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風は成るように成る



 兄様、兄様。


 私も、兄様みたいになりたいです。

 強くて、かっこよくて、それで――悪い人や魔物をやっつけて。

 いろんな人に、尊敬されて……。


 そう言った私に、兄は柔和に笑った。


 ガントレットを外した彼の手が、私の頭を撫でる。

 温かくて、大きな手。


「リアは、そのままでいいんだ」


 優しい声。


「可愛いリアが、家で待っていてくれる。それだけで、お兄ちゃんは安心できる」


 胸の奥が、少しだけ、ちくりとした。


「家訓は覚えているかい?」


「うん!」


 私は元気よく答える。


「言ったならやる。思ったなら行く。立ち止まるくらいなら走れ。

 風は、成るように成るから!」


 兄は目を瞬かせて、それから声を上げて笑った。


「おやおや。だいぶリアなりに噛み砕いてるね」


 はっはっは、と。

 でも、どこか嬉しそうだった。


「いいよ。僕も、昔はそんな感じだったからね」


 頭から、手が離れる。


「それじゃあ、僕は行くよ」


 兄は振り返って言った。


「リア。お留守番を頼めるかい?」


「うん!」


 それは、迷いのない返事だった。


「いい返事だ」


 庭の花が、風に揺れていた。

 やさしい光と、穏やかな時間。


 ――そこで、私は目を覚ました。


 ……ああ。


 お腹が、空いた。


 昨日は、朝にご飯とジュースを口にしたきりだった。

 それ以降は、何も食べていない。


 おばさんにお願いしたら、何か作ってくれるだろうか。


 ベッドから上体を起こし、部屋を出る。

 軋む床を踏み、階下へ。


 カウンターの向こうに、おばさんの姿があった。


「お嬢ちゃん、おはようさん!」


「昨日から何も食べてなくて……何か、食べるものってありますか?」


 私は、ポーチから金貨を一枚取り出し、差し出した。


「まぁ!」


 おばさんは目を丸くして、手を振る。


「いいよいいよ、それはしまって。昨日もらった分があるんだから、これ以上いらないよ」


 ……とりあえず、金貨さえ出せば何とかなる。


 そんな感覚に、胸を撫で下ろす。


「まったく、飲んだくれの連中とは大違いだね」


 おばさんの視線の先では、朝から酒瓶をあおる男がいた。


「あんだぁ、飲食代は払ってるだろうがぁ」


「宿泊代のツケはどうしたんだい! おバカ!」


 そんなやり取りを横目に、私の前に食事が並べられる。


 パン。

 焼き卵。

 ベーコン。

 蒸したジャガイモ。

 水。


 ……硬いパンだった。


 そのままでは食べづらく、水でふやかして口に運ぶ。

 塩気の強いベーコン。

 薄味の焼き卵。

 味のしない芋。


 豪華ではない。

 でも、身体に染みる。


 これは――生きるための食事だ。


 私は黙々と噛みしめながら、

 夢の中で聞いた兄の声を、胸の奥で反芻していた。


 風は、成るように成る。


 ……本当に、そうだろうか。


 その答えを、私はまだ知らない。

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