第9話 初めての経験と変人
瞼に降り注ぐ光に眩しさを感じ、腕で目を隠しながらゆっくりと目を開ける。
「ん……ん?」
時刻を確認すると7時48分。
「ッ!?」
一気に眠気が覚め、まだ重い身体に鞭を打ち急いで起き上がり準備を始める。
昨日早く寝たのに完全に疲れが取れた気がしないし、まだ眠い。それに目覚ましもかけてたのにこんな時間に起きてしまうなんて……。
また遅刻する訳にはいかない。遅刻の回数があまりに多いと反省文とか書かされるらしい。
そんなもの書きたくない一心で俺は爆速で準備を終え家を出た。
「はぁはぁはぁ……」
「んお、おはよー。ギリギリセーフだな」
教室のドアを開けると即座に俺に気が付いた光が椅子にもたれかかり頭の後ろで手を組みながら声を掛けてきた。
息を整えながら挨拶を返し自分の席に着く。
汗を拭いていると視線を感じたので視線の方を向くと七月さんと目が合った。
「あっ」
俺が会釈すると七月さんはニコッと朝から物凄く眩しい笑顔を浮かべ「やほー」と口パクしながら手を振ってきた。
眩し過ぎて灰になってしまうのではないかと思いながらも、手を振り返すわけにもいかずもう一度会釈をして視線を逸らす。
俺が手なんか振り返したらクラスメイトにそういう関係だと誤解されるかもしれない。それに手を振るのって何気に恥ずかしいし……。
七月さんは別に特別な意図とかがあるわけじゃないんだろうけど他の人がどう考えるかはまた別だからな。
なんせ七月さんは俺と違って明るくて誰とでも仲良くて、可愛くてモテる。勝手に推測したり色々な憶測が飛び交い、最終的に目を付けられて肩身が狭くなるのは俺の方だからな。そういうのは少し考えてほしい気もする。
でもまぁ、あの笑顔を向けられ手まで振られて悪い気はしない。
色々考えながら鞄の中を整理していると、またもや視線を感じ目をやると今度は光が目を細めてニヤニヤしていた。
俺は「なんだよ」という意を込めて眉をひそめると光は何も言わずにニコッと笑うだけだった。
席を立ち、光に声をかけにいこうとするとチャイムが鳴り俺は仕方なく席に着いた。光が何を考えているのか分からないままだったがきっとまたしょうもない事なんだろうと気にしない事にした。
休み時間になり俺は朝から見る暇がなかったスマホを開くと目を見開いた。いつもなら全然来ていない見慣れない通知が沢山来ていたからだ。
ニューチューブの新規チャンネル登録者の通知やコメントの通知。そしてツニッターのフォローされた旨の通知が数十件。
俺は何が起きているのか理解できず混乱しながら状況把握のために取り敢えずツニッターを開く。
恐らくだが、あきななが関わっているという考えに至った。最近バズッたのはあきなな。そして俺はその動画に出ていて関わっている。
え、もしかして俺なんか炎上とかしてないよね?! と嫌な想像をしてしまい焦りと不安が湧き出てくる。
取り敢えず通知欄を見てみるとあきななからのメンションがあって俺はそのツニートを見てみることにした。
【みんなおはよー! 昨日アップした動画見てくれた!? 編集滅茶苦茶頑張ったからまだ見てない人は見て欲しいなー。そして、ラギくんのイケメン最強1vs4clutchも是非是非見てね!!】
という文言の後に俺のニューチューブshotsのURLが貼られていた。そのツニートの後には一応ツニッターにも投稿していた俺の動画をリツニートしてくれていた。
あぁそういう事かと理解した後、俺は炎上してないかはまだ分からないので急いでそのURLを押して自分の動画に飛ぶ。再生数とか高評価の数が目に入る前に、自分の動画では見たことがないコメント数の多さにゴクリと喉を鳴らす。
もしかしなくてもやっぱり俺炎上してて悪口とか誹謗中傷のコメントめっちゃされてる……? というかあきななのツニートのイケメンってなに……?
息を鼻で静かに大きく吸い、意を決してコメントを開き読んでいく。
【1vs4マジだったんやすご】
【この状況から勝てるマ?】
【あきななから来ました、まじで上手すぎです】
【あきななのとこでは最後の部分しかなかったからフル見に来たけど、全部のプレイが完璧すぎるw】
【フィジカルだけじゃなくてちゃんと立ち回りも上手いの尊敬】
【いやこれはイケメン過ぎるだろ惚れる】
【敵アホで草】
【これの後敵煽ってくるのダサいなwww】
あ、あれ?
