測る者は、夢の行き先を知っている
前回より、人が多い。
試験官として広場を見渡した私は、内心でそう呟いた。
受験者が増える理由に、心当たりはある。
数日前、ギルド内で騒ぎになった話――大金貨二枚分の価値がある成果物を手に入れた連中がいた。
運が良かっただけだ。
ただそれだけの話なのに、人はそれを“可能性”と呼ぶ。
一攫千金。
夢を買いに来た顔。
……ああ、昔の私も、そうだった。
現実は地獄だ。
命のやり取りとは、そういうものだ。
前回の試験で冒険者になった者のうち、三人が姿を消した。
死んだのか、別の街へ行ったのか、それとも国を出たのか。
三十日。
冒険者証が更新されなければ、答えはそれだけだ。
だからこそ、測る。
切り捨てるためではない。
少なくとも、私はそう言い聞かせている。
弓使いの精度は悪くない。
魔法使いの練度も、平均以上だ。
ファイアーボール。
アイスニードル。
ロックブラスト。
サンダーショット。
当たれば、弱い魔物なら十分に仕留められる。
――だが、それだけだ。
「次が最後か……」
名簿を確認し、視線を上げる。
リュシア・フェル・アエリス。
……どこかで聞いた姓だ。
来賓で訪れた、あの風の氏族の――
いや、今は関係ない。集中しろ。
名を呼ぶ。
前に出てきた少女を見て、私は一瞬、呼吸を止めた。
青白磁色の柔らかな癖毛。
澄んだ翠の瞳。
細身の身体に、品質の良いレザー防具。
彫刻入りの高価なナイフ。
そして――不釣り合いなほど安っぽい長杖。
傍から見れば、すでに冒険者だ。
詠唱は短い。
小細工はない。
無駄もない。
Aランク冒険者が使うそれと、ほとんど変わらない。
そして――
風が、弾けた。
高音と共に、丸太が跡形もなく砕け散る。
木片が足元に降り注ぐ。
……これは、想像以上だ。
他の魔法が「結果」を残したのに対し、
彼女の風は「痕跡」を奪った。
後ろで見ていた受験者たちが、思わず声を上げる。
当然だ。
当の本人は、自信に満ちた表情で立っている。
威力だけなら、Aランクに匹敵する。
間違いない。
才能か。
努力か。
あるいは、その両方か。
それは分からない。
だが――
私は、何度も見てきた。
あの瞳を。
夢を信じ、
自分の力を疑わず、
世界がそれに応えてくれると、疑いもしない眼差しを。
測ることはできる。
止めることは、できない。
だから私は、今日も判を押す。
――この先を知っている者として。




