





最も理解し易い理由。


何故殴ったのか。

運が悪かった。最悪の事象が積み重なった結果。其れがあの結果。

まず、耳が痛かった。

次に、殴れば届く位置だった。

最後に、彼が嫌いだった。

いつも、へらへら笑っていて、ふらふらと浮ついた男で、それなのに運動が出来て、嫌な事を嫌と言わず、只周りの顔色を窺って、やっぱりへらへら笑っていた。誰一人として差別せず、僕にも同じように接して、へらへら、へらへら、へらへらと。

それがあの時限界を超えたから殴ったのだろう。





感情的な理由。


何故殴ったのか?

彼は悪くなくて、それなのに僕は。

そもそも彼の事を気に入っていた。

人に馴染めない僕に気を使ってくれたし、やはり差別はしなかったし、運動が出来ない僕を励ましてくれたし、何よりもあの笑顔。向日葵のように暖かい笑顔が、嬉しかった。

あの時もそうだった。

いつもの笑顔で話し掛けてくれたあの時、時間が止まった。

初めて人間同士分かり合えると思えた。同じ感覚を共有していると思えた。

僕は彼の魂に触れようとした。手を伸ばせば体を突き抜けて、彼と同化出来ると。

そう、思った。

しかし、壁は依然として、僕らを阻んだ。





存在しない理由。


殴った、それだけ。

現象には理由なんて存在しない。

其処に有るだけだ。

強いて、僕がその行動を起こした原因をあげるなら、太陽、だろうか。

日差しが眩しくて、顔をしかめた。すると彼が僕の目の前にいた。手を伸ばしたら届く距離だった。故に殴った。

彼はその行為に対し、大層、憤慨した様子で、僕の襟を掴み上げた。

彼は、テメエ、と声を荒げた。僕は襟が伸びるのが不快だったので、彼の手を外した。彼がまた襟を掴もうとするので、僕は彼の手を握りつぶさなければいけなかった。彼が少し冷静になった頃合いを見計らって、僕は何故喧嘩をしようとするのか尋ねた。すると、彼は、先に喧嘩売ってきたのはテメエだろうが、と、また興奮し始めたので、僕は力を強めなければいけなかった。しかし、先程から続いていた耳の痛みが突然強くなった為、僕は彼の手を放し耳を抑えた。彼はその隙に僕を殴った。成る程、道理だ、と僕は考えると、彼を殴った。


彼は運動は出来るが、喧嘩は僕より弱いようだった。


彼が冷静に成った後で、無礼を詫びたいという旨を伝えると、素っ気なく興味ない、と言われた。

暫くすると、彼の友人が僕の元に来て、何があったのか、何故殴ったのか、尋ねた。僕は、なにもなかった、特に理由は無かった、強いて言うなら太陽のせいだと応えると、彼の友人は納得出来ない様子ながらも大人しく帰っていった。

僕は願う。もっと他人に理解してもらいたい。分かり合えていないからこのような事が起きたのだ。

もし、それが叶わないなら、せめて僕は平穏を望む。





あり得たかもしれない、あり得るかもしれない最期。


僕は一人のアラビア人を殺した。太陽のせいだった。有罪になった。後悔はない。だから、せめて、この牢の中一時の平穏を望む。


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