銅貨一枚の賭け
ガルド視点
木の皮を剥いで作った簡素なソリは、地面を擦るたびに乾いた音を立てる。紐を肩にかけ、重さを引き受ける。
二人分の体重は軽くはないが、背負うよりはましだ。
ついでだ。
薬草の採取の帰り道、転がっているのを見つけただけ。わざわざ助けに行ったわけじゃない。そういうことにしておくのが、いちばん楽だ。
街門をくぐり、石畳に入ると音が変わる。
ざり、がら、ガハッ、ゲヘッ。
後ろでうめき声が漏れた。生きている証拠だ。十分だろう。
冒険者ギルドの扉を足で押し開ける。
昼時のざわめきが一瞬だけ止まり、すぐに元へ戻る。誰も大袈裟に騒がない。見慣れている光景だからだ。
「また拾ってきたんですか、ガルドさん」
受付の女が顔を上げて言う。咎めるでもなく、呆れるでもない。親しげな、だが一線を越えない声色。
俺は肩をすくめる。
「道に落ちてた。邪魔だったからな」
「はいはい。医務室、空いてますよ。今日は運がいいですね」
運がいいのは、あんたらの方だろう。
口には出さない。
奥へ運び、医務係に引き渡す。
名前も聞かない。
聞いたところで、どうせ覚えない。
戻ると、いつもの連中がテーブルを囲んでいた。Cランクの顔馴染み。昼間から酒をあおる連中だ。俺を見ると、にやつく。
「お、帰ってきたな。今日は二人か」
「俺の勝ちだな。三枚」
「いや、まだだろ。片方は死にそうだぞ」
賭けだ。
俺が外に出た日、俺が誰かを連れて戻るか、それとも初心者が何事もなく帰ってくるか。くだらない遊びだが、やめる気もないらしい。
俺はカウンターに銅貨を一枚置く。
「今日も無事に帰る方だ」
「お前、それで当たったことあったか?」
「ないな」
笑いが起きる。
命を何だと思ってやがる、と口では言う。だが銅貨は置く。やめない。やめる理由もない。
水のジョッキを受け取り、喉へ流し込む。昼間から酒を飲むほど、暇でも偉くもない。
冷たい水が腹に落ちる感覚だけが、はっきりしている。
死なせない余地。
ふと、あの女の声が頭に浮かぶ。リュシアの姉か、セレナだったか。
半分は確認で、半分は脅しだ。――このギルドにいる限り、死なせるな。もし何かあれば、どうなるか分かっているな。
言外に含んだものは重い。だが間違ってはいない。
あの妹の方は、危なっかしい。真っ直ぐで、無知で、折れるまで止まらない類だ。
だが、隣にいた小娘は違った。おそらくは罠の結び、餌の撒き方、位置取り。慎重だった。死にに行く奴の手つきじゃない。
あれが知恵か、経験か、ただの性分か。断定はできない。
結局は勘だ。
勘で動いて、勘で生き延びてきた。二十年もやっていれば、理屈より先に足が止まる場所が分かる。
それでも外れる。だから銅貨はいつも負ける。
医務室の方で足音が慌ただしくなる。生きるか死ぬかの境目は、だいたいあの扉の向こうにある。
俺は二杯目の水を頼む。
まだ、駆け出すバカがいる限りは。
昼間の酒は、飲まないでおく。




