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黒髪の寵姫  獅子伯年代記Ⅰ    作者: vientoverde
未満の記録

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~年代記担当ダミアンの覚書~



 かの黒髪の姫君がいつ西の辺境領に来たのか、生前のエルンスト辺境伯家公式記録には正確な記述がない。  

 

 彼女が世を去り、さらに後に獅子伯殿も亡くなってその治世の年代記・第三十五代当主獅子伯編を編纂する段になり、ようやく私、年代記担当文官であるダミアンは、領境の砦番のごく私的な覚書に短い記述を見付けた。


『王国暦1409年9月2日 お館様が直々に非公式の客人をお連れになる』


 やはり前年には彼女は当地に来ていたのだ。晩夏の頃である。その事実や詳細な日付が、初めて明らかになった。


 さらに砦番は、彼女は『妙齢』の『処女(おとめ)』であると書き添えている。


『その処女(おとめ)は黒髪で、お館様はアイシャとお呼びになる』


 この箇所が、まさしく彼女であることを特定させた。記述は続く。


『迎賓棟に客間をご用意するも、その夜のうちにお館様のご寝所に召された』


 ごく簡潔なのだが、身内にしてみれば少々生々しい。


 それ故か、次代の息子達の判断で年代記への記載は見送られた。

 どこにも残らない記述になるので、万一を期してこの私、当代西の辺境領文官、エルンスト辺境伯家館書架棟統括責任者、文書係筆頭にして獅子伯殿の年代記担当ダミアンがこの備忘録に記しておく。


 覚書は数行で終わっていた。


『姫君は翌々日、秘密裏に何処かへ移られた』


 この聡明な黒髪の姫君、アイシャことアイリーシャ様がその後帰郷することはついぞなかった。


 彼女はこの辺境の地に骨を埋めたのだ。


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