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黒髪の寵姫  獅子伯年代記Ⅰ    作者: vientoverde
第一章 姫君の護衛騎士

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道を逸れたら、小さな隠れ家

(あれだ――)


 イアルの視界の先に、見慣れた木立が現れた。


 今日はあえてアル湖沿いに遠回りをした。

本当なら館を出てすぐ大道に乗り、いつもしていたようにそのまま筋違の大辻まで進むのが一番早い。だが人目を憚って迂回路を取った。

 辻の端っこから分岐する便利な脇道からも、わざと逸れた。湖岸の港や船着き場へと繋がる側道の方は、最初から選んでいない。


(いつもなら、ボーッと眺めてられるんだけどな)


 常であれば、筋違の大辻はイアルの好きな場所だ。

用もないのに、非番の日にふらりと来たりする。


 領都の幹線道である大道や、辺境領内の主要公道が交差する辻である。

 領内各地への起点であり、そして領外へと至る分岐点。

東こそ農業地帯―丘陵地帯は葡萄畑、平地は麦畑―だが、やがては領境の森へと抜ける。

 北は旧街道へと続き、その先は山岳地帯。

数年前まで修道騎士団が常駐するドミネ教会領だったが、現在山岳地帯は自治領となっている。

 南に出れば、見渡す限りひまわり畑になる。その向こうは砂漠。砂漠のさらに向こうは別の国、南の大帝国である。

 そして西の果てには西海が広がっているのだ。陽光降り注ぐ海は、大陸西部に塩を授けてくれる。大陸最西端の海岸部は、お館様のご生母の出身地でもあった。

おかげで当地では、王家直轄の大塩湖の雪塩に頼る必要がない。


(ここからなら、何処へでも行ける――)


 そう考えると、筋違の辻を見ているだけでワクワクした。


 イアルはまだ辺境領の外へ出たことがない。

同期入団したイーサンやエヴァンはお館様のお供で公都へも行ったし、遣いに出されて度々遠方へも出掛けている。お館様の近習になれたこともそうだが、知らない土地へ行ける二人を、素直に羨ましいと思う。


(うん、どうにか陽がある内に着けたな)


 日没まではまだ少し間があった。まずは上出来、だ。


 木立を目印にさらに進むと、ようやく柵が見えた。

奥にはとある一軒家。指定された行先はあの家だ。


 パッと見、小綺麗な農家風。

しかし農家ではない。あくまで農家風なだけだ。住人からして農婦ではない。

佇まいこそ農家らしく見せてはいるが、実際には鶏の一羽も飼われてはいないのをイアルはよく知っていた。


(外見だけなら、見事に風景に溶け込んでるんだよな…)


 あらためて見ると、佇まいも意図的なこの家は、立地の方も実によく考えられていた。


 家自体が、あたかも湖岸の木立に抱かれるごとく巧妙に隠されている。

だから至近距離まで来なければ、家の存在に気付かない。

 家の方からは筋違の辻も側道も臨める。反面、辻を往来する馬や馬車からは家が見えない。ちょうど死角になる何とも巧妙な角度で、木々が遮っているのだ。

 だから来るべくして来る客にしかわからない。きっと知らない者は素通りしてしまうだろう。


 そのくせ、意外に便利な場所でもある。

筋違の大辻も程近く、うまく最短経路を使えば館からも領都の街からもそう遠くない。なのに、予めこの家の場所を承知していないと容易には辿り着けない。

誠に絶妙な位置だった。

 だからだろうか。お館様は内緒の客には館ではなくここで会うという。


 ――噂も案外、ガセではないのかも知れない。


 イアルは敷地に入る柵のところで馬を降りた。



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