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第44話 ギャップ


「よーし! 次はうちの番だ! ななっちみたいにガーターはしないぞー!」


「うるさいぞ、こはるー!! ガーターしろー!!」


 小野さんがわざと七月さんに聞こえるような声で言うと、七月さんは小野さんにガーターを望む声を返した。


 小野さんは「へへ」と薄ら笑いするとボールを構える。チラッと目に入ったボールの重さは七月さんよりも重いものだった。


 小柄な小野さんがボールを持つと凄く大きく見える。そしてその細い腕のどこにその重さを持てる筋肉があるのか不思議な気持ちになった。


 一歩、二歩、三歩と小さい歩幅で短いスカートを揺らしながら、華麗なステップを踏むと勢いよくボールをレーンへと放つ。

 右に行き過ぎたようにも見えたが、回転がかかっているのか徐々にレーンの中央に軌道が修正され、ガシャーンと気持ちのいい音と共にピンを巻き込んでいった。


 予想外の上手さに俺だけではなく海も思わず目を見開き息を飲む。


 小野さんは腰に手を当て、得意げな表情をこちらに送ってくると隣の七月さんは「ぐぬぬ」とガーターしなかったことを悔しがっていた。


 返ってきたボールを手に取ると小野さんはレーンの先に残った一本のピンを見て一度だけ深呼吸をする。


 一呼吸した後、今度は先程とは変わりゆっくりと助走をつけて投げた。


 丁寧に放られたボールは残った一本のピンに吸い込まれるように直進し、カツンと小さく乾いた音を響かせた。

 一瞬遅れてピンはゆっくりと倒れると、天井から吊り下げられたスコアを表示するモニターにスペアを伝える派手な演出が流れる。


 それと同時に小野さんは勢いよくこちらを振り向くと、スカートが風に靡き見えそうになりつつもそれを気にする事なく、ウィンクをしながら目の近くでピースをした。


「おぉ……」


 見事な狙いに思わず声が漏れつつも、パンツが見えそうになったので俺は直ぐに目を逸らす。

 一瞬だけ目に入った太ももはしっかりと引き締まっているように見えた。


 小野さんは満面の笑みで、少し茶色がかったセミロングの髪を揺らしながら近付いてくると、俺達四人全員と「いぇい!」とハイタッチして席に戻った。


 海は顔が引きつっていたが勢いに飲まれ普通にハイタッチしていたのでやっぱりもうそこまで心配する必要はないのかもしれない。




「いやぁ、こはるボーリングも上手いんだねー!」


「運動でこはるに勝てる想像が出来ないよね」


 この前の体育祭で活躍していたという俺の記憶は合っていたらしい。


「部活とかしてるの?」


 海がハイタッチしたことにより警戒心を緩めたのか小野さんに質問すると「いや全然!」というなんとも意外な答えが返って来た。


「え? してないの?!」


 その返答に俺も思わず驚いてしまう。


 リレーで第一走者を務めていた小野さんは、1,2位を争うくらいの足の速さだったので何かしらの部活に入っているものだと思っていた。


「そうなんだよねー、こはるって運動神経いいのに部活入ってないの」


「なんでも下の子の世話しないといけないんだったよね?」


「そうそう、親が二人ともいない日はうちがチビ共の面倒見ないといけないからねッ!」


 体育祭が終わった後も家族とご飯を食べに行くと七月さん伝手に聞いたし、家族思いなんだな……てか、この感じで長女なのか……。意外過ぎてびっくりした。


「てかてか、次はかいかいの番だよ!」


「か、かいかい……?」


「うん、海くんだからかいかい!」


 小野さんは誰の名前でもあだ名で呼ぶタイプの人らしい。海も初めて呼ばれる呼び方に困惑していた。


 かいかいって何か痒そうな呼び方だな。



 これだけ一気に距離を詰めてくる女子って中々いないから親しみやすくて俺は結構人間として好感を持てる。


 クラスで見てても愛されキャラなのが伝わってくる。


 でもそれでやっぱり長女なのはギャップ萌え過ぎでは……?


 改めて今日遊んでいるメンバー、というか七月さんがいつも絡んでいる人達全員それぞれが魅力的でモテているだろうことが容易に想像できた。


 そんな人達と遊んでいる俺と海って……今更ながら場違い感を認識しながらもこんな人達と仲良く遊べて俺は恵まれてるなと思わざるを得なかった。


「上手い人の後に投げるの嫌だな」と海がぼやきながらも皆の声援を背に受け、ボールをピンに向かって放る。


 真ん中は捉える事が出来なかったが、俺よりも重い球を使っていて何気にスピードも出ていたのでかなりの数を倒していた。ピンを倒す時の音は俺よりも迫力があって爽快だった。

 二投目もしっかりピンを倒して合計8本という十分な結果で海もほっと胸を撫で下ろして席に着く。


 その次の桃沢さんは一投目は6本を倒すが、二投目はガーターしてしまった。


「いぇーい! ガーター仲間が増えたー!」


 七月さんがガーターに喜ぶ中、桃沢さんは口元を手で隠し恥ずかしがる仕草をしていた。


 桃沢さんは清楚系なギャルのイメージが強かったのでもっと「ガーターしちゃった。ぎゃはは」みたいに笑い飛ばすのかと思っていたので意外だった。





 その後俺はスペアやストライクも取る事が出来てかなり満足する結果になった。


 七月さんのガーターの溝にボールが落ちたかと思ったら、勢いがあり過ぎて跳ね返り普通にピンを倒すという奇跡的なプレーをした時は皆席を立ち上がる程盛り上がった。


 最終的なスコアの順位は1位が圧倒的なスコアで小野さん。2位は俺。3位は海で4位桃沢さん。そして最下位が七月さんという結果になった。


 小野さんは本当に上手でストライクも取るしスコアも取るし、毎回必ず7本以上は倒していた。

 1ゲームだけじゃ少し物足りなかったのでもう1ゲーム追加してやるも順位はあまり変わらなかったが、七月さんはさっきよりもガーターの回数は減り成長していて満足そうだった。



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