第2話 トキシックと有料級ボイス
「そんじゃそろそろ配信始めるか」
『うん!』
配信開始のボタンを押してあきななに始めたことを伝え、お互い軽い挨拶をする。
俺の配信の方にはまだ誰もいないが、あきななの方には固定リスナーさんがいるのか話している。
あきななの配信画面を別モニターで見ながら俺に向けられたコメントに目をやり微笑む。
【この前一緒にやってたラギくん?】
『そうだよー。今日は二人でヴァルするよ。何気男の人と1対1でコラボするの初めてなんだよね』
「へぇ俺が初めてなんだ? なんか嬉しいな」
『なんかその言い方きもっ! あはは』
「純粋に喜んだだけなのに?!」
若干吐息ボイスで意識して言ってみたらしっかりあきななはそこに突っ込んでくれるので口角が上がりながらも驚愕してみせる。
『たまたま誘っただけで他意はないでーす』
「希望がついえた……」
大げさに落ち込んだ風に言うとあきななはそれをガン無視して『それじゃやっていくかー』とゲームプレイを押した。
【ラギどんまい】
『よし、ラギキャリーお願いしまーす!』
「えぇ……。まぁ程々に頑張るよ」
ヴァル歴はあきななよりも長いが俺もさほど上手い方ではない。普通の人よりかは上手いと思うがキャリーできると自信を持って言えないので苦笑するしかない。
ゲームが進行していき暫く経った時、あきななが操作しているキャラが目の前に来て凄い屈伸してくる。
『ラギくんスキン頂戴よ』
「ごめん持ってない」
銃のスキンは課金したら使えたりするもので、見た目がかっこよかったり可愛いかったり敵をキルした時の音や銃を撃った時の音が違ったりするものだ。
課金したからと言って強くなるわけではないので俺は課金していない。敵を倒したり死んだ味方がスキン持ってたらそれ拾えばいいわけだし……。
『チッ使えねぇなぁ!』
「そこまで言う?! 結構頑張ってラウンド取ってるんだけど?!」
『ラギくんがキャリーするのは当たり前の事だから』
「俺の扱い雑じゃない? まだ知り合ってそんなに経ってないのに……」
味方が全員やられてしまって残りは俺1人。対する敵は4人で絶望的な状況。でも爆弾は設置できたので相手はピークしてこないといけない状況。絶対に人数有利を活かして戦ってくるので俺は相手側の陣地に迷わず突っ込んでいく。
虚を突いてまずは1キル。その後ろにカバーに来たもう1人も倒す。
残りは2人。爆弾が爆発してラウンドを取得するにはまだ時間がかかる。
俺は急いで爆弾を設置したサイトに戻り、リキャストしたフラッシュを使って相手の視界を奪う。
その間に俺は立ち位置を変えピークして敵を倒すと1対1にまで持ってきた。心臓がバクバクとうるさいが画面に集中する。
すると爆弾を解除する音が聞こえたので俺はジャンプピークして相手が解除しているかどうかを一瞬確認する。そして細かいジグルピークをして相手を惑わす。
『うわぁぁぁそれウザい、上手い!』
息を飲んで見守っていたあきななが突然口を開いてびっくりしたが爆発するまで時間が少ない。
解除する時間も残っていないので勝利を確信して残っていたスキルを使いオーバーピークをして相手を倒すとラウンドを無事に取得することに成功した。
『わぁぁぁ!! めちゃ強いしうまっ!!』
『clutch』というゲームのシステム音と盛り上がるあきななの声を受けながら息を吐き椅子にもたれかかり、落ちているスキンを拾う。
心臓が口から飛び出そうだし緊張でまだ手が震えていた。
【うぉぉぉ!!】
【うますぎ】
【設置後の動き上手すぎだろ……】
【相手からしたら滅茶苦茶ウザいピークwww】
あきななのコメント欄でもすごい盛り上がりを見せていた。だが、相変わらず俺の視聴者は0でコメントも勿論0だった。
その事実は悲しいけど、あきななのリスナーさんのコメントで褒められているからそれが嬉しかった。
因みにclutchとは残り1人になってから逆転勝利することを指す。その他にも全員生存しての勝利をパーフェクトと言ったり。1人で敵5人を倒すことをACEと様々な用語が存在する。
「緊張した……」
『さりげなく落ちてるスキン拾って私にくれるとかイケメンかよ!!』
「あはは……」
まだ高鳴っている心臓と震える声を隠すために笑うことしかできなかった。
【これはモテ男だわ】
【イケメン】
『って言われてるけどラギくんって彼女いたことあるの?』
「え、それ聞いちゃう?」
『聞きたい聞きたい!』
女子ってこういう恋愛話になるとすごい食いつきいいのは何なんだろう。
「なんと!」
『……なんと?!』
「彼女……いたことありませーん!」
『だと思った』
「なんでだよ」
『なんとなく?』
いたずらっぽく笑うあきななの声で怒りは全く沸いてこない。寧ろ笑みがこぼれる。
【なんだやっぱりか】
【仲間だった安心】
【あきななはどうなの?】
