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第5章 ― 欲望が目覚めるとき

翌日、大学の中庭は濃い霧に包まれていた。

厚いヴェールのように音を吸い込み、すべてを少しだけ親密で、秘密めいたものにしていた。

ナラと私はゆっくり歩いていた。

昨夜の記憶が、まだ肌の下で温かく燃えていた。

静かな部屋の中で、彼女はついに私に触れさせてくれた。

私が望むように。

優しく。

でも、誰かの体の中に避難場所を見つけた者のような飢えをもって。

最初のキスは遠慮がちだった。

それから、少しずつ身を委ねるようになり、

甘く、求めるようで――

そして、心地よいほどに私のものだった。

「罪悪感はないの?」

ナラが尋ねた。

その声は低く、ほとんど霧にさらわれそうなささやきだった。

— 私が後悔できないのは知ってるでしょ。

— それに、私は必要だった。

私は彼女を見た。

— 何が気になるの?

彼女は顔を赤くして、自分の手を見つめた。

「あなたにキスするの、すごく気持ちいいの。

本当に好き。もっとしたい……」

彼女は笑いを隠そうとした。

「でも、昨日ベッドでやったこと……あれは恋人みたいだった」

少し恥ずかしそうに言った。

「キスして、抱きしめて、たくさん触れて……

あれは付き合ってるってことよ」

— 意図は違う。

私は彼女の顎にそっと触れ、顔を上げさせた。

— 恋人って呼びたければ、そう呼んでもいい。

私は静かに言った。

— 私はあなたを望んでいる。

— 私のものになってほしいし、私もあなたのものになりたい。

少し微笑んだ。

— 守りたい。包み込みたい。

— あなたは本当にきれい。素敵。

私は首を振った。

— でもこれは性的な欲望じゃない。

— そういう種類のものじゃない。

「じゃあ男の子にキスするときは?」

— それも違う。

私はため息をついた。

— セックスが何かは知ってる。

— でも、そういうふうに感じられるかは分からない。

ナラは小さく笑った。

「実はね……」

彼女は少し緊張した声で言った。

「あなたに言うのが怖かったの。

私、あなたに性的な欲望は感じない」

彼女は肩をすくめた。

「でも、それ以外は全部感じてる」

少し間を置いてから、いたずらっぽく笑った。

「でも……男の子なら、たぶん」

— ほら。

私は微笑んだ。

— 私たちの愛は違うんだ。

私は続けた。

— あなたにとっても。

— 私にとっても。

— でも私にとっては、全部同じ。

「でも混乱するのよ!」

彼女は顔を手で覆った。

「頭の中、あなたのことでいっぱい。

私、レズになっちゃう!」

私は笑った。

そして彼女の腕にそっと自分の腕を絡めた。

私は触れ合いが必要だった。

でも同時に、彼女に私の愛を感じてほしかった。

— あなたには彼氏を見つけよう。

— 私にも。

そのとき――

カズオが現れた。

一人だった。

いつもの不良仲間はいない。

有名で、反抗的で、生意気。

それでも私は知っていた。

彼の本質は、決して悪いものではないと。

「大丈夫か、ヨーコ?」

彼は少し不安そうに言った。

「体調が悪いって聞いた」

— もう大丈夫。

私は大きく微笑んだ。

その瞬間、隣でナラが不機嫌な顔をした。

「ごめん……」

カズオは急いで言った。

「本当に悪かった。

恨まないでくれ」

「バカね」

ナラがぶつぶつ言った。

「ヨーコは恨むって感情すら分からないのよ。

たぶん、その概念すら理解してない」

カズオは気まずそうに笑った。

私はその笑顔が好きだった。

私を見る彼の目も。

どこに手を置けばいいのか分からない様子も。

「えっと……ヨーコ」

彼は咳払いした。

「今度、俺と出かけない?」

— いいよ。

私は考えるより先に答えていた。

「だめ!」

ナラが叫んだ。

私を後ろに引っ張るほどの勢いで。

「この子は行かない!

帰りなさい!」

カズオは固まった。

でもナラは止まらなかった。

「この子は誰にでも“うん”って言うの!」

彼女は鋭く言った。

「罪悪感があるだけでしょ!

死ぬかもしれないって思って、謝りたくなったんでしょ!」

— ナラ。

私は静かに言った。

— 彼は私のことが好き。

私はカズオを見た。

— あの賭けの話だって、ただ私にキスする口実を作りたかっただけ。

— 緊張しすぎて、うまくいかなかっただけ。

私は優しく言った。

— そうでしょ、カズオ?

