第16章 ― 愛の代償
公園へ向かう途中、私は既知宇宙について教えられた。
そこは二十二の惑星と六つの種族によって構成されており、地球はまだその宇宙に属していないという。理由は単純だった――人類がまだ十分に進化していないからだ。
しかし私を最も魅了したのは、ミレナ・リーベという存在だった。
彼女はゼラントと呼ばれる種族と心を結びつけたことで、宇宙中から崇敬されている存在だという。彼女が放ったのは、ただの純粋な愛ではなかった。
どの種族にも存在しなかった能力――完全な自己の献身。それを彼女は示したのだ。
やがて私たちは公園の人の少ない場所に着いた。
アニーニャは、彼女専用の観測者に守られながら空中を飛び回り、フォフィーニョと手をつないで遊んでいた。
茂みの後ろに消えたかと思うと、すぐ別の場所から現れる。二人はずっと笑っていて、まるで愛そのもののような時間を過ごしていた。
「アニーニャ、あなたたちの恋愛ってどんな感じなの?」
私は興味を抑えきれずに尋ねた。
「私たちはずーっと恋人同士みたいなものよ!」
彼女は笑った。
「セクヴェンスは毎朝、目を覚ました瞬間からパートナーに恋してる。でも私たちは少し違うの。目覚めてから、恋を思い出すまで数分かかるのよ。」
肩をすくめた。
「だから、その前にパートナーを変えるの!」
ナラが驚いた。
「毎日、起きた瞬間に恋してるの?」
「そうよ!だから同じ相手にまた恋しちゃう前に、先にパートナーを変えるの。」
アニーニャは少し考えてから笑った。
「でもそれも悪くないけどね!」
そのときフォフィーニョが彼女の手を引いた。
アニーニャは少し赤くなった。
「ちょっと待っててね、女の子たち。すぐ戻るから!」
そう言って消えたが、すぐ戻ってきた。
「やっぱり“すぐ”じゃないわ。もう少し時間かかる。」
顔を赤らめたまま笑い、フォフィーニョと一緒に近くの木の枝の中へ消えていった。
ナラはその様子を見て、少し恥ずかしそうに微笑んだ。
でも彼女の笑顔はいつも、静かな誘いのようだった。
私は隣に座り、彼女の目を見つめてキスした。
ナラはすぐに私を抱きしめた。
温かくて、安心していて、そしてとても美しかった。
そのとき、背後から声がした。
「とても美しい。興味深いわ。」
振り向くと、そこにはゲータとフレデリックが立っていた。
驚いて、私たちは少し恥ずかしくなった。
そして芝生の上に移動し、二人と一緒に座った。
ゲータがナラに話しかけた。
「ナラ、あなたたちにとって私たちの関係は理解しにくいでしょう。」
彼女は続けた。
「私たちの愛は、共感、優しさ、深い愛情でできている。人間の濃密な恋愛に似ている。でも――」
少し微笑んだ。
「肉体ではなく、精神の結びつきなの。」
ナラは静かに答えた。
「たぶん……ヨーコを家族として見ているからかもしれません。
それに、彼女が何を必要としているか知っているから。」
ゲータは満足そうにうなずいた。
「あなたは二つの愛の形を自然に区別した。
私たちはあなたがユナイドではないかと思ったほどよ。」
私は尋ねた。
「どうやってユナイドかどうか判断するの?」
「DNAよ。」
ゲータが答えた。
「ナラ、あなたのDNAはユナイドではない。」
彼女は続けた。
「でもヨーコのそばで長く過ごしたことで、あなたの限界が変わったのかもしれない。」
ナラは肩をすくめた。
「私たちはいつも触れ合っていました。
抱き合ったり、遊んだり。普通のことです。」
彼女は言った。
「ヨーコがもっと愛情を必要としているからといって、そこに欲望があるとは限らない。」
ゲータは少し首を傾けた。
「それでも私たちはあなたを観察していた。」
彼女は説明した。
「人には境界がある。その境界を越えると、性的欲求が生まれる。」
彼女は私を見た。
「ヨーコの場合、それには深い精神的なつながりが必要。」
そしてナラを見つめた。
「あなたはその境界を制御した。
それはとても珍しい。とても美しいこと。」
私は胸がいっぱいになった。
「ナラのおかげで私は生きてる。
彼女は特別なんです。」
そう言ったあと、私は少し迷ってから言った。
「でも……私はフレデリックに欲望を感じました。
つながりなんてなくても。」
「それは“目”のせいよ。」
ゲータが説明した。
「私たちはあなたとナラを愛している。
だから、そのつながりは本能的に生まれるの。」
彼女は続けた。
「ほんのわずかな結びつきでも、反応を引き起こすのよ。」
そう言いながら、ゲータはナラの髪にそっと触れた。
あまりにも親密で優しい仕草だったので、ナラは思わず息を止めた。
そしてゲータは静かに言った。
「残念だけれど……あなたは私たちと来たあと、苦しむことになるわ。」
私は無事だった。
でもナラは立っているのがやっとだった。
私を救ってくれる愛は――
同時に、私を支えようとする人を消耗させていた。
「苦しむって?」
