表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
余命転生  作者: ネコダヨ
幼少期
2/14

第1話 初めての城外 I

 私はどこか遠い世界に来てしまったらしい。

 いや、”転生した”とでも言うべきか。

 

 私は「ローラ・エトルリア」として、見知らぬ土地に生まれた。とある国の王女として、である。

 これはあの「管理人」と名乗る老人の仕業だろう。

 直接聞いた訳では無いのに、私は不思議と寿命のルールとやらを知っている。

 

「基本的に寿命が尽きる前に死ぬことはできない。だが、稀に不具合が生じ、寿命より早く死ぬ者が出る。その場合は、その者を蘇生するか、余命分だけ別世界に転生させるか、の二択が存在し、どちらを選ぶかはその世界の管理人の自由である」


 なぜこの文章がはっきりと頭に浮かぶのかは分からない。

 が、それを考えたところで何かが変わるわけでもない。

 

 ともかく、今確実なのは、私は死んでも死ねないということ。

 私に与えられている、この”寿命”とやらが尽きるまでは。


 ‥‥‥最悪の状況だ。

 計画が振出しに戻った。

 死んで楽になるという目標を失った今、私はどうすればいい?

 

 転生してすぐの頃は、そればかり考えていた。


◇◇◇◇


 ローラ・エトルリア、5歳。

 

 色々と迷いながら、私はこの世界で5年の歳月を過ごした。

 自分でいうのも少し妙な気がするが、私はかなりの美女に育ちそうだ。

 

 さて、これまでの5年間で私が何をしていたか。

 それは、3つの重要点の考察だ。


 まず一つ目だが、本当に寿命より早く死ぬことができるのかできないのか、だ。

 ということで無謀な挑戦だとは思いつつ、王城から飛び降りようとしてみた。

 結果は大失敗。高い城壁から飛び降りようとしていた私を見回りの兵士たちが偶然発見し、取り押さえられた。

 その後は、私をひどく心配した父が、危険物の一切ない部屋をいくつも作り、私の行動範囲をそこに限定させた。


 私の飛び降りるタイミングは完璧で、本来ならばあの時間に見回りなどいなかったという点を踏まえると、これは寿命より前に死のうとしたからそれを阻止された、という仮説に至る。


 二つ目は、私がこの世界に来て得た「人と自分の寿命を見る能力」というものについての分析だ。

 これができるのは、私が一度死んだことで「死」というものに近づいたからだと思う。

 人を見ると、私にははっきりとその人の寿命が見える。

 例えば、私が現在20歳で50歳まで生きるとしたら、私の目には


「ローラ・エトルリア(20歳) 寿命:30年」

 

 と映る。

 ちなみに、本当の数値は


「ローラ・エトルリア(5歳) 寿命:17年」


 である。

 

 死ぬ間際の人はまだ見たことがないため実証は出来ていないが、おそらく、寿命が残り一年を下回ると、より正確な数値が出るのだろう。


 三つ目は、この世界についてだ。

 私の住むエトルリア王国(元の世界で、古代のイタリア半島に住んでいたエトルリア人とは関係がないらしい)はかなりの小国で、周りには脅威となりうる国が数多く存在している。

