白い主脈と青い刃
しばらく森の縁を歩き回ったあと、私たちはようやく目当ての群生地を見つけた。
木々の隙間から、やわらかな日差しが斜めに差し込んでいる。風が吹き下ろし、葉を揺らすたびに、鳥の風切り音がかすかに混じった。
「すごぉ、たくさん生えてる」
エルネの声が弾む。
私たちは顔を見合わせ、思わず小走りになった。
草丈は膝下ほど。群れて生えているそれは、一見どれも同じに見える。けれど、違いは確かにある。
しゃがみ込み、葉を一枚めくる。
特徴は、問題ない。形も、葉の縁も。
主脈の色は――
白い。
雪みたいに、すっと通った白。
「エルネさん、さっき収穫した薬草、見せてください」
「え? ちょっと待ってて」
革袋をごそごそと探り、一本を取り出す。差し出されたそれの主脈は、間違いなく黄色だった。
「ここの線の色」
指でなぞって示すと、エルネは目を細める。
「言われてみれば……でも、同じにしか見えないよ? じゃあ、これはなに? 薬草もどき?」
そう言いながら、彼女は黄色い筋のあるほうをあっさりと地面に捨てた。
私は白い主脈の株を指先でつまむ。
これが本物。
少しでも特徴が一致しないものは、取らない。毒があるかもしれない。それだけで、選別の意味は十分だった。
覚えた。
知識が一つ、体に根を張った気がする。
胸の奥が、じんわりと温かくなった。
ナイフを抜く。刃が日差しを受けて、青く光った。
株元に刃を当て、力を込める。
プツン。
小さな抵抗と、断ち切る感触と草の汁が指に付き、手に残る。
切り口を鼻先に寄せる。青臭い匂い。生の匂い。
数本を刈り取り、ツタの切れ端でまとめ、束にする。それをエルネへ渡した。
「それもください」
「ん〜、これだけでいいかな?」
彼女が刈り取った薬草を数え、また束ねる。一本、二本、三本。私は残りを持っていき、またまとめる。
「エルネさん、これくらいにしよう」
必要以上に取らない。依頼は達成できる量だ。
革袋にしまい込み、エルネが満足そうに息を吐く。
「これで終わりだね」
頷いたとき、彼女の視線が私の手元に落ちた。
じっと見ている?
「先輩、そのナイフ、触ってもいいですか?」
「いいですけど、返してくださいね」
エルネは自分のナイフを鞘に収め、私のものを両手で受け取る。
青い刀身が、きらりと陽光を弾いた。
「きれい……! これ、何でできてるの? 見たことない」
掲げて、角度を変えて、じっと観察する。
何でできているのか、私は知らない。冒険者になると決めたとき、記念に渡されたものだった。杖も、ポーチも、革装備も。あのときの一式。
「ねぇ、先輩、これ、私にください!」
いたずらっぽく笑って、一歩引く。
その瞬間、胸が冷えた。
「ダメ、返してください」
少しだけ声が強くなったかもしれない。
エルネはすぐに笑い、両手に乗せて差し出してくる。
「冗談だよ」
私は受け取り、静かに鞘へ納めた。
ミアレも、他のみんなも、ナイフは白い材質だった。よくある刃。けれど、私のだけ青い。
前に杖をなくしたときのことを思い出す。店に売られていた。誰かにとって価値があると判断され、盗られ、換金された。
このナイフも、そうなるかもしれない。
同じ役割の道具のはずなのに、どこか違う。
薄く、胸の奥に広がる感覚。
これは、あまり人前に出してはいけないものなのではないか。
理由は分からない。ただ、そう思った。
森を抜ける風が、草を揺らす。
足元の薬草は静かに揺れ、白い主脈が光を受けて浮かび上がる。
私は鞘に触れて確かめながら、立ち上がった。
今日の依頼は終わり。