ナラが目を大きくした。
彼女は小さな声で言った。
「……私は変わりたくない。」
自分の言葉を聞くのが怖いようだった。
「もし“私”じゃなくなったらどうするの?」
ゲータは首を振った。
「私たちはそれを望んでいない。」
彼女は説明した。
「アンテアでは、あなたとご両親はまずユナイドに変化する。」
「そして数年間、その状態のままで過ごす。」
彼女は続けた。
「その間、あなたたちはゼラントの船で暮らすことになる。」
「あなたたちの心はまだ準備ができていないから、私たちと一緒には住めない。」
少し微笑んだ。
「私たちは、あなたたちを近くに置きすぎる誘惑に耐えられない。」
ナラの喉が動いた。
「あなたは孤独を感じるわ。」
ナラは唾を飲み込んだ。
「でも……そのあと私はセクヴェンスになるんでしょう?」
ゲータはうなずいた。
「もちろん。」
「あなたは私たちのものだから。」
ナラは弱く笑った。
「恋人がいなくてもいい。」
彼女は言った。
「不死になれるなら……」
その笑顔は fragile だった。
期待と不安が混ざっていた。
でも指は震えていた。
勇気には代償がある。
「パートナーなし?
それは不可能よ!」
ゲータが言った。
「あなたをパートナーなしにはしない。」
ナラは困惑した。
「でも……あなたたちの星には、私みたいな人はいないって言ったじゃない。」
ゲータは答えた。
「ミレナがあなたのためにセクヴェンスのカップルを選ぶ。」
「ユナイドの間は、恋愛の結びつきには限界がある。」
彼女は説明した。
「短い時間なら一緒にいられるけれど、何日か離れて過ごすこともできる。」
少し笑った。
「私たちセクヴェンスにとって、それは拷問よ。」
「パートナーなしで一日過ごすなんて、生死の問題。」
「でもあなたは、セクヴェンスになるまでは大丈夫。」
ナラは青ざめた。
「私も……結婚するの?!」
「もちろん。」
ゲータは自然に答えた。
「その二人はあなたのものになる。」
「そしてあなたを、まるであなたがすでにセクヴェンスであるかのように愛する。」
彼女は続けた。
「でも性行為はない。」
「それはポンファーのあと。」
微笑んだ。
「そのほうがずっといい。」
ナラは小さくつぶやいた。
「……私は自分で結婚相手を選ぶと思ってた。」
ゲータは優しく言った。
「選ぶことはできるわ。」
「でも違いはない。」
彼女は肩をすくめた。
「私たちはみんな似ている。」
「どのカップルを選んでも、あなたは愛される。」
「そしてあなたも愛する。」
彼女は少し誇らしげに言った。
「あなたが今まで見た中で、一番美しい存在たちよ。」
ナラは弱く笑った。
「それ……本当に?」
「本当よ。」
ゲータは答えた。
ナラは少し沈黙してから言った。
「でも……その二人は苦しむんじゃない?」
ゲータは静かにうなずいた。
「そうなる。」
「私たちの種族があなたに向ける愛は、計り知れない。」
彼女は続けた。
「愛する者は、一緒にいたいと望む。」
「でも私たちの場合、それは望みではなく必要。」
そして言った。
「二十万のセクヴェンスが動くことになる。」
「あなたを手に入れるために。」
重い沈黙が落ちた。
ナラが震える声で言った。
「つまり……私があなたたちの一員になるには、
二十万人の愛が必要ってこと?」
ゲータは首を振った。
「あなたが知っているような限られた愛じゃない。」
彼女は静かに言った。
「セクヴェンスの愛。」
「理解を超えた力。」
少し微笑んだ。
「まるで胸の中で星が鼓動しているみたいなもの。」
ナラの目に涙が浮かんだ。
ゲータがすぐに近づいた。
「そこで止まりなさい。」
彼女の声は優しく、でも強かった。
「何よりも大切なのは――」
「あなたが私たちのそばにいること。」
「私たちはあなたを愛している。」
「それで十分よ。」
私はナラを抱きしめた。
彼女の心臓が揺れるのを感じた。
私は頬にキスした。
「私たちがあなたを愛しているなら、
あなたが愛するすべても愛する。」
そのとき、私の中に小さな不安が生まれた。
私はゲータを見た。
「ナラはパートナーと結びつけるのに……」
私は言った。
「どうして私はまだできないの?」
「私はユナイドなのに……」
「……なんて素敵なの。」
ゲータはそうつぶやき、私の目をまっすぐ見つめた。
彼女は視線をそらさなかった。深く、まっすぐに入り込んできた。
私は感じた。
彼女の中にある何かが、
私の中のもっと深い場所に触れたのを。
「あなたに夢中なの、愛しい人。」
ゲータは静かに言った。
「フレデリックも私も、あなたのものよ。」
彼女は続けた。
「この高いエネルギーに慣れるまで、数日かかるだけ。」
そして空を見上げた。
「観測者、再生剤を持ってきて。」
私の心臓が強く跳ねた。
彼女の言葉はまだ胸の中で燃えていた。
どうして同じ運命の中に、愛と痛みの両方が存在できるのだろう?
