第2話 初めての城外 II
5分もしないうちに、ルテティアは死ぬ。
私は‥‥‥何もできない。
それでも、なんとかして彼女を助けないと、心配性な父が私を城外に出すことなどこの先ないだろう。
「‥‥‥敵襲!」
ルテティアの声に反応して、ネルは慌てて外を見た。すると震えだし、なせだろうか、頭を両手で抱えた。
「あれはコロヌス盗賊団です!最近、王都付近で暴れまわっているという報告がありました!」
なるほど、かなり遠くから十数人の大規模な騎馬隊ーー明らかに正規軍ではないものが向かってきている。
コロヌス盗賊団とはエトルリア最大の盗賊団で、たとえ正規軍の補給物資だろうが強奪できる戦闘能力を保持している。
視界に入るすべての市民を気分で殺す残酷さも有名な、クズの中のクズと言いたいような連中だ。
噂は明らかにネルも耳にしていて、迫りくる脅威を認識したくないかのように目をつぶっている。
「ネル、そんなことをしても敵は消えない」
「分かってますよ!ですが‥‥‥ですが、見たくないじゃないですか‥‥‥!考えたくないじゃないですか‥‥‥!あんな集団に捕まったら私たちは‥‥‥」
私はハァーっと溜息を吐くと、ルテティアに目配せし、彼女は馬車を止めて頷いた。
「私が時間を稼ぎます。ローラ様は王城までお逃げください」
騎士、ということから当たり前かもしれないが、対応力がネルとは大違いだーーが、これは私が望んでいることじゃない。
私の目標が生きること自体であれば、これで問題なかっただろう。
しかし、私は生き残ろうとしているのではないーー恐らく、ここからどう転ぼうと、私は生き残れてしまうのだ。
だから、生き残った先のことを考え、動かなければならない。
「ルテティア、悪いがそれはできない」
私の言葉にルテティアは目を見開いたが、私はそのまま続ける。
「私より自分の心配をしてくれ」
「!?」
これは完全なる本音だ。どうにかして、彼女には寿命以上に生きてもらわないと。
「いけませんローラ様!ローラ様をお守りするのが私の使命ーーたとえ命を捨ててでもーー」
ルテティアが猛反対することは完全に予想の範囲内。しかし話が長くなりそうだったので、馬車と馬を切り離した。
「ローラ様!?一体何を!?」
私はニヤリと笑った。
これで馬に直接乗って逃げるしか方法は無くなったが、素人にはとても無理だ。
「ネルも私も、馬は走らせられない。ルテティア、お前が来ないとここで全員死ぬことになるぞ」
ルテティアの寿命は残り30秒‥‥‥私の行動自体も彼女の死に関連している可能性も大いにあるが、ここは賭けだ。
自分の行動で他の人間の寿命を変えられることを信じるとしよう。
さあ、動け、ルテティア!私を守ることが使命である君の選択肢は一つしかない!
「‥‥‥わ、分かりました。私がローラ様を王城までお連れします」
ルテティアは迷いながらも頷いた。
彼女は私の前に座り、私は彼女にしがみつくようにするーー私が落ちないように、念のためだ。
「となると、ネルは私の後ろだな」
「‥‥‥そ、そうですね」
ネルが困惑しながらも馬に乗ると、ルテティアはすぐに出発した。
同時に、空から大剣が降ってくる。
は?空から大剣が降ってくるなんてどういう世界なんだーーそう思ったが、考えてる暇もない。
馬車を引かない分、馬のスピードが上がっているのは確かなことで、この大剣がルテティアに当たることはないだろう。
「ルテティア・パリス(15歳) 寿命:0」
大剣は私をかすり、さっきまでルテティアがいた場所に落ちてきた。
間一髪ではあったものの、ルテティアは死を免れたのだ。
不思議なことに、今まで見えていた寿命の表示も消えていて、ルテティアの行末はもう私には分からない。それでいい。
だが一つ、問題があった。
大剣が降ってきた場所ーーそれはさっきまでルテティアがいた場所であり、その後は私がいた場所であり、そしてネルがいた場所だ。
大剣はネルに刺さっていた。




