第2章 ― 命を支える抱擁
激しい雨が降っていた。
家の壁に打ちつける風の一つひとつが、これからまた一人で夜を迎えるのだという事実を、何度も思い出させた。
その重たい孤独は、私の視覚記憶の才能など何の慰めにもならなかった。
ほんの一瞬、まばたきをするだけで――
父の姿が完璧な形でよみがえる。
肘掛け椅子に座り、膝の上には母。
父は母に向かって笑っている。
ためらいもなく愛することを知っている人の笑顔だった。
その記憶はあまりにも鮮明で、胸が痛んだ。
ときどき私は分からなくなる。
それが記憶なのか。
それとも、幻なのか。
私は、三人で眠っていた寝室に入る勇気がなかった。
悲しみではない。
恐怖だった。
空虚への恐怖。
沈黙への恐怖。
かつて家だった場所が、ただの不在に変わってしまったことを確認してしまう恐怖。
あの部屋に戻ることは、
私がまだ受け入れていない終わりを、認めることになる。
それから数分後――
奇妙なことに、私は一人で笑いながら夕食の準備をしていた。
母の子どもっぽい仕草を思い出していたからだ。
母は何でも遊びにしてしまう人だった。
何でも笑ってしまう人だった。
この世界には軽すぎるほど、軽やかな人だった。
私たちが他の家族と違うのだと気づいたのは、学校に通い始めてからだった。
その無邪気な奇妙さが、私たち家族全体を包んでいたのだと、そのとき初めて理解した。
その日は、驚くほど実りの多い一日だった。
ナラはいつものように、私のために全力を尽くしてくれた。
私が必要としているものを補うために。
私はまだ弱っていた。
それでも、体のどこかで何かが少しずつ整い始めている気がした。
それなのに、胸の奥では鈍い痛みが脈打っていた。
名前のない不快感。
私は味もほとんど感じないまま食事を飲み込み、
疲れ切った体で椅子に座った。
そして、孤独への恐怖が私を包み込んだ。
眠れるのは、きっと心臓が諦めたときだけだろう。
その前に意識を失うかもしれない。
けれど、ここには誰もいない。
助けもない。
結末は同じだ。
私はここで死ぬ。
誰にも知られずに。
私の年齢にはあまりにも重すぎる沈黙の中で。
残された方法は一つだけだった。
助けを求めること。
ナラから連絡はなかった。
雨も弱まる気配がない。
私は、父方の祖父母の家へ向かう夜行列車に乗ることを考えていた。
もう一晩、眠らずに過ごすことはできない。
不規則に打つ心臓が、それをはっきりと示していた。
私はすでに限界を越えていた。
だが――
決断する前に、誰かがドアを叩いた。
「川浦さん!」
私は驚いて声を上げた。
「どうぞ、入ってください」
ナラの父は中年の男性だった。
白髪はまだなく、いつも穏やかで礼儀正しい人。
彼とはあまり話したことはなかった。
それでも、彼の優しさは感じ取っていた。
雨に濡れた傘から水を滴らせながら、息を切らして立っている彼の姿を見た瞬間――
私は、久しぶりに希望を感じた。
ナラは約束を守ってくれた。
もしかしたら私は死なない。
少なくとも、今日ではない。
彼は落ち着いているふりをしていた。
でも私は気づいていた。
――文字通り、聞こえていたから。
彼の心臓は速く打っていた。
これは誇張ではない。
人間らしい感情は、私の中では限られていた。
ときには混乱することもある。
でも、私の感覚は違った。
強すぎるほど鋭かった。
私たちはそのことを大げさに話したことはない。
誰にでも、少し変わったところはあるものだ。
そして私のそれは、医者たちにはよく知られていた。
ある医者の言葉を、私は今でも忘れられない。
「この子は人間じゃない。神経の構造がまるで違う。こんなものが生きているはずがない」
――今でも胸が痛む。
この人はどう思うのだろう。
私がどれほど普通ではないかを知ったとき。
私を愛されるべき存在として見るのか。
それとも、奇妙な生き物として見るのか。
「ナラから聞いたよ」