『えぇ私? 実は私もいたことないんだよね』
「え、めっちゃ意外。全然10人とかいると思ってた」
『私を何だと思ってるんだ!』
「まぁこんなゲームとか配信してるからいるわけないか」
『ちょいちょいちょいちょい!それは言い過ぎだろ!』
【ラギ辛辣で草】
【いたことないの意外過ぎる】
話しながらやっていたからかゲームに全然集中できておらずさっきから連続してラウンドを取られているが楽しいのでよしとしよう。
そして遂に5ラウンド連取されて逆転された時、敵からテキストチャットが飛んできた。
テキストチャットには敵味方全員に見える「全チャット」とチームのみが見れる「チームチャット」があるのだ。
敵:【キルジェンよっわww】
敵:【5/16/4www】
キルジェンとは今あきななが使っているキャラの名前だ。そしてキルデスアシストを書いて笑ってきた。
「……」
俺はそのテキストチャットが目に入るがこんなのに一々反応してられないと小さくため息を吐いてスルーしようとしたが、言われた本人はやっぱり気にするわけで『んなっ、なんだこいつイラつくなぁぁぁ!!』と嘆いていた。
「まぁまぁ……あきなな始めたばっかだし全然いいスコアだと思うよ。それにそんなにキル求められるようなキャラじゃないしさ」
『そうだよね。うん、わかってる。わかってるんだけどやっぱり私悔しいよ!』
その後ラウンドが始まりあきななは『見返してやる』と呟きキルを狙いに行くも、俺の目の前でヘッドショットをくらい儚く散っていった。
「はははっ」
お笑い芸人並みのフラグ回収の速さに思わず吹き出してしまうとあきななは『うぅぅぅ!』と唸り声とも威嚇ともとれるような声を発していた。
【もうお笑いじゃんwww】
【あきなな可愛い頑張れw】
その後、あきななが死んだ所に銃を撃つ行為、死体撃ちを敵からされるようになり、当人じゃない俺もイラついてきた。
【相手絶対モテない、キモイ陰キャだろまじで】
見てるリスナーさんも気分がいいものではないだろう。
すると今度は誰かわからないが野良の味方から死体の所に目印をつけるピン、死体ピンがあきななに差された。かと思えば、味方のレオナがあきななの死体撃ちをしてきた。
さっきの死体ピンも恐らくこのレオナだろう。
『もうぅぅなんなのぉ!!』
口数は減っていないが、明らかに最初よりもテンションが下がっているのがわかる。声のトーンが落ちて、でも暗い配信にならないように頑張っているのが伝わってくる。
まだ試合はあと少しある、早く終わらせたい。
あきなながいいプレーをしたら褒めて、惜しかったら励ましたりしてなんとかあと1ラウンドで相手の勝利で終わるところまで来た。
レオナ:【まじキルジェン弱いわwww】
敵:【どんまいwww】
『本来味方のはずのレオナが敵になってるのはなんでなんだ! 味方なら私を励ますべきだろ!』
「それはおっしゃる通りで……」
【正論過ぎて草】
【レオナ使う人怖い……】
『いやわかる、レオナ使う人ってトロールとかトキシックのイメージ強いよね』
「確かに、自分が強いと思ってるプライド高い人が多い感じする」
『んねっ!』
レオナは最終ラウンド、あきななのキャラの前に来たりあきななを撃って邪魔をしてきたりトロールをかましていた。
そして俺も頑張ってはみたが死んでしまい、残りはあきなな1人だけになった。
『はいG~G~。キルジェンさんまじ弱いんでこのゲームやめた方がいいっすよ』
突然入ったゲーム内VCにびっくりしてあきななはエイムがぶれ、それによって死んでしまい、相手の勝利で試合が終わる。
言ったのはレオナだった。
俺は流石に自分の事じゃないにしろ、こういうレオナみないなのがいるせいで治安は悪くなるし、初心者も楽しめないしコンテンツが廃れていく要因でもあってイラついてついVCを入れてしまう。
「俺よりスコア下なのに味方に文句言わないで。レオナ使ってそのキル数も中々どうかと思いますよ」
『はぁっ?! うるs……』
レオナが反論しようとした瞬間にマッチが終わりVCも切れ面白い感じになってしまった。
『……ラギくん、最高ッ!』
そう言ってあきななは声高らかに「あはは」と笑い元気を取り戻していた。そもそもそんなに落ち込んでなさそうな感じではあったけど。
【VC切れるタイミングw】
【レオナ何も言えず】
【レオナダサ過ぎで草】
【ラギくんよく言った】
『やっぱりラギくん誘ってよかった~! こういうのがあるから1人嫌なんだよねぇ』
「なるほどね、俺も1人でやると萎える時しょっちゅうあるわ」
『だよねぇ、よし次いこう。次は絶対変な奴らが来ても負けない!!』
「程々にね……」
なんでそんな意気込みでやれんだよ……そのメンタル欲しい。
あきななのつよつよメンタルがあれば1人でも絶対プレイ出来たのでは? と少し疑問に思ったが、ゲームは人とやった方が楽しいかという結論に至った。
