表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/85

狩られる側の距離

 


 よろめきながら、なんとか立ち上がる。


 視界の端で、二人が動いているのが見えた。

 ロニオとバルクは私のすぐ近くでロングソードを構え、飛びかかるジャイアントバットの爪を躱し、迷いなく翼を断つ。


 確実な一撃。


 地に伏せたそれは、片方の翼だけをばたつかせ、醜く藻掻く。

 その動きを止めるように踏みつけ、首元へ剣を突き立てる。短い抵抗のあと、動きは止まった。


 ――強い。


 そう思った。

 でも、見ている余裕はそれだけだった。


 二人が動いている。

 それでも、ジャイアントバットたちの視線は、私から外れなかった。


 わからない。

 理由はわからないけれど、確かに――


 私の周囲を囲むように、闇の中を飛んでいる。


 近づいては消え、また現れる。

 数は掴めない。松明の光が届かない位置で、羽音だけが増えていく。


(……私、だ)


 三人の中で一番背が低い。

 鎧も薄い。動きも遅い。


 狩りやすい対象だと、そう判断された。

 理由はそれだけで十分だった。


 一匹が、叫声とともに鈎爪をこちらへ向けて飛びかかる。


 私は杖を強く握りしめる。


 ――殴る?


 一瞬、そんな考えが浮かんだ。

 これ、魔法使いの戦い方だっけ。

 でも、そんなことを考えている余裕はない。


「やっ……!」


 振りかぶった杖を、全身の勢いで叩きつける。


 鈍い感触が、手のひらから腕へ伝わった。

 骨か、肉か、判断できない。ジャイアントバットはそのまま地面へ叩き落とされる。


 仰向けになり、翼をばたつかせ、足が宙を掻く。


 逃がさない。


 もう一度、杖を振りかぶる。


 加減なんて、できなかった。

 さっきまでの恐怖と、痛みと、息の詰まる感覚が、そのまま力になる。


 叩きつける。


 嫌な音がした。

 骨が砕け、肉と内臓が潰れる、生々しい感触。


 ジャイアントバットの断末魔が一つ、洞窟に吸い込まれて消える。


 動かなくなった。


 腰のランタンの光が、その死骸を照らす。


 ……倒した。


 息を整える暇もなく、周囲を見る。

 杖を握り直す。指が、わずかに震えている。


「ウインドブラスト!」


 即射。


 一体。

 もう一体。


 翼を狙い撃ち、空から叩き落とす。


 それでも、止まらない。


 飛びかかってくる個体は、魔法を待たずに杖で殴り倒す。

 倒して、殴って、動かなくなるまで、何度も。


 必死だった。


 助けを呼ぶ、という発想は浮かばなかった。

 振り向けば、隙になる気がした。


 剣の音は聞こえる。

 仲間がいることも、わかっている。


 それでも――


 まるで、私だけが狙われているみたいだった。


 私が弱いから。

 私が、一番簡単だから。


 そんな考えが、頭から離れなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