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第11話 心の内

 時刻ももうすぐ0時を回ろうとしていて、俺達は明日も学校だしそろそろ終わろうかという事になりゲームを終える。


『今日はありがと、息抜きできたし楽しかった』


「うん、こちらこそありがとう。俺も楽しかったよ」





「『…………』」





 急に訪れる静寂、通話を切る絶好のタイミングではあったのだがお互いに切ろうとしない。


 俺は今日聞こうと思っても中々切り出せないでいたことを口にしようと乾いた喉を潤し息を吸って口を開く。


「……あのさ、あんだけバズった後って配信しずらくない?」


『わ、分かるッ! やっぱラギくんもそうだよね』


 あきななも同じことを思っていたのか食い気味に同感してきた。


『私も今日そのことが話したかったんだよね……』


 先程の間はお互いにいつどうやって切り出そうか切り出さないか迷った結果生まれた間だったらしい。


『やっぱりさ、あれだけバズったらなんか皆の期待に応えられるのかとか、落胆されたらどうしようとかリスナーさんが離れて行っちゃったらって考えると怖いんだよね』


 ポツリポツリと呟く七月さんの声は、いつもの元気で自信に溢れたものとは真逆の弱々しいものだった。


『私ってほら、ずっと面白い訳でもないから動画を見て来てくれた人にはガッカリされちゃうんじゃないかって思ってさ。それにゲームも上手じゃないし……』


 どんどんとネガティブな方向に思考が向かっている。


 今日の朝教室で目が合ったりサムズアップし合ったりしていたから、まさかこんなに悩んでいるとは思っていなかった。

 それに七月さんみたいな人は、失礼だがあんまりそんなことまで気にしないと思っていた。

 けど蓋を開けてみればそれは誤解で、逆に人より繊細な女の子の一人だった。

 それを表には全然出さずに、元気に振舞っていたのかと思うと凄いな、強いなと思ってしまう。


『今日はさ、本当は配信しようと思ってたの。今までの常連リスナーさんとか待ってくれてる人もいると思ったからさ』


「……うん」


 俺は七月さんが話している間、相槌を打つことしかしなかった。


『……でもね、いざ配信開始のボタンを押そうとすると身体と声が震えてさ、ダメだった……。もっと上を目指すならこんなの慣れないといけないのにね……』


『私ダメだね……』と自嘲気味に笑う七月さんは今にでも消えてしまいそうだった。かと思うと急に声が明るくなって『ごめんねこんなの聞かせちゃって。今のなし! 聞かなかったことにして!』と無理して笑ってきた。


「全然そんなことないよ。話してくれてありがとね」


 俺はそこでようやく口をいて七月さんに俺の考えを伝える。


「そんなにバズってない俺ですら配信するの怖いのに、もっとバズってる七月さんが怖いはずないよ。それは当たり前だと思う。でもね七月さん、俺はそんなに考え過ぎなくていいと思うよ。七月さんは今まで通りのあきななで配信すればいい。例え面白くなくてもゲームが上手くなくても、あきななは可愛いし、リアクションもいいから大丈夫だよ』


『そ、そうかなぁ……』


 いつもの七月さんだったら俺がこんなに褒めたら絶対調子に乗ってからかってきたりするのだが、少し照れくさそうな声がヘッドホン越しに聞こえてくる。


「うん、それに今まで見てくれてたリスナーさんはあきななの事きっと待ってるよ。バズった動画で知ってくれた人がこれからあきななのファンになるかどうかは正直分からないし、全員は無理だと思う」


『うん』


 そして一泊置いて、俺が一番言いたいことを口にする。


「だから、今までのあきななでそれを好いてくれる人を大事にすればいいと思う。色んな人がいるからさ、合う合わないは絶対あるから」


『うんうん』と数回頷いて七月さんは自分の中で俺の言葉を嚙み砕く。


 伝えたいことを一気に言い過ぎたかもしれない、自分の考えを押し付けてしまってないか? と不安になる。


『うん、うん……そうだよね。今までの私でバズったんだから、自信持って今までのままで配信していいんだよね! そうじゃん、なんだ簡単な事じゃん。そっかぁ……』


 七月さんも自分の中で納得したのか声がどんどんと明るくなっていつもの元気な感じに戻っていく。


「まぁそれにアホっぽい言動するのも面白いし魅力的だよ」とからかうように言うと『おい、アホって言うな!』といつものツッコミが返ってきた。


 よかった。少しは元気づけられて。


『でも、ありがと』


 ふふっと笑い、お礼を述べてくる七月さんの声が脳に響く。


 後ろで手を組む七月さんが振り返った拍子に風で短い髪が靡き、目が隠れる。その隙間から目を細め優しい表情で微笑み、上目遣いで『ありがと』と俺に伝えてくる。

 気が付けばそんなワンシーンが頭に浮かんでくるような儚げで聴き惚れる声だった。





『……ぎくん? 柊くん聞いてる?』


「あ、ごめん。なに?」


『もー、何回も言わせないでよね』


「ごめん、聞いてなかった」


『だから、その……さ。やっぱりまだちょぴり怖いし緊張するからさ。……つ、次の配信また二人でやらない?』


 ネガティブな気持ちを取り除く事は出来たが、それでもやっぱり配信するときっと前よりも多くの人が配信を見に来て緊張するだろう。


 だから、俺としても七月さんと一緒に配信できるなら一人の時より緊張しないし心強い。


 ありがたい申し出に「全然いいよ。やろう」と答えると七月さんは『やったぁ!』と喜ぶが嬉しいのは俺も同じだった。






 その後、いつどんなゲームをするかとか話し合いっているといつの間にか時刻は2時を回っていて俺達は急いで通話を終える。


『ほんとに今日はありがとね。おやすみ、また明日』


「うん、おやすみ」


 通話を終え、pcの電源を切るとベッドに倒れ込み「はぁぁぁ」と深く息を吐く。


 まさかあきなながあんなに繊細で一人で色々考えて抱え込む人だとは思ってなかったな。陽キャみたいな人ってそんな事気にしない人ばかりだと思ってたけど中には七月さんみたいな人もいるんだな。


 勝手に決めつけてしまうのはよくないと認識を改めることにした。


 それにしても慣れない事をしたからかなり疲れたな……。


 あれでよかったのかなと思いつつ、七月さんを慰められた事実が嬉しくもあった。


 明日も学校があるので目を瞑り寝ようとするが、七月さんのいつもとは違ったギャップのある落ち着いた声で言われた『ありがとう』が脳裏に焼き付いて離れない。




 寝られるか不安だったが、日中の体育で何回も全力ダッシュして疲れていたのが意外と直ぐに夢の中に入っていった。





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