第5話 裏切り者探し III
「え……デート……!?」
「なんだ?――やはり嫌だったか?」
人間の感情というのは、分かりにくいものだ。
てっきり、ケインは私に興味を持っていて、それが恋愛感情もどきを生み出していると考えていたのだが……勘違いだったようだ。
思い返せば、ケインは婚約したいと言っていただけで、私に恋愛感情を抱いていると明言した訳では無い。
結婚することと愛情がある事は別のことだ。現に、この世界では戦略結婚とやらが頻繁に行われている。
……しかし、ケインが王女と結婚することで得られる利益を狙っていたのなら、恐ろしい子供だ。
「い……嫌じゃねえよ……! た、ただ……デートってはっきり言われて恥ずかしくなっただけだ!」
赤くなって、必死に弁解するケイン。
その様子を観察するに、言っていることは嘘ではなさそうだ。
「だが、君はさっき、私に”婚約してほしい”と自分から言っていただろう? なぜその時よりも今恥ずかしがっているんだ」
「な、なんだか……相手の方から言われると……一気に現実味を帯びてきて……」
自分よりも相手から言われた方が、恋愛の恥ずかしさは増す……か。
「そういうものなのか?」
「そういうものだよ!! ……ああ、なんで俺は婚約とか言っちまったんだ! 頭から離れなくなるーっ!!」
まあ、恋愛については分からない。
分かる必要も大してない。
人それぞれなことが多いだろうしな。
「ともかく、契約成立、でいいんだな?」
じたばたしているケインに一応確認した。
「おっ、おう……」
ほぼ錯乱しているような状態ではあったが、言質は取れたので、ひとまず仲間が増えたと安心できるだろう。
ここからが本番だ。
黒幕はユスティンで決まっているが、その協力者たちの見当は全くついていない。ユスティン本人の動機も不明だ。
まずは実行役を捕まえるとしよう。
ケインへの説明も加えながら、私は考察を始めた。
私たちを襲ったコロヌス盗賊団は王都周辺を中心に活動する盗賊団で、アジトの位置は騎士団がおおよそ掴んでいるから、目撃情報を絞っていけば発見はできる。
――ここで問題なのは、盗賊団側からしてみても、国が動くのは目に見えているはずなのに、なぜ活動場所を変えないのか、だ。
何かしらの手段で王の目から援助を受けていると思われるコロヌス盗賊団に、騎士団の捜査状況が伝わっていない訳がない。
それでも活動地域を変えないということは、騎士団が彼らの手のひらで踊らされている可能性がある。
つまり、無鉄砲に踏み込まず、情報を整理して慎重に行動するべきだ。
「明日は王都で殺害現場を確認する。ケイン、時が来たら私をこの王城から連れ出してくれ」
やっと落ち着いた様子だったケインは、一気に青ざめた。
普段はもっと余裕があって、お調子者なケインなのだが……今日はやけに感情の起伏が激しいな。
「むっ、無理だっ! こんなに警備が固い王城から、バレずに人を誘拐できるわけねえだろー!!」
その後に少し照れた様子で「できるなら、もうとっくにやっているぞ……」と彼が口にしたのは、気のせいだったことにしよう。
「ケイン、君ならばそのくらい容易いはずだ。安心しろ、私は脱出の足手まといにはならない」
「いやいや、お前には無理だって! 王女が壁を登れるって言うのか!?」
「壁を登る……か。確かにできないな」
「だろ……!? 調べたいことがあるなら俺が一人で行ってくるから、ローラはここにいてくれ!」
やれやれ、と私は首を振ったが、諦めるつもりはない。
確かに、体力や運動神経は生まれたての子猫にさえ負けるレベルだと思うが、私は足手まといにならない絶対的な自信を持っている。
前世でも現世でも、私は凄く軽い。