 まあ、乱世であれば確実に潰される国家だろう。


 政治体制は王政‥‥‥に多少の民主主義を加えたようなものだ。

 簡単に説明すると、王の決定に議会が反対することができ、権力者の暴走を防ぐことができるようになっている。


 ここまで調べるのに5年掛かった。まずはこの世界の言語を習得する必要があったし、幼児の体では長時間の思考は続けられなかったからだ。

 そして今、ようやく王城内の書物や資料をすべて読み終わり、私が城に籠って得られる情報は限界を迎えている。


「やはり‥‥‥そろそろ外に出なければ‥‥‥」


 私がポツリと呟くと、使用人のネルが目を見開いた。


「絶対にダメですよ、ローラ様!」


 反応はっや。

 私はそう思いながら、ジト目でネルの方を向いた。


「私は城内で得られる大抵の情報を既に入手してしまった。これ以上城の中に残って何をしろという?」

「普通の王女らしくするんですよ!!大体、5歳で王城内の書物を読み尽くす子供がどこにいるんですか!?」


 私はネルの質問に当たり前の答えを言った。


「ここにいるが?」

「そういう意味じゃありません!」


 ではどういう意味なのか、と聞きたくなったが、そんなことを聞いても何も変わらないのでこらえた。

 私は周りを見渡す。


 私にとっては十分すぎる広さに加え、図書室から持ってきた本を格納できる本棚もたくさんある。

 ネルのおかげで毎日清潔に保たれてもいる。

 待遇に文句などない。仮にも、一国の王女なのだから。


 だがーー


「情報をただ知るのと、実際に見るのとでは大きな違いがある。だから、一通り知識を得た後は外に出て事実を確認したい」


 これ以外にも理由はある。

 本に書かれていないことだって城の外にはあるかもしれない。


「ローラ様‥‥‥」


 ネルは思考を巡らしているようだった。

 私もそれが終わるまで待ち続けた。


 一つのことに集中しやすい特徴を持つ私は、ひたすらネルの分析に集中した。


「ネル・トラヤヌス(23歳) 寿命:30年」


 この時代にしては長生きなように見える。

 しかし、日本の縄文時代でも、幼少期を乗り越えた場合は60歳くらいまで生きることもあるらしいので、正確な比較はできない。

 

 寿命の次に分析できることとしたら‥‥‥顔‥‥‥か。

 まあ、決して悪くはない。

 絶世の美女かと聞かれたら迷うところだが、全然モテそうだ。


「あのー、ローラ様?」


 ネルは結論を出した様だった。

 

「ああ、すまない。ネルの分析をしていただけだ」

「ぶ、分析‥‥‥?」


 彼女はポカンと口を開けていたので、私は本題に入った。


「で、私の外出の件についてだが」

「‥‥‥はい、そうでしたね」


 ネルは私の顔をよく眺めて、続けた。


「ローラ様、飛び降りようとはしませんよね」

「‥‥‥!」


 どう答えて良いか分からなかった。

 確かに、”寿命”とやらがある間は飛び降りなど無意味な気がするが‥‥‥


「分からない」

()()()()()、よね?」


 ネルの目からは、彼女の本気度が伺えた。

 仕方ないので、下を向いて返事をする。


「しない‥‥‥」

「私の目を見て言ってください」


 嫌だと感じながらも、私は再びネルの方を向きなおした。


「しません」


 ネルは長い溜息を吐く。


「‥‥‥分かりました。陛下に頼んでみます。ですが、()()()飛び降りてはいけませんよ?」

「仕方ないな」


 こうして、私は外出許可を得ることに成功した。


◇◇◇◇


 この国には、王都が二つ存在している。

 一つは、遥か昔、エトルリア古代王国が大陸全土を統一していた頃に築かれた王都:ハドリア。その規模は世界一大きく、広大な平地に完璧に整理された建物が並んでいて、未だに超えられぬ土木技術で点検の必要が一切ない上下水道が完備されており、当時の栄光を連想できる。

 そしてもう一つは、ハドリアの王宮が反乱で破壊されて以降、少し離れた守りやすい位置に気付かれた王城――私が今まで5年間、暮らしてきた場所――の城下町が発展し、結果的に王都と化したものだ。

 

 今でも正式な王都はハドリアだが、政治的な権能は全て王城の城下町に移行されており、文化、経済の中心地としての機能のみを果たしている。

 

 さて、私が言いたいことが分かるだろうか?

 ――そう、どうせ外出ができるのならば、ハドリアに向かうほうがお得なのだ。

 だって、そっちの方が断然にぎやかだし。


 あと、普通に街を見たいから、王女だとバレたくない。

 護衛は少なければ少ない方がいい。

 

 これを聞いた父はたいそう辛そうな顔をしながらも、護衛一人、使用人ネル一人のみを付けて私を極秘でハドリアに向かわせることで同意した。


 ここまでは完璧だった。

 ()()()()()()


「ネル、この護衛‥‥‥」


 馬車の中で私がネルに尋ねると、彼女は何か勘違いをして答えた。


「我がエトルリア王国最強の騎士と呼ばれるルテティア・パリスです。陛下がローラ様のことを心配してくださり、護衛に付けてくださいました。彼女がいる限り、私たちが襲われることはありません」


 いや、ルテティアが凄いのは分かる。15歳という若さで騎士をしている時点で他の者とは格が違う。

 本当の問題は、私にしか見えないとある数値だ。


「ルテティア・パリス(15歳) 寿命:5分32秒」


 5分32秒‥‥‥そしてたった今、それは5分31秒となった。

 

 私の寿命に対する理解が正しければ、ルテティアはもうじき死ぬ。

 寿命より早く死ぬことが阻止されるのならば、寿命を超えたあとに生きることも阻止されるはず。

 

 私やネルの寿命はまだ長いことから、私らは助かり、ルテティアだけが死ぬ事件が起こるのだろう。


 ‥‥‥さあ、どうする。

 事件が起これば、次に外出許可が下りるのは遠い先になってしまう。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