甘い果実
木の葉が擦れ合う音が、頭の上でやわらかく鳴っていた。
風が通るたびに枝が揺れ、光がまだらに地面へ落ちる。
私はミアレに誘われるまま、森の中を歩いていた。
目的地は、きのみのなる場所。
少し開けたところに出ると、そこだけぽつぽつと背の低い木が立っていて、枝先に小さな果実をつけていた。
「ベリーナッツ」
ミアレがそう言った。
赤と紫の実が、斑模様のように枝を彩っている。
宝石みたいに綺麗にも見えるし、どこか毒々しくも見えた。
森は静かだった。
けれどその静けさは、ふいに破られる。
ばさばさ、と忙しなく風を叩く音。
小鳥たちが一斉に枝から飛び立ち、羽根を一枚、二枚と残していく。
足元に視線を落とすと、こぼれた果実が転がっていた。
啄まれたのか、熟して落ちたのか分からない。
その中に、黒い粒のようなものが混じっている。
きのみにはない色。
丸くて、小さくて、硬そうなそれ。
けれど私は、特に気にしなかった。
「ねぇ、ミアレさん。この実って食べられるの?」
「うん、食べられるよ」
ミアレは慣れた手つきで実を摘み、かごへと放り込んでいく。
迷いがない。選び方も早い。
私はその様子を少し観察してから、真似をするように紫の実を指で摘んだ。
もぎ取った拍子に、枝がかすかに揺れる。
表面はつるりとしていて、指に吸い付くような弾力がある。
匂いはほとんどない。
でも、よく嗅げばほんのり甘い気がした。
私はそれを口に運ぶ。
歯で潰すと、果肉が弾けた。
果汁が舌の上に広がる。
強い主張はない。
少し酸っぱくて、ほんのり甘い。
素朴な味だった。
種のプチプチとした食感が、妙に心地いい。
悪くない。
今度は赤い実を口にする。
見た目ほどの違いはない。
ただ、少しだけ酸味が強い気がした。
「リュシアちゃんも手伝ってー」
「はーい」
木から木へと移動しながら、未熟な実は残して、熟れたものだけを選ぶ。
両腕いっぱいに抱えて、ミアレのかごへ落とす。
ころころと音を立てて、実が溜まっていく。
かごは思ったよりも早くいっぱいになった。
ミアレはそれを片手で抱え直し、中から一粒つまむ。
目を閉じて咀嚼する。
「ん〜……おいしい」
ほっと息をつくように笑って、私を見る。
視線が合った。
ミアレは少し首を傾げ、いたずらっぽく目を見開く。
「はい、あーん」
びっくりする間もなかった。
口を開けた瞬間、実が放り込まれる。
唇に、指先がかすかに触れた。
「おいしい?」
私は頷く。
かごの中の実を見る。
成果。
報酬。
その一部を、今こうして口にしている。
オークの肉を食べたときと、少し似ている。
達成したあとに口に入るものは、味以上の何かを持っている。
「ご褒美」
ぽつりと、言葉がこぼれた。
ミアレは聞き返さなかった。
ただ、私の様子をうかがうように、やわらかく微笑んでくれた。
森はまた静かになる。
風が葉を揺らす。
どこかで、草が小さく鳴った気がした。
けれど私は、かごの中の赤と紫だけを見ていた。
甘くて、酸っぱくて、素朴な味。




