風は、逃げない的に牙を剥く
数人のギルド職員――その中でも年嵩の者が前に出て、試験官として名乗りを上げた。
「本日はよく来てくれた。これから行うのは、冒険者登録試験だ」
簡単な挨拶。
そして、続けて告げられた言葉は意外と穏やかだった。
「これは切り捨てるための試験ではない。諸君らの実力を測るためのものだ」
測る、という言い方。
選別されるわけじゃない。
ただ、今の自分がどこに立っているのかを示すだけ。
私はその言葉に、むしろ胸を張った。
試験内容は単純だった。
近接職の受験者は、教官と模擬戦を行い、剣筋や動きを見られる。
そして――
遠距離職。
弓、クロスボウ、魔法。
私たちは、目の前に置かれた打ち込み用の丸太を攻撃するだけでいい。
動かない的。
逃げない。
反撃もしない。
ただの、丸太。
……簡単だ。
距離も遠くない。
風魔法を当てるには、むしろ近いくらいだ。
緊張はなかった。
あるのは、「まだか」という待ち遠しさだけ。
弓使いたちから始まった。
木剣が打ち合う乾いた音の合間に、矢が風を切る音が混じる。
トスッ。
確かな手応えの音。
ミレアの姿もそこにあった。
弦を引き、迷いなく放つ。
矢は真っ直ぐに飛び、丸太の中心近くに突き刺さる。
上手い。
クロスボウを使う人もいた。
弓とは違う乾いた発射音。
それでも、的は動かない。
やがて、弓使いたちが終わり――魔法職の番になる。
一人目が詠唱を始めた。
火の属性。
五つのファイアーボールが形を成し、丸太へ向かう。
ドドドッ、と着弾音。
丸太は焦げ、欠けた。
次は氷。
長めの詠唱の末、三角錐のアイスニードルが突き刺さる。
皆、悪くない。
でも――
少し、拍子抜けした。
強力ではあるが、決定的ではない。
慎重すぎる詠唱。
試験だからこその、安全な選択。
そして、最後。
「次、リュシアさん。どうぞ」
「はい」
私は一歩前に出た。
ここで、全力を出す。
この場で見せる。
私が、冒険者に必要な存在だと。
――逃げない。反撃もしない。ただの的だ。
詠唱を紡ぐ。
「風よ、力となりて集え……」
ふわり、と風が髪を撫でた。
いつもの感覚。
いつもの、私の風。
視線の先は丸太だけ。
「ウインドブラストッ!」
放たれた風の塊が直撃した瞬間――
パァァンッ!!
高い破裂音とともに、丸太が木っ端微塵に弾け飛んだ。
木屑が宙を舞い、地面に降り注ぐ。
一瞬の静寂。
次の瞬間、どよめきが広場を包んだ。
「……っ!」
「嘘だろ……」
「粉砕、した……?」
試験官ですら、言葉を失ったまま残骸を見つめている。
「……これは、想像以上だ」
その一言で、全てが決まった。
視線が、集まる。
さっきまでと違う目。
それが――少しだけ、気持ちよかった。
誰が見ても。
どう見たって。
私は、強い。




