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第58話 きっと大丈夫

 〇小野(おの)こはる視点〇


 月曜日、教室に行きいつも通り皆に挨拶をする。


 挨拶を返してくれるクラスの人達に手を振り応えているとラギっちがうちを微笑んでみていた。


 うちはラギっちに駆け寄りハイタッチをして挨拶をすると後ろからななっちがジト目で現れた。


 嫉妬したのかな? と思いつつも好きじゃないって言ってたしいいよね。


 そしてななっちにも挨拶をして自分の席に帰ると、うちは頭を抱えた。


 あぁぁぁあうちって男子にどうやって接してたっけ? 距離近かったかな。変じゃなかったかな。


 昨日ラギっちと付き合ったらっていう変な妄想をしてしまったせいで距離感がおかしくなってしまった気がする。



 その後もラギっちにどう思われているか気になって授業中とか見てしまった。


 何回も目が合ってしまってその都度笑顔で誤魔化してたけど大丈夫だよね……?


 朝からうちの行動がやっぱりおかしいせいかクラスの皆の注目がラギっちに集まってしまっている。

 そのせいか時間が経つにつれラギっちが少し疲れ始めているように見えた。


 あぁ……今日はうちもおかしいし、これ以上関わらない方がいいな。


 ラギっちとうちがそういう仲になったのではと噂する声も聞こえたが、ラギっちは恋愛で嫌な事があったんだ。だからそういう噂をされるのも嫌うかもしれない。


 折角仲良くなったのに、嫌われるのは嫌だ。




 ――が、次の日もその次の日もラギっちの顔は曇ったまんまだった。


 寧ろ、日を追うごとにどんどんとラギっちの表情は悪くなっていた。




 〇七月明奈(あきな)視点〇


 月曜から何故か柊くんの様子がおかしい。以前も若干は感じていたが、さらに壁を感じるようになった。


 松山(まつやま)くんや中村(なかむら)くんと話す時でさえそうだ。


 表面上は今まで通り。でも、時折見せる光のない、どこかここじゃない場所を見ているような瞳や、明らかに増えた苦笑いは今までのそれとは確実に違った。


 それが逆に異質で奇妙で、怖い。


 柊くんとそんなに仲良くないクラスの人達はいつも通り気にした様子なんて無かった。柊くんの様子がおかしい事にすら気付いてないみたい。


 テストが返却されて点数が良かったので凄いねと褒めても反応が薄い。


 以前の柊くんなら褒め返してくれたり、私の点数が低かったらからかってきたりしたんだろうけど。


 数学も国語のテストも返却されたが、点数勝負の約束なんて最初から無かったかのように柊くんは無言で間違え直しをしていた。


 今の状況の柊くんに話しかけていいのか分からない。なんて声をかけていいのか分からない。

 松山くんや中村くんでさえ困惑している。


 柊くんと今までみたいに話せない日々がこんなにも面白くないとは思ってなかった。


 いつの間にか私は柊くんと話す事が楽しみになっていたらしい。





 どうしたらいいか分からず優衣(ゆい)やこはる、彩香(あやか)とも話した。


 こはるが「ラギっちは昔恋愛で嫌な事があったらしいからそれが関係してるかも」とこの前二人きりでボーリング行った時に聞いたと話してくれた。


 私でさえ知らない情報を知っているこはるに少し嫉妬に近い感情を抱いてしまったがそんな感情は今は必要ないと押さえつける。


「ななっちとうちとの距離が近くなったせいかも」


「それは確かにあるかもね……」


 優衣が出した結論は私達は下手に何かせずに見守ることだった。


 こはるが言う通り、柊くんがああなった原因が私達にあるのなら下手に刺激しない方がいいという判断。

 少し寂しいけど、いつものように接して嫌われるよりかはマシだ。


 でも、夏休みに入る前にはどうにかしたい。じゃないと取り返しのつかない事になりかねない。

 そのくらいに今の柊くんの雰囲気は危うかった。


 今日は木曜日、あと一日しかない。





「ねぇ松山くん。柊くん……大丈夫かな……」


 柊くんと仲が良い松山くんはどう思っているのか、どうすればいいのかの意味も込めて話しかけてみた。


「ん? あぁ、それな。七月は何か聞いてない……よな。そういう雰囲気じゃないし。あいつ意外と自分の事話したがらないからな」


「そ、そうなんだ」


 松山くんと柊くんって長年友達をやっている雰囲気があるが、確か二年のこのクラスになってから仲良くなったって言ってたな。


「心配だよな」


「う、うん……」


「うちが原因だと思う。ほんとにごめん……」


 話を近くで聞いていたこはるがしょんぼりと目を伏せながら松山くんと私に謝罪してきた。


「いや小野が悪いと決まった訳じゃないだろ」


「そうだよ。タイミングが悪かっただけだと思う。私も原因の一つだと思うしさ……」


「その自分達が原因だと思う根拠みたいなのはあるのか?」


 あぁそっか松山くんはまだ知らないのか。


 こはるにアイコンタクトをすると、こはるはこの前二人でボーリングに行った時の事を簡単に説明してくれた。


「なるほどね。俺達で何とかするしかないね光」


「いたのかお前」


 いたんだ中村くん。


「ずっといたよ!?」


「気付かなかったわ」


 重たい空気に少しだけ笑いが起こると、中村くんが咳払いをして話を元に戻す。


「明日は午前で終わるけど、曇った気持ちで終業式迎えたくないじゃん? だから今日の内にどうにかしよう」


「まぁそうだな。じゃあ今日あいつをカラオケに連行して無理矢理にでも話を聞くか」


「いいねそうしよう決まり」


 決めるのはやっ!?


 中村くんは、最初の頃はクラスに馴染めてなさそうだったけど、柊くんや松山くんと関わるようになってから明るくなったと思う。


 きっと三人の中で何かがあったんだろう。私達には分からない何かが。


 柊くんの友達。そんな二人だから安心して頼める。


「私達は行かない方がいいだろうから、柊くんの事……お願いします」


「お願いします!」


 頭を下げると私に倣ってこはるも同じ動作をした。


「まぁ、なんとかするわ」


「任せといて!」


 ふっと微笑む松山くんと親指を立てて自信満々の中村くんに自然と頬が緩む。


 きっと大丈夫。この二人ならなんとかして見せるとういうのが伝わってきて少し気持ちが軽くなる気がした。


 私達は明日、柊くんが元気になって登校してくれるのを祈るだけ。


 私とこはるはお互い視線を交わすと頷き、大丈夫と自分に言い聞かせるように微笑んだ。





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