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掴んだ勝利の形


ドカ、ゴッ。


ガッ、ゴキッ。


骨が砕ける音だけが耳の奥で響いていた。


私は必死に杖を振り下ろしていた。何度も、何度も。同じ場所を叩き続ける。動かなくなるまで、潰さないといけない。倒さないと私が危ない。そう思うと腕が勝手に動いた。


風を叩く羽音も、鳴き声も、もう聞こえない。世界は目の前の黒い塊と、鈍い衝撃の感触だけになる。


手のひらが痺れている。震えているのに、止まらない。


もう一度、確かめるように杖を振り上げた。


その瞬間、肩を強く掴まれる。


体が反射的に跳ねた。誰かに触れられた恐怖で、私はそのまま杖を振りかぶる。


バルクが片手でそれを受け止めていた。


「もう終わってるぞ」


低い声。


その言葉で、ようやく音が戻ってくる。


自分の荒い呼吸。松明のはぜる音。遠くで滴る水音。


握っていた力が一気に抜けた。杖が手から滑り落ちそうになる。膝が崩れて、その場に尻餅をついた。


息を吐く。吸う。うまく入らない。


視界が白く滲んでいたのが、少しずつ輪郭を取り戻す。


「何度も声かけたんだぜ。でも全然聞こえてなかったろ」


ロニオの声が近くでする。


「こいつの声、至近で聞くと頭がやられる。パニック起こすんだよ。普通はまともに立ってられねぇ」


パニック。


その言葉が頭の中で反響する。さっきの叫び声を思い出した瞬間、こめかみの奥がズキッと痛んだ。思わず頭を押さえる。


視線を落とすと、足元にジャイアントバットの残骸があった。何度も叩き潰された肉塊。形を留めていない。


胃の奥がひっくり返りそうになって、私はにじるように距離を取る。


バルクは無言で杖を拾い上げ、血を振り払ってから投げてよこした。


「ほら、返すよ」


慌てて両手で受け取る。胸に抱えるようにしてうずくまり、呼吸を整える。


私はパニックを起こしていたらしい。声も、仲間の姿も、全部消えていた。だから一人で戦うしかなかった。


……いや。


本当に一人だった?


思考が一瞬だけ引っかかる。でもすぐに振り払う。


逃げるなんて、助けを求めるなんて、らしくない。


言ったならやる。

思ったなら動く。


止まるなんて、風の氏族じゃない。


ゆっくり立ち上がると、バルクが一瞬だけこちらを見た。何か言いたげな目。でもすぐに前へ戻る。


「あの、私……もう大丈夫です」


ロニオが討伐証を剥ぎ取りながら顔を上げる。


「ああ。無理すんなよ。少し休め」


「……はい」


膝をついて座る。まだ心臓が速い。指先が微かに震えている。怖かったはずなのに、頭のどこかは妙に澄んでいる。


殴った感触。魔法の手応え。敵の数が減っていく視覚。


全部、ちゃんと覚えている。


孤独な戦いだった。


……でも、勝った。


他の人から見たら、すごいのかもしれない。


だとしたら――


私は、やっぱり強い。


そう思った瞬間、胸の奥で何かが小さく軋んだ気がした。けれど、その音はすぐに消えた。


私は杖を握り直した。

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