思っていたコメントと違い俺は拍子抜けしてしまった。どうやら炎上してないらしく、アンチコメントも来ておらず寧ろ俺を褒めるようなコメントばかり書かれていた。
こんなに褒められるとは思っていなかったので思わず笑みが零れてしまう。教室で他の人にスマホ見ながらニヤニヤしてるキモイ野郎だと思われないように急いで手で口元を隠すが嬉し過ぎて口角が中々下がらない。
そして見るのを忘れていた再生数と高評価。なんと3万再生に159高評価。チャンネル登録者もそこそこ増えていた。
ツニッターに上げた動画もいいねやコメント、リツニート、フォローの通知が物凄い事になっていた。
俺はあきななの朝のツニートを引用し、【あきななのお陰で滅茶苦茶伸びててびっくりした。こんなの初めてでめっちゃ嬉しいありがと】とツニートする。
チラッと七月さんの方を見ると俺が引用した通知が届いたのかスマホを見た後、身体を少し捻り俺の方を見てくる。
すると腰あたりで他の人に気付かれないよう静かにサムズアップすると同時にへったくそなウィンクもしてきた。
「ふふっ」
思わず鼻で笑ってしまったが、俺は普段なら絶対しないのに興奮からか七月さんにサムズアップし返してしまった。
視線を七月さんからスマホに戻そうとする途中で男子と目が合うと不思議そうに俺と七月さんの方を交互に見ていた。
あっやば……。
気まずくなり目をスマホに向け脳内で自分を落ち着かせる。
よーし落ち着け俺。大丈夫……。
って何が大丈夫?! 見られてたよね。絶対見られてた。うわ、はっず……。
そうこうしているうちに授業が始まってしまいその時間は集中できなかった。
休み時間、俺はスマホであきななのshotsとか自分の事をどんな人がフォローしてくれたのか気になって見たかったが次の時間は体育なので我慢して着替えることに。
体育の先生は怖いからな。出来れば怒られたくない。男の俺が言うのもなんだが、普通に泣きそうになる。普通の人に比べたら多分メンタル弱い方だから余計に。
着替え終わって校庭に光と向かおうとすると、突然後ろから肩を叩かれ「ねえ」と話しかけられた。
俺はまさか話しかけられるとは思っておらず、思わず肩をビクッとさせる。
「あ、ごめん」
「あはは、大丈夫。どうしたの?」
「いや、柊君って七月さんと仲良かったっけと思って」
「えぇなんで?」
「さっきの休み時間、なんかサムズアップし合ってたし、この前も話してたから」
あぁぁぁやっぱりさっきの見られてたよねー目あったもんねぇ!
「あぁ、まぁ。ゲーム好きらしくてそれで少し仲良くなったよ」
「そうなんだ、てっきり付き合い初めでもしたのかと思ったよ。よかったぁ」
よかった……?
「……よかったってお前もしかして七月さんの事好きなのか?」
今まで隣で静かに待っていた光が突然少しの躊躇いもなく質問して俺は思わずぎょっとする。
俺も気になったけど!! そんな直球で聞くかな普通?!
「ん、いやぁまぁ……どうなんだろう。でも可愛いしおっぱいでかいし付き合えるなら付き合いたいよね!」
お前もお前でなんでそんな屈託のない笑みで答えてんだよ! と声に出して突っ込みたい気持ちを我慢しつつ苦笑いを浮かべる。
大人しそうな感じの人なのかなと思っていたら中身はとんでもない変態だった。
「ゲーム好きならアニメとかも好きかな?」
「んーどうだろ? わかんない」
「えぇじゃ柊君聞いといてよ!」
「いや自分で聞けよ」
光がそう突っ込むが俺にはその気持ちが分かる。あんな明るくて人気な七月さんに自ら話しかけるなんてハードルが高いよな! 分かるぞ。
「えーと、ところで名前なんだっけ?」
同じクラスなのは知ってるけど、俺は人の名前と顔を覚えるのがそんなに得意ではない。普段話さないし、失礼だがクラスであまり目立つ方でもない人なので猶更覚えれていない。
「えっ?! 俺はちゃんと覚えてたのに……そんな酷いよ柊君……」
「ごめん、人の名前覚えるの苦手で」
「クラスメイトなのに覚えてないのか七緒……。普段の寝不足の影響も多少はあるんじゃないか?」
「う、おっしゃる通りで。で、そう言う光は名前知ってるの?」
「……すまん知らん」
「いや知らんのかい!」
「えぇぇぇぇ?! 松山君も知らないの?! なんで?! 俺そんなに影薄いかな……」
少なくとも今は全然薄くない。というか寧ろ個性が強過ぎる。こんなのいたら直ぐ名前覚えるだろうけどな。
「いやてかゼッケン見てよ! ほれ! 書いてあるじゃん!」
服を引っ張りながら『中村』と苗字が書かれた所を強調して見せてきた。
「ごめん興味なくて視界に入らないようにしてた」
「すまん俺は七緒のノリに乗っただけでちゃんと知ってるからな」
「そっかよかったぁぁ。俺の名前は中村海。海って書いてかいだよ」
光も名前知らなかったのかと安心してたのに嘘だったのかよ。裏切りやがって。俺だけ悪いみたいになってるじゃん。
いやまぁ実際名前覚えてないのは悪いか。
「七緒、そろそろ行かないとまずいから行くぞ」
「んぁ? うん」
「ちょっと待って置いてかないでよ! てか無視?! 俺の扱い雑じゃない?」
俺達は急ぎ足で廊下を歩きつつ会話を続ける。
「だってまじで俺達からしたら変人にしか見えなくて恐怖でしかないから」
「クラスメイトに向かってそれはないだろ七緒……まあ変な奴ではあるけど」
「いや松山君まで!?」
そうこう話している内に靴箱に着き、靴を履き替え壁に掛けてある時計に目をやると授業が始まるまであと1分もないくらいだった。
「「やばい急げ!」」
一足先に靴を履き終えた俺と光は勢いよく校庭に飛び出し全速力で走り出す。
「ちょっ待っっ!」
後ろの方で微かに声が聞こえたが待っていたら間に合わないので無視して猛ダッシュ。
みんなが集まっているところに無事にチャイムが鳴る前にたどり着くことができ呼吸を落ち着かせる。
そして丁度チャイムが鳴った時に中村も来た。
「はぁはぁ゛あ゛あ゛はあ゛はぁ゛あ゛……ッ」
凄い息切れしながらもギリギリ間に合っていた。
体育の先生が鋭い目つきをしているが、言いたいことは分かる。もっと余裕を持って早く来いとかそんな事だろう。
でもギリギリ間に合ったので今回は怒られることはなかった。
それにしても他の人からの視線が怖かった。最近変な意味で目立つ事が多くなってきた気がする。
いつまで経っても人に視線を向けられるのは怖い。




