タイトル未定2026/10/17 21:41
僕が童と会ったのはある晴れた日だった。彼女は座敷童子であった。やがて僕は童を追いかけて小さなおしいれにたどり着く。
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僕が童と会ったのはある晴れた日だった。都会の喧騒の中で仕事をし、息抜きに片田舎の町へ来たときだった。
「ありがとうございます。」
老婆から抹茶と団子をもらう。
「どうかい、田舎は。」
「ホッとしますね。」
団子を縦に頬ばりながら言う。
秋風が枯葉をカラカラと鳴らしていた。
「突然じゃがお役人、座敷童子には興味があるかな。」
「座敷童子?」
唐突な質問にうろたえた。
「ここには座敷童子が出るんじゃよ。会えるかも知れん。」
宿は古びた木造の簡素な住まいだった。食事を頂くともう床に入ろうかなと便所へと向かった。
用を済ませて廊下を歩いているそのときだった。
よのつぎ
よのあと
あそびましょ
あそびましょ
歌声が聴こえてきたのである。
追ってひとつの部屋に入ると尼そぎの子どもがいた。
目が合うとそらして、逃げていった。
そして小さなおしいれに入っていった。
部屋はがらんと広かった。
ねずみが走るような音がしていた。
こじんまりとしたおしいれをみると
「きみ、きみ。」
と呼んだ。
するとおしいれが半開きになった。
「お兄ちゃん、私は童。遊びましょ。」
ガタガタと部屋中が音を立てた。
あそびましょ
あそびましょ
そして童は走り抜けていった。
おにさんこちら
てのなるほうへ
にげましょ
キャッキャッと嬉声をあげていた。
僕は走ると童をつかまえた。
「お兄ちゃん、つかまった。」
おにさんこちら
てのなるほうへ
あそびましょ
「今日はもう寝ようね。」
おやすみというと部屋に戻り床についた。
宿の朝は雀の声で目が覚めた。
よく晴れた秋の空だった。
食事を出されると
「座敷童子には会えましたか。」
と訪ねられた。
「どうですか。よく覚えていません。」
とぼけた顔でそう言うと箸を置いた。
「馳走さま。」
ガタガタと音がしておしいれが半開きになるのがみえた。
童はにっこり微笑んだ。
「童、おはよう。」
にこっと笑うと部屋に戻った。
しばらくは寝て過ごした。
ふと視線を感じた。
「お兄ちゃん、遊びましょ。」
童は部屋に入ってきて、はぎれでめかくしをされた。
おにさんこちら
てのなるほうへ
にげましょ
童は手を叩いて招いた。
「だめぇ。」
という声がして童はあたりに入った。
おにさんこちら
てのなるほうへ
童は嬉声をあげると伸ばした両手に捕まった。
「お兄ちゃんが鬼の番。」
サァーッと小雨が降っていた。
雨の中、童は透けて見えた。
「雨があたるよ。」
上着を着せた。
「遊んでましたか。」
老婆が割って入った。
「飯食べましょ。」
小豆の混ざったご飯を2膳置くと
「食べましょ。」
童は縁側に座って足をパタパタした。
「美味しいかい。」
老婆はそう言って童に食べさせると
「お役人も食べますか。」
小走りにおひつからもう1膳盛り付けて渡した。
「いただきます。」
僕は笑顔で小豆ご飯を頂いた。
童はにこにこしながら
「美味しいね。」
と言った。
次の朝、僕のもとに1本の電話が鳴った。
「はい、はい。はい。」
一通り聞くと、赤い受話器をタップした。
なんと、役場からの僕が主任へ出世したという知らせだった。
僕は小さなことながらあ然としていたが、出世コースに乗れて喜んだ。
日ごろのコミュニケーションスキルがよかったのか、わからないが。
明日、東京に帰らなければならないのか。胸がぎゅっと締め付けた。
「影踏みしましょ。」
童が寄ってきた。
「おじさんはね、明日帰らなければならないんだよ。」
いち に さん し
ご ろく なな はち
きゅう じゅう
童は僕の影を踏んで
「お兄ちゃんが鬼の番。」
と言った。
僕は童をかたく抱きしめていた。
「また、遊ぼうね。」
僕がそう言うと
「やくそく。」
そう言って指切りをした。
数年後、屋敷を訪ねた。
家は荒れ果てていて誰もいなかった。
「童。」
と呼んでみた。
あとには何も現れなかった。