体はすでに反応していた。
でも心は――まだ追いつこうとしていた。
私は時間を稼ぐように尋ねた。
「どうして……あなたたちは人の目をまっすぐ見ないの?」
フレデリックが目の色を変えた。
茶色だった瞳が、
金属のような青い光へと変わる。
全身に震えが走った。
「これが私たちの本当の色。」
彼は言った。
「私たちの目は光とエネルギーを放つ。」
彼は続けた。
「それでほとんどの動物の心に触れられる。
人間も含めて。」
私は息を飲んだ。
「……もっと綺麗になった。」
思わずそう言ってしまった。
フレデリックは私にキスした。
体の奥まで反応した。
まるで私の心臓が、
私より先に彼を知っていたみたいだった。
彼は私が崩れ落ちる前に支えた。
ゲータが言った。
「あなたは生きるために、たくさん戦ってきた。」
その声は誇らしげだった。
私は答えた。
「私はただ……愛したいだけ。」
「そして愛するには、生きていなきゃいけない。」
でも――
私が知っていた人生は消えようとしていた。
それでも私は、
それを受け入れようとしていた。
ゲータは言った。
「あなたはこのままの姿でい続ける。」
「これから何千年も、私たちと共に。」
彼女は微笑んだ。
「あなたを守れることを誇りに思う。」
「そして、あなたに守られることも。」
フレデリックが静かに言った。
「私も同じだ。」
その声を聞くだけで、
胸が爆発しそうだった。
私は彼を見た。
「じゃあ……あなたはずっと私のもの?」
フレデリックは微笑んだ。
「あなたのもの。
そしてゲータのもの。」
少し間を置いて続けた。
「そして私たちの家族すべてのもの。」
「愛は巡るものだ。」
「分かち合うことを、あなたは学ぶ。」
私は小さく笑った。
「気にしない。」
「もし皆と愛し合えるなら……
パートナーには何が残るの?」
ゲータが答えた。
「ユニオンはすべてよ。」
「喜び。感情。生命。」
彼女は続けた。
「でも生命は増えなければならない。」
「だから情熱は、毎朝新しく生まれる。」
彼女は優しく言った。
「あなたは毎朝、私たちに恋して目覚める。」
「永遠に恋したまま!」
アニーニャが突然現れて叫んだ。
周囲のエネルギーが呼吸しているみたいだった。
彼女は笑いながら近づいた。
ゲータが静かに言った。
「ヨーコ、服を脱いで。」
私は慌てて言った。
「えっ?
