ランクと依頼
冒険者ギルドの依頼掲示板の前に、私は立っていた。
木製の板一面に、紙が隙間なく貼られている。
街の人々、ギルド、役人。
誰かの困りごとが、文字になって並んでいた。
まず目に入るのは、ランクEの依頼。
スライム討伐。
森オオカミ。
大ネズミ。
家畜被害による討伐。
被害抑制のための調査。
素材の回収。
報酬は、銅貨ばかり。
その下には、採集依頼。
薬草、薬草、また薬草。
……どれも、名前すら分からない。
鉱物の納品もあったけれど、鉱石の見分けなんてできるはずもなかった。
自然と、視線はその上へ移る。
ランクD。
ゴブリン。
ジャイアントバット。
森熊。
ダンジョンの簡易調査。
行商の護衛。
内容は一気に危険になる。
その分、報酬も少しだけ良い。
――でも。
私は、その依頼を受けられない。
自分のランクに合ったもの。
もしくは、それより下。
それが、冒険者ギルドのルール。
分かっている。
分かっているのに、目が離れなかった。
掲示板を見上げながら、無意識に一歩、後ろへ下がる。
ドンッ。
「あ……」
誰かにぶつかった。
「ごめんなさい」
反射的に言葉が口からこぼれる。
「いいよ。次は気をつけなよ」
肩を掴まれ、軽く前へ押し出された。
振り返る。
そこに立っていたのは、二人の男の冒険者だった。
どちらも剣を携えている。
年は、私より少し上だろうか。
「もしかして、今ひとり?」
片方の男が、親しげに声をかけてくる。
「一緒にパーティー組まないか? 魔法使いが一人いるだけで、全然違うんだよな」
隣の男に向かって、わざとらしく肩をすくめる。
「だよなぁ、魔法使い様は貴重だからな」
二人は名乗った。
「俺はバルク」
「こっちはロニオだ」
どちらも、腰にはロングソード。
「……私は、リュシアです。風魔法が得意です」
そう答えると、二人は顔を見合わせた。
「ああ、知ってる」
あっさりとした返事。
「試験で派手にやった子だろ?」
胸が、少しだけ跳ねた。
知られている。
それが、少し誇らしくもあった。
「俺たちはDランクだ」
バルクが言う。
「Dランクの付き添いなら、Eランクのお前も一緒に依頼を受けられる。知ってるよな?」
私は、頷いた。
講習で聞いた。
ランクが上の冒険者がいれば、下の者も同行できる。
「じゃあ決まりだな」
そう言って、彼は依頼掲示板に向き直る。
周囲を見渡したけれど、ミアレの姿はなかった。
今日は、たまたま一人だった。
特に気にも留めず、私は二人が手に取る依頼を見る。
ジャイアントバットの討伐。
オークの素材回収。
一人一枚ずつ、依頼を剥がしていく。
「君もEランクの依頼を何か一つ取るといい」
ロニオが言った。
「一人ずつ依頼を受けて、まとめて達成する方が稼ぎになるんだ」
なるほど、と頷きながら、私は掲示板に目を戻す。
Eランクの依頼。
どれも、やっぱり報酬は少ない。
その時、横から手が伸びた。
一枚の依頼書が、私の前から剥がされる。
「これがいい」
差し出された紙。
スライムの素材回収。
スライムの核、十個。
報酬は、銅貨六枚。
「……これですか」
「簡単だし、安全だ」
そう言って、半ば当然のように手渡される。
私は、それを受け取った。
そして、三人それぞれがギルドの受付へ向かう。
受付のお姉さんに依頼書を差し出し、手続きを済ませる。
問題はなかった。
そうして。
私たちは、そのままギルドを出立した。