彼は真っ赤になった。

逃げようとしたその瞬間、

ナラが彼の腕をつかんだ。

「待って」

彼女は真剣な顔で言った。

「ヨーコには、あなたが必要なの」

カズオは動けなくなった。

そしてようやく、ぽつりとつぶやいた。

「まあ……その……君はきれいだし。魅力的だし。ここにいるみんなが君を好きだ」

彼は言葉を探すように少し黙った。

「問題は……君がちょっと……怖いっていうか。普通じゃないっていうか。だから、気になったんだ」

— 分かってる。

私は一歩、彼に近づいた。

— でもね、あなたは唯一の人だった。

— 私にキスするための言い訳を作った人。

私は静かに続けた。

— 他の人には、私のほうからキスした。

— それでも、あなたは……あんなふうにはキスしてこなかった。

私は彼にキスをした。

急がずに。

正しく。

私のやり方で。

彼が崩れていくのを感じた。

最初はためらいがちに。

でもすぐに――完全に。

まるで彼の体が、

自分が本当に望んでいたものを思い出したみたいに。

カズオは恋に落ちていた。

ただの好奇心じゃない。

— 私の恋人になる?

私はまっすぐに聞いた。

— 私は、私を愛してくれる人と結婚しなきゃいけない。

— そして、私と一緒にいてくれる人。

カズオの顔が真っ白になった。

本当に、文字通り真っ白だった。

そして――

彼は走って逃げた。

ナラが私に倒れ込んできた。

「ヨーコ!」

彼女は怒っていた。

「初デートで結婚の話する!?」

私はその場に座り込んだ。

少し落ち込んでいた。

— あなたは、すぐ私を愛してくれた。

ナラは赤くなった。

でも笑った。

「そんなにすぐじゃないわよ」

彼女は言った。

「あなたを理解するのに一年近くかかった。

あなたを、そのまま受け入れるまで」

私はため息をついた。

— もし彼が受け入れてくれたなら……

— 私はもう、ずっと前から彼を愛していたみたいに感じる。

少し間を置いて言った。

— 待つ必要がない人にとって、待つのは難しい。

「でもあなた、私のことは待ったじゃない」

ナラが言った。

それは――

ほとんど私を殺しかけた。

でも私は、それを口にしなかった。

私たちはまた歩き始めた。

そして――

何かが。

誰かが。

私の体を凍りつかせた。

廊下の向こうから、一組のカップルが歩いてきた。

手をつないで。

遠くにいるのに、衝撃は強烈だった。

少年は、圧倒的な存在感を持っていた。

その気配は痛いほどだった。

少女は、細い目と柔らかな笑顔をしていて、

息が止まりそうになるほどの何かを放っていた。

二人が、私を見た。

その瞬間――

私のすべてが震えた。

私は二人を欲した。

同時に。

私は目を閉じた。

その姿を頭の中に再現しようとして――

そして、できた。

同じオーラ。

同じ、あまりにも輝きすぎた目。

抑えられているようで、

でも抑えきれていない光。

兄妹?

違う。

恋人?

たぶん。

でも、それ以上の何かがあった。

ナラが不安そうに呼んだ。

「ヨーコ……」

彼女は驚いていた。

「今、目を閉じたまま見てたの?」

私はうなずいた。

まだぼんやりしていた。

— ナラ……

— 私、恋に落ちた。

「でも触れてないじゃない!」

— でも、触れたみたいだった。

チャイムが鳴った。

でも私の胸の中は戦場だった。

その日はずっと苦しかった。

そしてついに、私は爆発した。

— ナラ。

— 彼が誰なのか、知りたい。

ナラは落ち着かせようとした。

でも私は熱に浮かされたみたいだった。

愛しすぎた。

望みすぎた。

感じすぎた。

そして――

私たちが職員室で聞いた答えは、

氷水を浴びせられたようだった。

既婚。

私はその場に座り込んだ。

力が抜けていた。

— そんなはずない……

私はつぶやいた。

— こんな気持ち、初めてなのに。

— まるで、初めて誰かに支配されたみたい。

ナラは鼻をすすりながら、私の手を握った。

「ようこそ、普通の人間の世界へ」

彼女は言った。

彼女は私を抱きしめた。

私はゆっくり呼吸した。

彼女の体の温もりが、

胸の中の嵐を少しずつ静めていった。

しばらくして、彼女は小さくささやいた。

「月曜日に会えるわ」

「二人とも」

「フレデリックとゲータ」

彼女は首をかしげた。

「変な名前よね」

— フレデリック……

私は小さく言った。

— 「偉大な守護者」って意味。

ナラは驚いて私を見た。

彼女は私を元気づけようとした。

週末は海に行こうって。

少し頭を整理したほうがいいって。

でも最後に、彼女は私の額に自分の額を軽く当てて、

小さく告白した。

「……私、嫉妬してる」

私は微笑んだ。

愛しすぎることには、

いつも代償がある。

でも同時に――

それは中毒のような甘さを持っている。

その味を、

私だけが知っていた。



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