いや、嫌!」
ゲータは優しく言った。
「愛しい人、あなたは私のもの。」
ナラは少しためらった。
唇を噛み、深く息を吸う。
そして小さくうなずいた。
「……私はいい。」
彼女は言った。
「あなたたちと一緒なら。」
空気が熱くなった。
私は震えた。
恐怖ではない。
これから起こることを、
心がすでに知っていたから。
ゲータが言った。
「観測者、私たちを隠して。」
青い球体が広がり、
私たちの周囲を包んだ。
外の世界は消えた。
ゲータは手にクリームを塗り、
私の服をゆっくり脱がせた。
彼女の触れ方は優しかった。
それは約束のようだった。
それは――生命だった。
彼女の肌の温かさが肩から広がり、
神経の一つ一つが初めて目覚めたようだった。
彼女の体が私に触れた。
肌と肌。
クリームを広げながら、
私の体のすべてが「生きている」と思い出していった。
そして――
もっと生きたい、と。
ナラにも同じことをした。
ナラは小さく息を漏らした。
必死に自分を保とうとしていた。
フレデリックはシャツを脱いだ。
ゲータはドレスを脱いだ。
そして――私たちは包み込まれた。
長い数分間。
キス。触れ合い。エネルギー。
そして、欲望。
私はすべてを望んだ。
彼らを望んだ。
私は――生きたかった。
やがてすべてが静まったとき、
私たちは半ば裸のまま芝生に横たわっていた。
まるで宇宙そのものが、
私たちと一緒に呼吸しているみたいだった。
アニーニャが私の胸の上に座った。
「再生剤を使っても、五分が限界だったね!」
彼女はからかうように言った。
「次は十分に挑戦してみよう!」
私は笑った。
疲れすぎて、まともに言い返す力もなかった。
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「このクリームの効果って、どのくらい続くの?」
私たちがようやく立ち上がれたとき、
私は少し挑発的に聞いた。
フレデリックが答えた。
「君には意識を保っていてほしいからね。」
私たちは猛烈にお腹が空いていた。
果物を次々と食べた。
フレデリックは満足そうにそれを見ていた。
そのあと、みんなで公園を歩いた。
空気が変わっていた。
重く、そして生きているような感覚。
周囲のエネルギーが、
何かを待っているようだった。
世界が息を止めているみたいに。
ただ――
それが何なのか、私だけが知らなかった。
遠くに二人の若者が現れた。
短い黒髪の青年。
長い茶色の髪の女性。
人間のように見える。
でも――違った。
アニーニャが言った。
「セクヴェンスよ。あなたに会いに来たの。」
ゲータが私の肩を掴み、
私と同じ呼吸をした。
「私たちは人類の進化には干渉しない。」
彼女は静かに言った。
「でも、そのあとなら……」
そして私を見つめた。
「誰だか分かる?」
私は首を振った。
呼吸が止まりそうだった。
ゲータは微笑んだ。
「あなたの本当の両親よ。」
「愛しい人。」
世界が止まった。
二人は近づいてきた。
若い顔。
でも――
その瞳は、記憶よりも前から私の中にあった。
彼らが私に触れた瞬間、
すべてが戻ってきた。
寒い夜。
抱きしめてくれる腕がないこと。
愛されないかもしれないという恐怖。
私は崩れ落ちた。
泣いた。
泣ききれなかったすべてを。
そして笑った。
本当は失われるべきではなかったものを
取り戻した人のように。
ナラが私を支えた。
そのあと、
私の育ての両親もすぐに来た。
みんなが同時に私を抱きしめようとした。
愛が多すぎた。
生命が多すぎた。
そして――初めて。
何も欠けていなかった。
私は完全だった。
そして――
私の新しい宇宙は、
今、始まったばかりだった。
終わり
◇ ◇ ◇
あとがき
もし愛が一つの命を救えるのなら――
きっと世界の運命さえ変えられる。
この物語はここで終わる。
でも、愛から生まれたものは
決して終わらない。
ただ、どこかで続いていくだけだ。
◇ ◇ ◇
謝辞
ただそばにいるだけで、
私たちを救ってくれる人がいる。
気づく前から、
私たちを支えてくれている愛がある。
この物語は、
そんな出会いの中から生まれた。
私が最も必要としていたときに
愛を与えてくれた人たちへ。
世界が揺らいだとき、
私を支えてくれた人たちへ。
そして――
去るほうが簡単だったとしても、
それでも残ってくれた人たちへ。
あなたたちは、
私のエネルギーです。
存在してくれて、
本当にありがとう。
◇ ◇ ◇
セクヴェンス宇宙
あなたが読んだ物語は、
一つの世界――
「セクヴェンス宇宙」の中に存在しています。
そこでは、愛は単なる比喩ではありません。
愛は構造です。
生物的であり、集合的であり、
そして意識を持つ力です。
『ヨーコの奇妙な愛』が描いているのは、
その宇宙のほんの一断面にすぎません。
それは、
孤立したまま生きる愛の姿。
均衡もなく、
支えもなく、
愛を支えるために必要な
「私たち」という存在もない状態です。
もしこの宇宙を
別の角度から知りたいと思ったなら、
次の作品から読むことができます。
『オス・ウニードス』
人類と、愛を基盤に社会を築いた文明との
最初の接触を描く物語。
セクヴェンス宇宙への入口です。
『ドナ ― 私の新しい世界』
一人の普通の人間が、
愛を選んだ社会の中で生きることになる物語。
そして、その選択の代償。
『ミレナ・リーベの日記 II ― アンテア』
セクヴェンスという種族が
どのようにして意識的に誕生したのか。
愛が本能から「意志」へと変わる瞬間。
『ヴィトリア年代記』
人類の過去。
暴力、恐怖、そして
この宇宙が必要とされた理由。
これらの物語は、
征服や戦争を語るものではありません。
語られるのは――
帰属、思いやり、喪失、選択、
そして愛です。
セクヴェンス宇宙は
ここから始まるわけでも、
ここで終わるわけでもありません。
ただ、
さまざまな声を通して
少しずつ姿を現していくだけです。
―― リチャード・リーベ
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