彼は真剣な声で言った。
「どうぞ、座ってください」
私はソファを示した。
でも彼は座らなかった。
ゆっくり近づいてきて、私の額に触れた。
予想していなかった。
私にとって触れることは、いつも愛情の言葉だった。
だから私の体は、その優しさに同じ強さで反応した。
必死に普通を装いながら。
「顔色が悪いな……でも熱はないようだ」
「弱っているだけです」
私は足が崩れそうになりながら椅子に座った。
かなり状態が悪いのだろう。
私の体が本能的に求め始めるときは
肌は赤くなり、
目は輝き、
自然と笑顔が浮かぶ。
最後に笑ったのがいつだったか、もう思い出せなかった。
彼はようやく腰を下ろし、慎重に私を見つめた。
「君の病気は珍しい……いや、おそらく唯一のものだろう」
彼は言った。
「校長先生が確認してくれて、やっと信じられたよ」
彼は少し苦笑した。
「人に触れられるとアレルギーが出る人の話は聞いたことがある。だが、愛情が足りないと体が弱るなんていうのは初めてだ」
「アレルギー……?」
私は首をかしげた。
「名前をつけないといけないからね」
彼は軽く笑った。
私は弱々しく笑い返した。
「ナラは言っていたよ。君には結婚相手が必要だって」
彼は続けた。
「これほど綺麗な女の子なら、結婚相手を見つけるのは難しくないだろう」
「私たちもそう思っていました」
私は静かに答えた。
「本当に私を愛してくれて……長い時間、私と一緒にいてくれる人なら」
彼は少し考えてから言った。
「でも君に必要なのは、夫ではなく――家族だ」
彼はまっすぐ私を見た。
「まだ生きている親戚はいるのかい?」
その質問は、まるで刃のようだった。
— 父方の祖父母だけです。
— きっと私を引き取ってくれると思います。でも……この病気は理解できないでしょう。
— きっと、耐えられないと思います。
「つまり、君は接触が必要なんだね?」
— 接触だけじゃありません……
私は静かに言った。
— 私は、愛が必要なんです。
この言葉を、私はこれまで何度口にしただろう。
千回?
それとも一万回?
でも、そのとき初めてだった。
笑顔もなく。
甘さもなく。
誰かの感情を動かそうとする意図もなく。
ただ、痛みだけがあった。
「子どもからそんな言葉を聞くのは、奇妙だな……」
彼は小さくつぶやいた。
— 母も同じ問題を抱えていました。
— そして、それが母を殺したんです。
そのあとに訪れた沈黙は、長く、重かった。
彼は家の中を見回していた。
すべてを理解しようとしているようだった。
私は涙をこらえながら、
そして――無理やり微笑んだ。
それは癖だった。
生き残るための技術。
人は、笑う人を好む。
そして私は、人がいなければ生きていけない。
ただ一つ怖かったのは――
愛されれば愛されるほど、
体がさらに愛を求めるようになること。
まるで、心の中の幸福が大きくなるほど、
必要もまた増えていくかのように。
「君の祖父母には、私から連絡を取る」
彼は言った。
「君の後見について相談しよう」
私は、ほとんど崩れ落ちそうになった。
どうやって耐えたのか、自分でも分からない。
本能が爆発していた。
抱きつきたい。
泣きたい。
懇願したい。
でも私は正確でいなければならなかった。
ほんの少しでも感情を溢れさせれば、
すべてが壊れてしまうかもしれない。
あの瞬間の私は、
水を一滴ずつ与えられる渇いた人間だった。
— ありがとうございます……
私はかすれた声で言った。
— 私にもう一度、生きる機会をくださっているんですね。
彼は深く息をついた。
「この状況が、どれほど普通ではないか分かっているのかい?」
私は笑った。
彼は本当に分かっていなかった。
そして、私自身も。
この家族に、私がどんな影響を与えることになるのか。
そのときの私は、まだ知らなかった。
気づかないまま――
彼らは大きな選択の自由を手放そうとしていた。
