狩られる側の距離
よろめきながら、なんとか立ち上がる。
視界の端で、二人が動いているのが見えた。
ロニオとバルクは私のすぐ近くでロングソードを構え、飛びかかるジャイアントバットの爪を躱し、迷いなく翼を断つ。
確実な一撃。
地に伏せたそれは、片方の翼だけをばたつかせ、醜く藻掻く。
その動きを止めるように踏みつけ、首元へ剣を突き立てる。短い抵抗のあと、動きは止まった。
――強い。
そう思った。
でも、見ている余裕はそれだけだった。
二人が動いている。
それでも、ジャイアントバットたちの視線は、私から外れなかった。
わからない。
理由はわからないけれど、確かに――
私の周囲を囲むように、闇の中を飛んでいる。
近づいては消え、また現れる。
数は掴めない。松明の光が届かない位置で、羽音だけが増えていく。
(……私、だ)
三人の中で一番背が低い。
鎧も薄い。動きも遅い。
狩りやすい対象だと、そう判断された。
理由はそれだけで十分だった。
一匹が、叫声とともに鈎爪をこちらへ向けて飛びかかる。
私は杖を強く握りしめる。
――殴る?
一瞬、そんな考えが浮かんだ。
これ、魔法使いの戦い方だっけ。
でも、そんなことを考えている余裕はない。
「やっ……!」
振りかぶった杖を、全身の勢いで叩きつける。
鈍い感触が、手のひらから腕へ伝わった。
骨か、肉か、判断できない。ジャイアントバットはそのまま地面へ叩き落とされる。
仰向けになり、翼をばたつかせ、足が宙を掻く。
逃がさない。
もう一度、杖を振りかぶる。
加減なんて、できなかった。
さっきまでの恐怖と、痛みと、息の詰まる感覚が、そのまま力になる。
叩きつける。
嫌な音がした。
骨が砕け、肉と内臓が潰れる、生々しい感触。
ジャイアントバットの断末魔が一つ、洞窟に吸い込まれて消える。
動かなくなった。
腰のランタンの光が、その死骸を照らす。
……倒した。
息を整える暇もなく、周囲を見る。
杖を握り直す。指が、わずかに震えている。
「ウインドブラスト!」
即射。
一体。
もう一体。
翼を狙い撃ち、空から叩き落とす。
それでも、止まらない。
飛びかかってくる個体は、魔法を待たずに杖で殴り倒す。
倒して、殴って、動かなくなるまで、何度も。
必死だった。
助けを呼ぶ、という発想は浮かばなかった。
振り向けば、隙になる気がした。
剣の音は聞こえる。
仲間がいることも、わかっている。
それでも――
まるで、私だけが狙われているみたいだった。
私が弱いから。
私が、一番簡単だから。
そんな考えが、頭から離れなかった。




