03)グレイッシュ(上)
翌日、太陽が高く登りはじめてきた頃、貴方はフォイーユに連れられて書物庫にやってきたわ。
「王子との婚約を国民に発表する前に、あなたを一人前のレディーに仕上げなけれはなりませんので」
ですって。
そうよね〜。ノエルは庶民だもの、国民が認めるわけ無いわよ。
それにしても、凄い量の本だわね。
「ノエル。彼はグレイッシュ・トーン。あなたはトーン家の養子となってから、王子のもとへ行くことになります」
考えたわね。一時的に貴族の仲間入りしちゃえば、結婚できるものね。
それで、机に本を広げていたグレイッシュ・トーンなんだけど。
年の頃は、十代を少し過ぎたくらいのお子様だわね。
暗い焦げ茶色の髪をして、細長い眼鏡を掛けてる。
あまりにも知的な感じがして子供らしくないわね。
「はじめましてノエル。グレイッシュ・トーンだ。これからはキミの《教育係》となる。ボクの言うことを良く聴くように」
「…は?」
「何て間抜けな面をするんだ。これだから、庶民は嫌いなんだ」
グレイッシュは眉間に深いシワを寄せたわ。
「王子も何故こんな身分の低い者を選んだんだか理解に苦しむ」
それはねぇ、アタシがちょちょいっと魔法をかけたからよ。
「グレイッシュ君。《教育係》ってなに?」
「君、ではなく先生と呼べ。それから、師に対しては敬語を使え」
「キミは年下でしょう」
「しかし、これから礼儀作法を教える師だ!キミ、と言うのもやめろ」
露骨に不機嫌そうな顔をして、グレイッシュは机を叩いたわ。
ワガママなところは子供ね。
黙って様子を見ていたフォイーユが、こっそり貴方に耳元で囁いてくるわ。
「お辛いでしょうが、彼の言うことを聴いて下さい。ここは一つオママゴトと思って」
「聞こえてるぞ!」
「おっと失礼。…それではノエル、私はこれで退室します。頑張って下さいね」
あらん?一緒にいるわけではないのね。
残念だわ、好みなのにぃ。