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生き残った理由




 ――気を失っていた、のだろうか。

 それとも、眠っていた……?


 どくり、と。


 後頭部を刺すような痛みが、思考を現実へ引き戻した。

 思わず息を吸い、目を開く。


 木陰。

 森の外れ。

 その向こうに、街が見えた。


 ……外?


 体を起こそうとして、痛みに顔をしかめる。

 そして、視界に入ったのは――一人の男。


 古びた装備。

 地味な身なり。

 派手な武器も、目立つ杖も持たない。


 年だけ食った、冴えない冒険者。


 ……この人が?


「……死ななかったな。それで今日は十分だ」


 中年の男は、それだけを言った。

 感情の起伏もなく、淡々と。


「……ありがとう……」


 声が小さくなる。

 反射的に、頭を下げていた。


 その拍子に、自分の手元が目に入る。

 赤い。


 服も、手も、装備も。

 返り血だった。


 胸の奥が、ひくりと震えた。


 ――私、こんなに……。


 必死で、夢中で。

 自分がどうなっているかなんて、考える余裕もなかった。


 それでも――。


 戦った手応えは、確かにあった。

 ゴブリンは倒れた。逃げた。怖気づいていた。


 これから、もっと強くなれる。

 そんな確信が、胸の奥から湧いてくる。


 あのまま戦っていても、きっと――。


 立ち上がろうとした瞬間、

 ズキン、と太腿が悲鳴を上げた。


「――っ」


 膝が崩れ、ぺたんと地面に座り込む。


「足もやられてたのか?」


 男は短く言い、いつの間にか拾っていた枝を差し出した。

 手際よく添え木にし、布を巻いて固定する。


「立つんなら自分で立て。自分で生んだ痛みだ」


 冷たい。

 そう感じた。


「次は、そうならないように噛みしめるんだな」


 責めているわけではない。

 だが、慰めるつもりもない。


「……助けてくれて、ありがとう。私……リシュア」


 一瞬、言葉に詰まる。


「……リシュア・フェル……ううん、リシュア。今日、冒険者になったの」


「ああ……」


 男は頷きかけて、少し言葉を切った。


「……ん? そういえば、そのことだが……いや、俺が言うことでもないか」


 気になる言い方だった。


「あの……お名前、聞いても?」


「俺か?」


 男は、少しだけ間を置いて。


「ガルドだ。冒険者ランクはD」


 ……D?


 一瞬、拍子抜けした。


 もっと強い人なのかと思っていた。

 もっと高ランクで、歴戦で――。


 冒険者ランクは、S・A・B・C・D・E。

 Eが最底辺。初心者。

 Dは、その一つ上。


 中年で、Dランク。


 助けられたのは事実。

 でも――。


 この人に、教わる必要はない。


 私は、風の氏族。

 兄も姉も、もっと上へ行った。


 今はまだ、下にいるだけ。


 そう。

 今は、まだ。

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