『ラギくんは普段なんのロール使ってるの?』
「メインはデュエリストだね。でも人とやる時とかは合わせるよ」
『あー! あれだフレックスってやつだ! すご!』
デュエリスト、センチネル、サポート、コントロール、と4つの大まかな役割に分かれている。
それぞれのロールにキャラが何体かおり、それぞれ違ったスキルを使って戦うのだ。
だがロール毎に違うプレイスタイルをしないといけないので結構大変だ。サポートなのにデュエリストみたいな動きをしたらトロールみたいになってしまったりする。
結構頭を使ったり心理戦があったりするゲームなのだが、俺は脳死で凸ってエイムで破壊したりすればいいデュエリストが好きだ。
なんだかんだ一番楽で楽しいし、一番ランクが上がりやすいロールでもある。
『私もフレックス目指そ……』
「じゃあキャラ毎の強いスキルの使い方とか色々覚えないとだ?」
面倒くさいけどやるの? という意を込めて少し意地悪めに問いかけると『う、確かに……』と顔をしかめてそうだった。
『まぁ、やってったら覚えるし慣れるっしょ!』
「それはそうだね頑張れ」
『めちゃ棒読みじゃん! もっと気持ち込めてよ?!』
「がんばれがんばれ♡」
『きっしょ』
「おい」
俺が出せる精一杯の高くて可愛い声を出したら息つく暇もなく罵られた。ちゃんと気持ち込めるという注文通りにやったのに。
「可愛いだろ!」
『どこが?!』
【ラギ可愛い】
【可愛い、もっと言って】
『なんでコメントは可愛いとか言ってるの?! 耳大丈夫っ!?』
「なんだよ、そんな言うならあきなながお手本みせてよ」
『ふっ任せてよ』
あきななは自信満々にそう言うと、咳払いしてチューニングし少しマイクに近づけて囁く。
『がんばれがんばれおにぃちゃんっ♡』
「……………」
くっそ可愛い……滅茶苦茶耳が幸せだ。ヘッドホンだから耳元で囁かれているかのような感覚に陥る。
萌え声だけかと思ったら、まさかのロリボイスでお兄ちゃんというセリフまでついてきた。お金を払いたいくらいのボイスで思わず狼狽えて声を発する事が出来なかった。
それはあきななのリスナーも同じなのか一瞬時が止まってるように感じた。
『あ、あれ? ど、どうだった?』
誰からも反応がなかったからか自信満々な様子はどこへやら。今は恥ずかしそうにモゴモゴしながら感想を求めてくる。
『え? あぁ……まぁいいんじゃないすかね? ははっ』
ここはあえて褒めないしデレないでおこう。スカして別に可愛いとか思ってないぞのスタンスで行くことにした。
【きっっっつ】
【無理すんなって……】
【お、おう……】
俺の意図を察したのか有能なあきななリスナーはそれに乗っかってきた。ここで褒めまくったり正直な感想を言ったら絶対恥ずかしがって、二度としてくれなくなる可能性がある。それを考慮してなんともない風にする。そうすることでまたしてくれるかもしれない可能性を残すのだ。
まぁあきななは調子に乗るタイプっぽいから正直な感想を伝えても自分から積極的にしそうな感じはするが……。
今回はこのロリ声を出すことで笑いが取れるという感覚があきななに身に付いたはずだ。だから笑いを取ろうとして気軽にまたしてくれるかもしれない。
それにしてもあきななのリスナーと俺の相性良くないか? お前も俺のリスナーにならないか?
『そ、そんなにダメだった?! 恥ずかしかったけど頑張ったのに……』
しょんぼりと落ち込んでいる様子を見せられると少し心が痛む。
俺はその痛みに耐えられず、あきななを落ち込ませないように正直な感想を述べるが、それが直ぐに間違いだったと思い知らされた。
「可愛かったよ」
『やっぱりそうだよねー! 私可愛いもんねー! ダメだよラギくん私の虜になったら』
「うっざ」
どうやら落ち込んでいたのは演技だったらしくまんまと騙され俺は可愛いとか言ってしまった。
くそ、こいつ元気でアホなタイプかと思ってたのに以外と色々考えてるタイプか……。
【ラギ……】
【ラギ期待してたのにやっぱり騙されちゃうか……】
コメントで小馬鹿にもされたがこういうキャラだからコメントもあのノリだったんだろう。そのことに気付けなかった事が敗因だ。
あきななへの印象を改めることにして、これからは容易に騙されないように気を付けようと決めた。
というか、こっちからからかってやるか。
その後はトキシックやらトロールやらとはマッチすることはなく、純粋に楽しくゲームをすることができた。
『うりゃぁぁぁ!』
『おわぁっぁぁ!』
『ちょっラギくんラギくん助けてっ』
やってて思ったのはあきななは凄くリアクションがいい。うるさいくらいに。
でもこういうのがファンがつく理由でもあるんだろうな。
今度ホラゲーやってみて欲しいと個人的に思った。




