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第7話 下手くそなウィンク

 

「よぉ、七緒。お前七月さんとなんかいい感じじゃん」


「はぁ? そんなんじゃないけど、仲良くはなったね」


 休み時間になるとさっきの七月さんと俺が小声でひそひそと話していたのをニヤニヤしながら見ていた光が肩を組んで話しかけてきた。


「そんなこと言って、ほんとは好きなんじゃ?」


「お前めんどくさ」



 顔を覗き込まれ思わず目を逸らしたくなるが、ここで目を逸らしたら好きだと言ってるようなものになってしまうので俺は呆れた目で見返す。



 好きじゃないけど、まぁ可愛いとは思う。でもイコールで好きかと言われればそうではないだろう。



 七月さんの身長は女子にしては少し高い方。服を着ているから分からないが、痩せてはいると思う、けど出るところはしっかりと出ている。それでいてショートカットで元気で明るい人だ。でも結構おっちょこちょいでアホなところがみんなから好かれている。


 そしてこんな俺にも話しかけてくる陽キャっぷり。


 確かにこんな人から話しかけられたりすれば普通の人なら秒で好きになってしまうかもしれない。

 でも俺は配信をしているあきななを知っているからなのか分からないけど、そんな感情にはならなかった。



「ま、お前に俺以外の友達ができてよかったよ」


「はいはいどーも」


 光は友達っていうより世話焼きな近所のお兄さんみたいなムーブしてるけどな。



 そっか……俺七月さんと友達になったのか。いや待て、相手が友達と思ってるとは限らない。

 考えたら友達ってどういう定義なんだろう。はい、これから友達ですっていうような感じじゃないし。友達って作るというより自然といつの間にか仲良くなってたりするし。よくわからないな。



 考えてもどうにもならないことはほっといて、俺も今日くらいに編集した動画出すか。




 ふとあきななの動画の伸びはどうなったかなと覗いてみるとさっき見たときよりも一目みて分かるくらいに増えていた。

 そしてリアルタイムで増えていく数字を目の当たりにして「はは、すごっ……」と乾いた笑いと言葉が溢れていた。



 これ、どんだけ伸びんだろう? ほんとにすごいな。もっと伸びて100万再生とか行っちゃうんじゃ……?



 身近な活動で仲良くしてくれてる人が伸びるのを見ると自分の事のように嬉しい気持ちになる。

 しかもそれが自分とのコラボで出たワンシーンだったから猶更。でもそれと同時にどんどんと俺の手の届かない存在になっていってる気がして寂しさも覚える。




 あきななはこれを機に有名な人からコラボのお誘いとか受けて、それでもっと伸びて本当に雲の上の様な存在になってしまうかもしれない。そして俺ともう一緒にゲームしてくれなくなってしまうのではないかと想像すると、これ以上伸びなで欲しいなと思ってしまった。



 あきななは元気で一緒にプレイしていて楽しいし、話も面白かったりノリもいい。きっと今埋もれてるだけで色んな人から見つけて貰えば直ぐに人気になるに決まっている。


 それに対して俺はゲームが少し上手くて少しノリが良いくらいしか取り柄がない人間だ。声も特段良い訳でも特徴があるわけでもないし、話も面白くない。


 もしあきななが人気になってもこんな俺とコラボしてくれたとしても、俺はどうやっても伸びることはできないだろう。

 むしろ「何この男」「底辺がしゃしゃんな」とか「ノリつまんな」とか罵詈雑言の嵐を浴びせられるだろう。



 いいなぁ……俺も人気になろうと頑張ってた時期あったなぁ……結局全然ダメで諦めたけど。







 昼休み、光は用事があるとかで何処かに行ってしまい、俺は一人で買ってきたパンを動画を見ながら食べていた。

 すると突然首元にヒンヤリとした感触が当たり肩を跳ねさせる。


 何事だと思い振り向くと、後ろから横にひょこっと現れた七月さんがニシシと笑みを浮かべ手にはジュースを持っていた。


「何か用?」


「えっ冷た! 柊くんこのジュースくらい冷たいじゃん!?」


「ふふっなにそれ」


「え、なに? なんで笑ったの!? 私変な事言ったっ!?」


 突然イタズラされて少しイラッとしたのだが、七月さんの変な例えでそんな思いは一瞬で消え去った。


「んで、何か用があるんじゃないの? どうしたの?」


「用がなかったら話しかけちゃダメなの?」


 さっきまでの柔らかい表情が真剣な物に変わり、俺はその質問に目を丸くする。


「別にダメじゃないけど」


「けど?」


「あぁいや全然ダメじゃない」


「そっか、ならよかった」


 俺の回答に満足したのかニコッと笑って目を合わせてくる七月さんに不覚にも少しドキッとして思わず目を逸らし、流していた動画に視線を戻す。



 こんなのでドキッとしてるのバレたら絶対からかわれるな。



「はいこれ、上げる」



 顔を上げると先程俺の首に当ててきたジュースを差し出してウィンクをしてくる。


「え? いいの? てかウィンクへったくそだぞ?」


 片目はちゃんと閉じれてるが、開けとくべき目は今にでも閉じそうなくらい細かった。頑張って開こうとしてるのか瞼がプルプルと震えてるのも相まって酷い顔になっている。


「うそぉん!?」


 自分では上手く出来ているつもりだったのか、七月さんはスマホで内カメにして何回かウィンクして確かめショックを受けていた。


「あ、はいこれあげるよ。バズったお礼! 柊くんとのやり取りがあったからこそ生まれた動画だし、柊くんのお陰でもあるからそのお礼!」


「あぁそゆことね。じゃあ、ありがたく頂きます」


「ふふん、万バズの私に任せときなさい!」


 七月さんはサムズアップすると同時に絶望的に下手くそなウィンクをして友達の元に戻っていった。



 有頂天になって「私、万バズしたんだー」とか友達に言わないかと少し不安になるくらいにご機嫌だな。





「ねぇウィンクってどうやったら上手く出来るかなー?」


「え、普通にこうでしょ?」


「こ、う?」


「ぶはははっ! へったくそじゃん!」



 友達にもウィンクで笑われて少しムスッとしていたがとても楽しそうだった。どうしてあんなにウィンクが下手に出来るのか分からない。


 逆に才能あるだろ……と俺は目を細め鼻から少し息を吐くとスマホに目を落として再びご飯を食べ始める。




 どれだけ万バズして遠い存在になったとしても会えなくなる訳じゃない。確かにクラスに七月さんは存在するんだという事実が少し嬉しかった。



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