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黒髪の寵姫  獅子伯年代記Ⅰ    作者: vientoverde
第二章 黒髪の姫君

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13/30

朝飯前 

(結局――あんまり寝られなかったな)


 翌早朝、イアルは寝不足の目をこすりながらラウルと家中の窓に呼子付きのロープを仕掛けた。


 明るくなるなりの作業は二人掛かり。よく開け閉めする台所の窓は夜だけ使う仕様にして、戸締りする時に引っ張るとロープが手繰れて機能するよう工夫した。

 外からは一見それとわからぬように仕上がった細工を確認して、ラウルだけが屋外へと去った。


 ラウルはまるで農民のような扮装で、目つきが悪い…もとい、鋭い以外は非常にそれらしく見える。

 イアルの方は、手伝いに来ている若い者風。

それぞれに担当する役回りも持ち場も分けてあった。イアルは主に家の中で護衛をするが、ラウルの受け持ちは家の外である。これからラウルは、ゼフィネさんの家の周囲でさりげなく畑仕事の振りなんかをしつつ、何食わぬ顔で外からの来訪者を警戒するのだ。


 昨夜はいつの間にか消えていたから、ラウルだけはたぶん姫君に正式な紹介をされていない。

 わざとだと思うが、イアルの食事時や休憩時にはラウルが庭先まで寄って来てお護りする段取りだ。そのうちどうしたって姫君と顔を合わせると思う。


(ラウルのオッサン、同じ敷地内の納屋に仮住まいするんだろ? 知らん顔する方がおかしいって)


 勝手知れた冬場の薪小屋兼納屋は、どうやらラウルが寝床に使うらしかった。

イアル同様、やはり昨夜から泊り込んだようだ。



「ご苦労様。さあ、たんと召し上がれ」


 姫君のお目覚め前に、イアルの朝食が先に出た。外のラウルには飲み物と一緒に持たせたから気にしないでと、ゼフィネさんは言った。


「ゆっくりお食べなさいな」


 そうは言われても早飯は騎士団、いや平騎士の身上である。決してイアルがガッツいている訳ではない。


「姫君は大分お疲れのはずだから、今朝はもう少し寝かせてさしあげましょう」


 あの姫君は何処から来たのだろう。そして何故ここに居るのだろう。

 一体、どこの、誰なのか。


「詮索するなよ」


 ついさっき、ラウルにもキツク念を押されたところだ。

騎士団長からは『身のためだ。多くは訊くな』と怖い顔で釘を差されたが、ラウルは少し違った。何だろう。あえて言えば、微妙な表情をしていた。


「どうせその内、嫌でもわかる」


 ラウルは溜息混じりの仏頂面でぼやいたのだった。


「せめてそれまでは知らんでおけ。ほんと、心臓に悪いからよ」



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