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三日間の足踏み



 試験日は三日後です。

 それまでに、ダンジョンに入ったり、魔物と戦うようなことがあれば――冒険者資格は取り消し。発行禁止期間も設けますからね。



 冒険者ギルドの受付で告げられた、その言葉が、まだ耳の奥に残っていた。



 私は、思わず駄々をこねるように文句を言っていた。



 そんな、と思った。

 やっと冒険者になれたのに。

 早く、役に立ちたいのに。


 魔物を倒して、困っている人を助けて、胸を張って「冒険者です」と言いたかった。



 でも、そんな思いは、穏やかな声に遮られる。



 その怪我を治す、ちょうどいい休養期間です。

 宿泊場所は決まっていますか? 見当がなければ、調べますよ。




 そう言われて、私は今、街中を歩いていた。


 手には、受付のお姉さんが書いてくれた案内用紙。

 それを頼りに辿り着いた場所は――年季の入った古民家のような建物だった。



 通りは少し陰っていて、どこか湿った匂いがする。

 活気のある大通りとは、明らかに空気が違う。




 ……ここ?



 不安を押し込め、ノブに手を掛けて扉を開く。


 チリン。


 小さな呼び鈴が鳴った。



「あ、あのー! 泊まれる部屋ってありますか!」



 中は、ギルドほど広くはないけれど、似たような造りだった。


 テーブルと椅子、カウンター席。

 他にも人影がある。冒険者、かもしれない。


 少しして、奥から声が返ってくる。



「はいはいはい、待ってて」


 姿を現したのは、恰幅のいいおばさんだった。


「おや、見ない顔だね。泊まりかい? 1泊なら銅貨8枚でいいよ」


 ……8枚。


 ポーチを開き、硬貨を取り出す。

 試験日まで三日。

 つまり、24枚。


 カウンターに、

 1枚、2枚、3枚――と並べていく。


「ちょ、ちょっと! 何枚出す気なんだい!」


「……?」


「こりゃ、あんた。金貨だよ!」


「あ! え……じゃ、じゃあ、それで……泊まれるだけ泊めさせてもらえますか!」


「いいよぉ! いくらでも泊まってきな!」


 おばさんは急に上機嫌になり、私の肩をがしっと掴んだ。


「ところで、どうしたんだい。その頭の怪我。まるで冒険者にでもなったみたいじゃないか」



 ――冒険者。


 やっと、なった冒険者。


 首から下げた冒険者証が、仮証であることが、なぜか急に恥ずかしくなった。

 普通に話せるはずなのに。



 この頭と腿の怪我も。

 なぜか、誤魔化したくなる。


「……転んで怪我しただけです。あの、部屋は?」


……それ以上聞かれたくなくて、私は話を切り上げた。


 おばさんは一拍置いてから、何かを察したように言った。


「ああ、ごめんよ。こっちこっち。あんまり可愛い子が冒険者なんてするもんじゃないよ。顔に傷なんてしたら、お嫁に行けなくなるよ」


 まただ。


 ギルドのお姉さん。

 門兵。

 そして、今。


 同じ温度の言葉。


 紙にサインをして、個室へ案内される。


 簡素なベッド。

 小さなサイドテーブル。

 ランプが一つ。


 つまらない部屋、と言えばそれまで。

 でも、休むだけなら、十分だった。


 そう。

 今日から、私の部屋。


 ポーチとナイフを外し、サイドテーブルに置く。

 ベッドに腰掛け、息を吐いた。


 ――ここからだ。


 三日間の足踏みの先に、

 私の冒険譚は、きっと始まる。


 そう、信じるしかなかった。

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