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戦闘前の空気


 僅かな音が、空洞の奥で反響していた。


 足音。

 松明の火がはぜる音。

 装備が擦れる、金属の乾いた音。


 それらが混ざり合い、重なって、ダンジョンの空気に溶けていく。


 私の足取りは、自然と早くなっていた。

 二人に追いつくために。


 置いていかれるのが怖いわけじゃない。

 ただ――私も、戦いたかった。


 役に立ちたかった。

 一緒に前に立って、倒して、進みたかった。


 だから、足が前に出る。


 その時だった。


 ロニオが、突然腕を伸ばした。


 胸元に、どん、と何かが当たる。

 遮るように押し返され、私は思わずよろけた。


「うぁ……なに……?」


 声を上げるより早く、低い声が落ちてくる。


「止まれ」


 短い一言。


 その言葉に、バルクも即座に足を止めた。


「どうした」


 低く、短く問う。


 ロニオは答えず、松明を持つ手をわずかに下げた。


「静かに。……耳を澄ませろ。聞こえるか?」


 音……?


 松明の火が、ぱち、と弾ける音。

 私たちの呼吸。


 それ以外の――


 バサッ。

 バサッ。


 空気を切るような、重たい羽音。


 流れてくる風に乗って、確かに聞こえる。

 上からだ。


 喉が、ひくりと鳴る。


「……何体倒す?」


 ロニオが、視線を上に向けたまま問いかける。


 バルクは、迷いなく答えた。


「群れてる。全員だ。

 まとめて倒す。討伐証は後で、ゆっくり剥ぎ取ればいい」


 それが当たり前だ、と言う口調。


「ああ、わかった」


 ロニオも頷き、ロングソードを抜いた。

 片手で握り、ゆっくりと呼吸を整える。


 二人の間で、会話はそれだけで終わった。


 ――準備が、整った。


 私は一拍遅れて口を開く。


「あの……私は、魔法で倒せばいいですよね?」


 その瞬間、バルクの視線が私を捉えた。


 スライムの時とは違う。

 値踏みするような、据わった目。


 ロニオが、代わりに答える。


「……ギルドに納品する討伐証が要る。

 できるだけ、翼を狙ってくれないか?」


「……わかりました」


 翼。


 翼を狙う。


 飛んでいるものの、動いている翼を?


 ……どうやって?


 疑問が浮かぶ前に、声が落ちてくる。


「行くぞ」


 バルクが一歩踏み出す。

 ロニオも、それに続く。


 考える間は、なかった。


 私は小走りで、その背中を追った。

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