彼も一緒に笑った。
「校長先生が君の心理記録を見せてくれたよ。養子にすることを決めたときにね」
彼は続けた。
「平均を大きく超える知能。
驚異的な記憶力。
高い社交性。
極端な愛情欠乏。
嘘をつくことができない……」
彼は少し間を置いた。
「……その他いろいろ」
— そこまで研究されていたなんて、知りませんでした……
「嘘がつけないっていうところかい?」
— できないんです。
— たとえ、試しても。
彼は興味深そうに笑った。
「君は本当に不思議な子だ」
彼は知っていた。
それでも――
彼は選んだ。
— ご迷惑をかけたくありません……
私は小さく言った。
— 病気の人間の世話は、決して簡単ではありません。
「君は手のかからない子だと聞いているよ」
— そんなことありません。
私は首を振った。
— 私はたくさん抱きしめてもらう必要があります。
— そばにいてくれる人が必要です。
— ずっと一緒にいてくれる人が。
私は静かに言った。
— 愛には、手間がかかるんです。
彼は目を伏せ、少し疲れたように笑った。
「ときどき人生は、終わりのない競争のようになる」
彼は言った。
「そして、家族と過ごす時間を忘れてしまう」
彼は続けた。
「でもナラが、私たちをソファへ引っ張っていくようになったんだ。
ベッドにもね。
ただ一緒に座って、話すために」
「小さなことだった。
でもそれが、この一年で少しずつ大きくなった」
彼は私を見た。
「今では、それが私たちには必要な時間になっている」
そして、穏やかに言った。
「その変化のきっかけは、君だと分かっている」
彼は軽く頭を下げた。
「ありがとう」
気がついたとき、
私は彼を抱きしめていた。
涙が止まらなかった。
慌てて離れた。
恥ずかしかった。
でも彼の目も、少し潤んでいた。
その日まで、私は想像したこともなかった。
私が必要としている愛が、
他の人を変えることがあるなんて。
私は自分のやり方を知っていた。
生き延びるために、絆を作る。
でもそれが――
誰かにとって良いものになるなんて。
それは、新しい発見だった。
「君について、私が知っておくべきことは?」
彼は尋ねた。
— 隠していることは何もありません。
— 私はとてもくっつきたがりです。
— 私を愛してくれる人に抱きしめられて眠る必要があります。
— 必要なものを得るためなら、どんな努力もします。
私は続けた。
— 誰かに害を与えることはできません。
— それを考えることすらできない。
少し考えてから言った。
— 人間の感情の多くは理解できません……
— でも、幸せとは何かは知っています。
「ナラが言っていたよ。君と話すのが難しい話題もあるって」
— 寒さを感じたことのない人に、
— 「寒い?」と聞くようなものです。
「ナラは君のことがとても好きだ」
— 私は彼女を愛しています。
— 彼女は私と一緒に寝るって言ってくれました。
「私の娘を愛しているのかい?」
— とても愛しています。
彼の表情が少し曇った。
その理由は、すぐに分かった。
— そういう意味ではありません……
私は急いで言った。
— 家族の愛です。
— 私はそれ以外の形で恋をしたことがないので、比べられないだけです。
彼は安心したように笑い、
軽くうなずいた。
それはほとんど――
静かな許可のようだった。
「結婚相手を急いで探す必要はない」
彼は言った。
「君が必要とするバランスを、私たちで一緒に見つけよう」
「校長先生が言っていたよ。
みんな君のことが好きだが、君が必要としているものを与えるのが怖いんだそうだ」
— 人は、違うものを恐れます。
私は言った。
— でも、それでも愛する勇気を持つ人もいます。
私は彼を見た。
— あなたとナラのように。
彼は静かにうなずいた。
そして、はっきりと言った。
「君は愛が足りなくて死ぬことはない」
彼は立ち上がった。
「荷物をまとめておいで」




