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風の氏族の末娘は、冒険者を知らない  作者: 林檎野山
15話
77/84

白い主脈と青い刃

 


 しばらく森の縁を歩き回ったあと、私たちはようやく目当ての群生地を見つけた。



 木々の隙間から、やわらかな日差しが斜めに差し込んでいる。風が吹き下ろし、葉を揺らすたびに、鳥の風切り音がかすかに混じった。



「すごぉ、たくさん生えてる」



 エルネの声が弾む。


 私たちは顔を見合わせ、思わず小走りになった。



 草丈は膝下ほど。群れて生えているそれは、一見どれも同じに見える。けれど、違いは確かにある。



 しゃがみ込み、葉を一枚めくる。


 特徴は、問題ない。形も、葉の縁も。


 主脈の色は――


 白い。


 雪みたいに、すっと通った白。


「エルネさん、さっき収穫した薬草、見せてください」


「え? ちょっと待ってて」


 革袋をごそごそと探り、一本を取り出す。差し出されたそれの主脈は、間違いなく黄色だった。


「ここの線の色」


 指でなぞって示すと、エルネは目を細める。


「言われてみれば……でも、同じにしか見えないよ? じゃあ、これはなに? 薬草もどき?」


 そう言いながら、彼女は黄色い筋のあるほうをあっさりと地面に捨てた。


 私は白い主脈の株を指先でつまむ。


 これが本物。


 少しでも特徴が一致しないものは、取らない。毒があるかもしれない。それだけで、選別の意味は十分だった。


 覚えた。


 知識が一つ、体に根を張った気がする。


 胸の奥が、じんわりと温かくなった。


 ナイフを抜く。刃が日差しを受けて、青く光った。


 株元に刃を当て、力を込める。


 プツン。


 小さな抵抗と、断ち切る感触と草の汁が指に付き、手に残る。


 切り口を鼻先に寄せる。青臭い匂い。生の匂い。


 数本を刈り取り、ツタの切れ端でまとめ、束にする。それをエルネへ渡した。


「それもください」


「ん〜、これだけでいいかな?」


 彼女が刈り取った薬草を数え、また束ねる。一本、二本、三本。私は残りを持っていき、またまとめる。


「エルネさん、これくらいにしよう」


 必要以上に取らない。依頼は達成できる量だ。


 革袋にしまい込み、エルネが満足そうに息を吐く。


「これで終わりだね」


 頷いたとき、彼女の視線が私の手元に落ちた。


 じっと見ている?


「先輩、そのナイフ、触ってもいいですか?」


「いいですけど、返してくださいね」


 エルネは自分のナイフを鞘に収め、私のものを両手で受け取る。


 青い刀身が、きらりと陽光を弾いた。


「きれい……! これ、何でできてるの? 見たことない」


 掲げて、角度を変えて、じっと観察する。


 何でできているのか、私は知らない。冒険者になると決めたとき、記念に渡されたものだった。杖も、ポーチも、革装備も。あのときの一式。


「ねぇ、先輩、これ、私にください!」


 いたずらっぽく笑って、一歩引く。


 その瞬間、胸が冷えた。


「ダメ、返してください」


 少しだけ声が強くなったかもしれない。


 エルネはすぐに笑い、両手に乗せて差し出してくる。


「冗談だよ」


 私は受け取り、静かに鞘へ納めた。


 ミアレも、他のみんなも、ナイフは白い材質だった。よくある刃。けれど、私のだけ青い。


 前に杖をなくしたときのことを思い出す。店に売られていた。誰かにとって価値があると判断され、盗られ、換金された。


 このナイフも、そうなるかもしれない。


 同じ役割の道具のはずなのに、どこか違う。


 薄く、胸の奥に広がる感覚。


 これは、あまり人前に出してはいけないものなのではないか。


 理由は分からない。ただ、そう思った。


 森を抜ける風が、草を揺らす。


 足元の薬草は静かに揺れ、白い主脈が光を受けて浮かび上がる。


 私は鞘に触れて確かめながら、立ち上がった。


 今日の依頼は終わり。



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