罠
リシュアは、先へ進む。
――今度は、少しだけ警戒しながら。
ゴブリンを倒した直後とは違う。
呼吸を整え、足取りを抑え、周囲の岩肌や天井にも視線を配る。
冒険者。
ダンジョン。
その言葉に付いてくるのは、危険だけじゃない。
――お宝。
迷惑をかける魔物を退治して、戦利品を得る。
良いことづくし。
「……兄様に、自慢しなきゃ」
そんなことを思って、口元が緩む。
あの兄が、驚く顔。
姉が、少しだけ悔しそうに笑う顔。
想像は、楽しかった。
現実よりも、ずっと。
リシュアは、目についたゴブリンを見逃さなかった。
岩陰、通路の先、段差の向こう。
「――ウインドブラスト」
確実に。
正確に。
一匹残らず、風で吹き飛ばす。
ゴブリンの断末魔が、洞内に響く。
うめき声が、反響して消えていく。
それでも、彼女は進んだ。
――そして。
少し広い空間に出た。
天井が高く、柱のような岩がいくつも立つフロア。
その中央に、一体のゴブリンが立っていた。
こちらを、まっすぐに見据えて。
「……見つけた!」
胸が、跳ねる。
悪いゴブリンは、退治しないと。
そう思った瞬間、ゴブリンは「ゲヘゲヘ」と意味の通らない声を漏らし、踵を返した。
逃げる。
「あ、待ちなさい!」
反射的に、後を追う。
歩きながら杖を向け、詠唱する。
「ウインドブラスト!」
轟音。
圧縮された風が、逃げるゴブリンを巻き込み、宙で弾けた。
勝った――
そう思った、その瞬間。
正面の死角。
岩柱の陰から、
通路の割れ目から、
天井近くの段差から。
――ゴブリンが、現れた。
一匹ではない。
二匹。
三匹。
四匹。
いや、もっと…。
徒党を組み、甲高い叫び声を上げながら、一斉に襲いかかってくる。
「……っ!」
リシュアの足が、止まる。
今までとは違う。
数。
距離。
角度。
初めて、風が――遅く感じられた。




