第7話「特殊オーダー」
ギルドマートとの競争に勝利してから3日後、俺は新たなスキルアップの知らせを受けた。
『スキル【在庫管理】がレベルアップしました』
『Lv4→Lv5:新機能【カスタム補給】【パーティ最適化】【効果予測】が解放されました』
「おっ、また新機能か」
『カスタム補給:個人の職業・レベル・戦闘スタイルに最適化された補給パックを提供できます』
『パーティ最適化:パーティ全体の連携効率を分析し、改善提案ができます』
『効果予測:アイテム使用後の戦闘効率向上を数値で予測できます』
これは面白そうだ。早速試してみたい。
その日の午後、俺の店に見慣れない客がやってきた。5人組のパーティで、全員が高級そうな装備を身に着けている。
「ここが噂の品質保証コンビニですか?」
リーダーらしき女性が声をかけてきた。長い金髪に青い瞳、エルフの特徴を持つ美人だった。
「はい、そうですよ!いらっしゃいませ」
「私はエリア、『蒼天の翼』というパーティのリーダーです」
蒼天の翼……確か、この地域でも有名な上級パーティだったはず。
「今度、高難度ダンジョンに挑戦する予定なんですが、補給について相談があります」
「高難度ダンジョンですか」
俺は【パーティ最適化】スキルを発動した。すると、5人の詳細な情報が頭に浮かんだ。
『エリア:エルフ魔導師、Lv25、火属性特化、マナ効率85%』
『ガルド:ドワーフ戦士、Lv24、防御特化、体力消耗大』
『リン:人間盗賊、Lv23、速度重視、集中力維持困難』
『セス:人間僧侶、Lv22、回復専門、マナ配分に課題』
『ジーク:人間剣士、Lv26、攻撃特化、持久戦苦手』
『パーティ分析:総合戦闘力A+、連携効率72%、改善余地あり』
「それで、どちらのダンジョンに挑戦される予定ですか?」
「『深淵の迷宮』の20階層です」
俺は息を呑んだ。深淵の迷宮は、この地域最高難度のダンジョンだ。20階層なんて、普通のパーティでは到達すら困難だ。
「それは……相当な準備が必要ですね」
「ええ。実は、これまで3回挑戦して、3回とも失敗してるんです」
エリアさんの表情が曇った。
「毎回、補給切れか連携ミスで撤退を余儀なくされて……」
「なるほど」
俺は【効果予測】スキルも併用して、さらに詳しく分析した。
『問題点1:ガルドの体力消耗が早すぎる(推定12時間でスタミナ切れ)』
『問題点2:リンの集中力が6時間で限界(ミス率急上昇)』
『問題点3:セスのマナ配分が非効率(回復タイミングに無駄)』
『問題点4:エリアの火魔法に偏りすぎ(対応できない敵あり)』
『問題点5:ジークの武器消耗が激しい(戦闘中にメンテナンス必要)』
「皆さん、少しお時間をいただけますか?最適な補給プランを組ませていただきます」
「え?プランですか?」
「はい。皆さんの戦闘スタイルと、深淵の迷宮の特性を考慮した、専用の補給セットをご提案します」
俺は【カスタム補給】機能を発動した。すると、頭の中に5人分の最適化プランが表示された。
30分後、俺は5つの専用補給パックを用意した。
「まず、ガルドさん用です」
「俺用?」
「はい。持久戦特化パックです。通常の体力回復薬に加えて、疲労軽減薬、筋肉弛緩剤、そして特製の高カロリー食品を組み合わせています」
俺は詳細を説明した。
「これにより、戦闘持続時間を12時間から18時間に延長できます」
「18時間?本当に?」
ガルドが驚いた。
「次に、リンさん用。集中力維持パックです」
「私にも専用が?」
「集中力向上薬、神経安定剤、そして脳の疲労を軽減する特製ドリンクです。6時間の集中力限界を10時間まで延長します」
リンの目がキラキラと輝いた。
「セスさんには、マナ効率化パックを。マナ回復薬の効果を25%向上させ、無駄なマナ消費を15%削減します」
「25%向上?そんなことできるんですか?」
セスが目を丸くして驚いている。
「アイテムの組み合わせと使用タイミングの最適化です。エリアさんには、属性多様化パックを。火属性だけでなく、氷・雷・土の魔法も効率よく使えるようになります」
