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ご褒美の味



 パチリ、と焚き火が小さく弾けた。

 

 乾いた枝が火を食んで音を立て、橙色の火の粉が舞い上がる。四方に置かれた石の上に薄い鉄板が据えられ、その表面がじわじわと熱を帯びていくのが遠目にもわかった。



 ロニオの脇には、切り分けられたオークの肉が並んでいる。


 ステーキのように分厚い切り身と薄く削がれたもの。血の気は拭われているものの、生々しさはまだ残っていて、それがかえって「成果」なのだと実感させた。



 バルクが鉄板に手をかざし、指先で一瞬触れてすぐに引っ込める。



「あ〜、腹減った!なぁ、もういいんじゃないか?」



 その声を合図に、ロニオは脂身を一片つまみ、鉄板に擦りつけた。



 ジュッ、と小気味よい音が鳴り、白い煙が立ち上る。香りが一気に広がり、鼻の奥をくすぐった。



 ロニオは手際よく肉を三等分し、私とバルクへ差し出す。



 二人は慣れた様子でナイフを肉に突き立て、鉄板へ並べていく。


 私はそれを、ただ見つめていた。


 肉が焼ける音。


 じゅう、と脂が弾ける音と、香ばしい匂い。空腹を直接揺さぶるような刺激に、喉が自然と鳴る。



 生きているから、お腹が空く。


 当たり前のことなのに、今日ほどはっきりと実感したことはなかった。



「焼かねぇのか?」


 バルクが私を見る。


「ほら、これ貸すよ。お前の分だから、自分で焼けよ」


 半ば強引にナイフを握らされる。

 ナイフの重さを確かめるように握りしめた。


 私はぎこちなく肉を刺した。調理など、家でもほとんどしたことがない。


 二人の動きを見よう見まねで、そっと鉄板に乗せる。


 同じように、じゅう、と音が鳴った。それだけで少し嬉しくなる。


 もう一枚、さらにもう一枚と並べていく。



「おい、バルク!ちゃんと焼けてないだろ、それ。腹壊したら次の依頼受けられないぞ」



「ハグッ……んぐ……いーだろ、俺の肉なんだから。腹減ってんだよ」



 半ば生焼けの肉にかぶりつくバルクを見て、ロニオが呆れた声を出す。

 そのやり取りに、思わず口元が緩んだ。



 私はロニオが肉を転がすのを真似して、慎重に焼き色を確かめる。


 もういいのだろうか。バルクのは参考にならない。必然的にロニオの焼き具合ばかりを見比べることになる。



 意を決して、一切れをナイフに刺して口へ運んだ。



 最初は熱さで味がわからなかった。

 けれど、次の瞬間、はっきりとわかった。



 噛むと同時に、肉汁が溢れ出す。

 舌の上で弾けるように広がり、口の中いっぱいに旨味が満ちる。思わず目を見開いた。



 美味しい。


 何度も噛む。


 噛むたびに肉がほぐれ、じゅわりと汁が滲み出る。飲み込む瞬間、喉の奥まで温かさが落ちていく。



 これが、冒険者のご褒美。

 そう思うと、胸の奥がじんわりと熱くなる。


 姉様がこの食べ方を見たら、きっと眉をひそめるだろう。

 「はしたない」と言われるに違いない。


 ふふ、と小さく笑みがこぼれた。

 リュシアは悪い子です、なんて心の中で呟いてみる。


 そんなことを考えていると、


「おい、肉焦げてんぞ?リュシア、お前もしかして焼くの下手か?これもカリカリで美味いけどな」


 バルクの声に、はっと鉄板を見る。


「え? あ、私のお肉……あ、あぁ、わたしの……」


 情けない声が出た。

 本当に情けない。けれど、その焦げかけた肉に、私たちの頑張りや、今日一日の重みが詰まっている気がして、惜しくて仕方なかった。


 ロニオが苦笑しながら言う。


「厚いのは先に焼いた方がいい。焦げる前に中まで火が通るからな」


 言われた通り、分厚い肉を先に並べる。


 今度は焦がさないように、じっと見守る。そして、焼けたそばから小さくかじった。


 暖かい。


 三人で囲む焚き火。鉄板の上で焼ける肉。口に運ぶたびに、胃も心も満たされていく。



 それは豪華な食卓ではない。



 皿も、調味料も、上品な作法もない。けれど、今日を生き延びた証のような食事だった。



 煙の匂いと、肉の香ばしさと、仲間の笑い声。


 その全部が混ざり合って、胸の奥に小さな充実感を灯す。



 ――ああ、私は今、ちゃんと冒険者をしている。


 そう思えた。

 焚き火の揺れる光の中で、私はもう一口、肉をかじった。


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