第6話「ライバル企業の出現」
ダンジョンコンビニが有名になってから1週間が経った。毎日100人以上の冒険者が来店し、売上も安定して5000ゴールドを超えている。
「田中さん、今日もお疲れ様でした」
佐藤さんが手伝いを終えて、レジカウンターに寄りかかった。最近は彼女も店の手伝いをしてくれている。
「ありがとうございます。佐藤さんがいてくれると、本当に助かります」
「私も楽しいんです。みんなが喜んでくれるのを見ていると」
俺は佐藤さんの笑顔を見て、心が温かくなった。最初は一人で始めたコンビニだったけど、今では仲間と一緒にやれている。
翌朝、俺がダンジョンに向かうと、信じられない光景が目に飛び込んできた。
俺のコンビニから少し離れた場所に、巨大な店舗ができていた。「ギルドマート ダンジョン支店」という看板が掲げられている。
「は?一晩で?」
俺は呆然とした。昨日までそんなものはなかったはずだ。
店の前には既に行列ができていて、スーツを着た男性が拡声器で宣伝している。
「本日グランドオープン!全商品30%オフ!さらに、某コンビニより全て安く提供いたします!」
某コンビニって、明らかに俺の店のことじゃないか。
「回復ポーション、通常25ゴールドのところ、本日限り15ゴールド!」
俺の店では20ゴールドで売っている。完全に価格で負けている。
「マナポーション、通常60ゴールドのところ、本日限り40ゴールド!」
俺の店は50ゴールドだ。こっちも負けた。
拡声器の男性が俺に気づいて、嫌味な笑顔を向けてきた。
「あら、もしかして例のコンビニの店主さん?お疲れ様です」
男性が近づいてきた。名札には「ギルドマート営業部長 田村」と書いてある。
「テレビで拝見しましたよ。素人にしては、なかなか頑張ってらっしゃる」
「素人って……」
「でも、これが現実ですよ。大手の本気を見せてもらいます」
田村部長は俺を見下すような目つきで続けた。
「申し訳ないですが、商売ってのは慈善事業じゃないんで。お客様は安くて良いモノを求めてるんです」
案の定、俺の店には客が来なくなった。昼になっても、売上は100ゴールドにも満たない。
「田中さん、大丈夫ですか?」
佐藤さんが心配そうに声をかけてきた。
「うーん、まいったな……」
その時、俺の【在庫管理】スキルが反応した。
『警告:ライバル店舗の異常を検知しました』
『ギルドマート分析結果:商品品質に問題あり』
「え?」
俺は詳細を確認してみた。
『回復ポーション:効果60%、通常品質の劣化版』
『マナポーション:効果70%、添加物による希釈あり』
『装備品:耐久度-20%、見た目重視の粗悪品』
これは……価格を下げるために、品質を落としているのか。
「佐藤さん、ちょっと実験してみませんか?」
「実験?」
「ギルドマートの商品を買ってきて、うちの商品と比べてみるんです」
俺たちはギルドマートに向かった。相変わらず大盛況で、田村部長が得意げに客対応をしている。
「いらっしゃいませ!何でも安く提供してますよ!」
俺たちが回復ポーションを購入すると、田村部長がニヤリと笑った。
「どうです?この価格。あなたの店では真似できないでしょう?」
「確かに安いですね」
俺は素直に答えた。
「当然です。これが大手の力ですよ」
店に戻って、俺は【在庫管理】スキルで詳細分析を行った。
『ギルドマート回復ポーション:HP回復量60、副作用:軽度の吐き気』
『自店回復ポーション:HP回復量100、副作用:なし』
やっぱりだ。安い代わりに、効果が大幅に劣っている。
「佐藤さん、ちょっと魔法使ってもらえませんか?マナを少し消費して」
「はい」
佐藤さんが小さな火球を作って、マナを30ほど消費した。
「まず、ギルドマートのマナポーションを飲んでみてください」
佐藤さんが飲むと、確かにマナは回復したが、表情がすぐに曇った。
「なんだか、頭がぼーっとします……」
「次に、うちのマナポーションを」
今度は、佐藤さんの表情がパッと明るくなった。
「全然違います!頭もすっきりして、体も軽い!」
俺は確信した。これが俺の勝機だ。
その夕方、俺は店の前に看板を立てた。
「品質保証!効果に満足いただけなければ全額返金!」
さらに、【需要予測】スキルを使って、もう一つ看板を追加した。
「無料で効果を測定中!他店商品との比較もできます!」
すると、興味を持った冒険者が一人やってきた。
「へえ~。ここに書いてある効果測定って何だい?」
「お客様の使用している回復アイテムの効果を、正確に測定いたします」
俺は【在庫管理】スキルを発動した。
「こちらの回復ポーション、効果は60%程度ですね。本来なら100HP回復するはずが、60HPしか回復しません」
「え?でも、ちゃんと回復してるけど?」
「回復はしますが、効率が悪いんです。危険な場面で、本来の効果が出なかったら大変ですよね?」
冒険者は青ざめた。
「試しに、うちの回復ポーションと比べてみませんか?」
実際に比較してもらうと、効果の違いは歴然だった。
「ホントだ、全然違う!これなら安心して使えるよ!」
「ありがとうございます。うちは品質にこだわってますので」
その冒険者は、結局うちで大量購入していった。
噂は瞬く間に広まった。
「ギルドマートの商品、効果が低いらしいぞ」
「田中さんの店で測定してもらったら、半分くらいしか効果がないって言われた」
「価格は安いけど、命に関わるからな……」
次第に俺の店に客が戻ってきた。それも、以前より多い客が。
その時、田村部長が怒った顔でやってきた。
「おい、君!何を吹聴してるんだ!」
「吹聴?事実をお伝えしているだけですが」
「品質に問題があるなんて、営業妨害だぞ!」
「では、効果測定をしてみませんか?」
俺は【在庫管理】スキルでギルドマートの商品を分析した。
「こちらの回復ポーション、効果60%、マナポーション70%、装備品の耐久度は通常より20%低下してますね」
田村部長の顔が真っ青になった。
「そ、そんなはずは……」
「お客様の安全を第一に考えれば、当然品質にこだわるべきですよね?」
周囲にいた冒険者たちが、田村部長を冷たい目で見ている。
「あんたたち、客の命軽く見てるのか?」
「安くても粗悪品じゃ意味ねえな」
田村部長は慌てて逃げるように去っていった。
その夜、俺の店は大盛況だった。
「田中さん、やっぱりすごいです!」
佐藤さんが興奮している。
「品質を見抜く能力なんて、普通の人にはできませんよ」
「まあ、スキルのおかげですからね」
「でも、お客さんの安全を第一に考える姿勢は、田中さん自身のものです」
山田もやってきて、俺の肩を叩いた。
「流石だぜ、ユウヤ!大企業相手に堂々と戦うなんて」
「ギルドマートの連中、完全に論破されてたな」
常連客のカズヤさんも感心している。
「君の店なら安心だ。命を預けられる」
『本日の売上:8500ゴールド』
過去最高の売上だった。しかも、新規客も大幅に増えている。
「価格じゃ勝てないけど、品質とサービスなら負けませんからね」
俺は自信に満ちていた。
大企業だからって、何でもできるわけじゃない。
俺には俺にしかできないことがある。
そして、それを求めているお客さんがちゃんといる。
これからも、自分のやり方で頑張っていこう。