「それは助かります。確かに火だけでは対応できない敵がいて……」
「最後に、ジークさんには武器メンテナンスパックを。戦闘中でも素早く手入れできる道具と、武器の消耗を50%軽減するコーティング剤です」
「すげえ……ここまで個人に合わせてくれるなんて」
ジークが腕を組みながら感心している。
「さらに、パーティ全体の連携効率を向上させる提案があります」
俺は戦術を説明するためのホワイトボードを取り出した。
「現在の連携効率は72%ですが、この陣形変更と役割分担の調整により、85%まで向上できます」
「連携効率まで数値で分かるの?」
エリアが驚いた。
「はい。具体的には……」
俺は詳細な戦術プランを説明した。ガルドの防御ラインを少し下げ、リンの索敵範囲を調整し、セスの回復タイミングを最適化する。エリアの魔法詠唱とジークの攻撃のタイミングも同期させる。
「これにより、戦闘効率が約30%向上します」
「30%も!?」
5人とも、お互いの顔を見合わせながら興奮している。
「お値段の方ですが……」
俺は【効果予測】で適正価格を算出した。
「専用補給パック5セットと戦術指導込みで、15000ゴールドです」
「15000ゴールド?」
エリアが考え込んだ。確かに高額だが……
「でも、これで20階層クリアできるなら安いものです」
「ありがとうございます!お願いします!」
翌週、蒼天の翼のメンバーが興奮した様子で店にやってきた。
「田中さん!やりましたよ!」
エリアが飛び跳ねている。
「20階層、クリアできました!」
「本当ですか!?」
「ええ!あなたの補給プランと戦術指導のおかげで、今まで見たことないほど連携が取れて……」
ガルドも興奮している。
「体力が全然減らなくて、最後まで戦えました」
「集中力も持続して、一度もミスしませんでした」
リンも嬉しそうだ。
「マナ効率も本当に良くなって、余裕を持って回復できたんだ」
セスも満足している。
「火以外の魔法も使えるようになって、戦術の幅が広がったよ!」
エリアが続けた。
「武器のメンテナンスも楽で、最後まで切れ味が落ちなかったし」
ジークも絶賛している。
「しかも、報酬がすごかったんです!」
エリアが袋を取り出した。
「20階層のボスドロップで、レアアイテムが3つも!総額50000ゴールド相当です!」
「50000ゴールド!?」
俺は驚いた。投資した15000ゴールドの3倍以上のリターンだ。
「これも、田中さんのおかげです。お礼に、報酬の一部をお渡しします」
「え、でも……」
「10000ゴールドです。受け取ってください」
エリアが俺に金貨の袋を差し出した。
「そんな、代金はもういただいてますし……」
「成功報酬です。それに、今度上位ダンジョンに挑戦する時も、ぜひお願いしたいんです」
「上位ダンジョン?」
「『天空の城』の30階層です。今度は20000ゴールドでお願いできませんか?」
俺は嬉しくなった。自分のサービスが、本当に役に立っている。
「もちろんです。お任せください」
その夜、佐藤さんと山田が祝福してくれた。
「田中さん、すごいじゃないですか!」
佐藤さんが興奮している。
「個人に合わせた補給プランなんて、誰も思いつきませんよ」
「ユウヤのスキル、マジでやばいな」
山田も感心している。
「これで完全に、大企業との差別化ができたじゃん」
確かに、大手チェーン店では絶対に真似できないサービスだ。
一人一人の状況を詳しく分析して、最適解を提供する。これこそが、俺にしかできないことだ。
「明日から、特殊オーダーサービスを本格的に始めてみませんか?」
俺は二人に提案した。
「個人やパーティの要望に応じて、完全カスタマイズの補給プランを提供する」
「いいですね!きっと話題になりますよ」
佐藤さんが賛成してくれた。
「俺も手伝うぜ。データ整理とか、戦術分析とか」
山田も協力的だ。
俺の店は、また新しいステージに進もうとしていた。
単なるコンビニから、冒険者専門のコンサルティングサービスへ。
これからもっと面白いことが起きそうだ。