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空の翔び方  作者: ゆき
5/9

リハルトとルーカス

【Side:リハルト】



 久々に訪れた天界は、やはり微妙に居心地が悪かった。

 家の地位が高いのは俺の所為じゃないし、勝手に組まれていた縁談にも興味が無い。

 全く、妹の結婚話にかこつけて、俺を家に戻そうなんて考えが甘い。

 俺は天界での生活には未練がないし、地上での生活が気に入っているんだから。


「それで、どうだったんだよ。久々の実家は」

「別に、なんら変わりは無いさ」

 街外れに、一部では神秘の森と称される深い森がある。

 森の中には、スポットライトのように日光が射し入る場所が幾つかあり、そのうちの一つに俺は小さなログハウスを建てて、のんびり喫茶店を営んでいた。

 場所が場所だけに、一見さんはなかなかやってきてはくれない。

 だが、それもまったくいないわけではない。

 人伝に聞いて来店する客もいれば、森に迷って勝手に辿りつくような客もいる。

 そして閉店間際のこの時間に、俺の前に座っている男――は、紛れも無く後者の客だった。

「しっかし、リハルトの妹ってんなら、どれだけ美人さんなんだか。一度お目にかかってみたいもんだぜ」

「…そう言うお前はどうなんだ。たまには帰っているのか」

「んー、まぁぼちぼち」

「嘘を吐け」

 店内に幾つかある出窓にカーテンを下ろしながら、俺は即答で短く返す。

 手の中のグラスを揺らしながら、男は肩を震わせて笑っていた。

 ちなみにうちは喫茶店だが、手作りの果実酒なども少しだけなら置いてある。

「閉店だ。帰れ」

 既に他に客は無い。

 元々、夜に来店する客は決まっていたようなものだったが、今夜は特に少なかった。

 俺はカウンターでちびちびとグラスを傾ける男の横に立ち、あっさり出口を指差した。

「俺ァ客だぜ」

「一杯で何時間も粘る客は迷惑なだけだ」

「…相変わらず辛辣だねぇ」

 言うなり男は、残りの酒を一息に飲み干し、横目に俺を見上げてくる。

「常連には優しくしておくが吉だって、知んねーのか?」

「ツケでしか代金を払えない客など、来てくれなくて結構だ」

 溜息を吐きながら、今度は顎で扉を示す。

 まぁ、確かに客商売でこの態度はどうかと思うが、それも相手がこの男だからだ。

「はー、怖ぇ怖ぇ」

 おどけるように肩を竦めて、やっと男は席をたつ。

 珍しくもそのまま扉の方へと向かうその背中に、俺は片手を差し出して、

「700リネだ」

 本日の請求額を短く告げる。

 が、男は肩越しに片手を挙げただけで、

「ツケといて」

 振り返ることなくそう残し、眠そうに店を出て行った。



...end

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