第5話「コンビニ支店開設」
ストームブレードとの合同攻略から一週間後、俺はまたスキルがレベルアップした。
『スキル【在庫管理】がレベルアップしました』
『Lv3→Lv4:新機能【自動発注】【配送システム】【固定店舗設置】が解放されました』
「固定店舗設置?」
俺は首をかしげた。今までの機能とは明らかに毛色が違う。
『固定店舗設置:指定した場所に仮想店舗を設置し、24時間営業が可能になります』
『自動発注:在庫状況に応じて、必要なアイテムを自動で調達します』
『配送システム:店舗間でのアイテム転送が可能になります』
これは……まさにコンビニ経営のスキルじゃないか。
試しにスキルを発動してみると、頭の中に店舗設計図のようなものが浮かんだ。カウンター、商品棚、冷蔵庫——まるで本物のコンビニみたいだ。
翌日の土曜日、俺は山田、佐藤さん、そしてストームブレードのメンバーと一緒に中級ダンジョンの奥深くにいた。
「今日は調子がいいな」
ストームブレードのリーダー、カズヤさんが満足そうに言った。
「田中くんのサポートがあると、本当に効率が違う」
俺のスキルで最適なルート選択とアイテム補給をしているおかげで、普段の1.5倍のペースで進めている。
「でも、毎回ここまで来るのは大変ですよね」
佐藤さんが言った。確かに、ダンジョンの奥深くまで来るには往復で2時間近くかかる。
「そうなんだよな。補給のためだけに戻るのは時間がもったいない」
ストームブレードの魔法使い、リナさんが同意した。
その時、俺の頭に閃いた。
「あの、ちょっと実験してみたいことがあるんですが」
「実験?」
みんなが振り返った。
俺は新しく覚えた【固定店舗設置】スキルを発動した。すると、ダンジョンの空いたスペースに、光る輪郭が現れた。
「これは……」
「何してるんだ、田中?」
山田が不思議そうに見ている。
光の輪郭が実体化していき、気がつくと小さなコンビニができあがっていた。自動ドア、商品棚、レジカウンター。全部そろっている。
「うわあああ!?」
全員が驚いて後ずさった。
「た、田中くん!これ何!?」
カズヤさんが慌てている。
「あー、えーっと……新しいスキルで、お店が作れるようになったんです」
「お店って、コンビニ?ダンジョンの中に?」
「はい。試しに入ってみませんか?」
恐る恐る全員で中に入ると、本当に普通のコンビニだった。商品棚には回復アイテム、マナポーション、食料、装備品がずらりと並んでいる。
「すげえ……本物のコンビニじゃん」
山田が商品を手に取って確認している。
「この回復ポーション、品質も値段も適正だ」
カズヤさんが感心している。
「でも、どうやって商品を調達してるんですか?」
佐藤さんが疑問を口にした。
「【自動発注】機能で、必要な分だけ自動的に調達されるんです。【配送システム】で、現実世界の問屋から直接転送されてくるみたいで」
俺もまだ完全には理解していないが、とにかく機能している。
「つまり、ここで普通に買い物ができるってこと?」
リナさんが聞いた。
「そのようですね。レジも動いてますし」
実際にレジを確認すると、ちゃんと会計システムが動いている。
「じゃあ、マナポーション3本ください」
リナさんが試しに買い物をしてみた。
「ありがとうございます。120ゴールドです」
俺がレジを操作すると、きちんと会計が完了した。
「本当に買えた……」
「これ、革命的じゃないか?」
カズヤさんが興奮している。
「ダンジョンの奥で補給できるなんて、今まで考えられなかった」
「しかも、値段も街の店より安いし、品質も良い」
ストームブレードの盗賊、タケシさんも感心している。
それから1時間ほど、俺たちはダンジョンコンビニの実験を続けた。みんな次々とアイテムを購入し、その便利さに驚いていた。
「田中、これ本当にすごいぞ」
山田が興奮している。
「他の冒険者たちにも教えてやろうよ」
「え、でも……」
「遠慮することないって。これだけ便利なら、きっとみんな喜ぶよ」
佐藤さんも賛成してくれた。
「田中さんのお店があれば、みんなもっと安全にダンジョンを攻略できます」
「そうだな。じゃあ、俺たちが宣伝してやるよ」
カズヤさんが提案した。
「口コミで広めれば、すぐに有名になるはずだ」
翌日の日曜日、俺のダンジョンコンビニには予想以上の客が来ていた。
「本当にダンジョンの中にコンビニがあるなんて……」
「しかも、品揃えが豊富で値段も安い」
「店主さん、ありがとうございます!これで安心して奥まで行けます」
次々と冒険者たちがやってきて、商品を購入していく。
俺は忙しくレジを打ちながら、この状況に戸惑っていた。
「田中さん、大繁盛ですね」
佐藤さんが手伝いに来てくれた。
「ありがとうございます。でも、こんなに人が来るなんて思わなくて……」
「でも、みんなすごく喜んでますよ」
確かに、お客さんたちの表情は明るかった。
「店主さん、質問があるんですが」
ベテランらしき冒険者が声をかけてきた。
「このお店、毎日ここにあるんですか?」
「はい、24時間営業です」
「それはありがたい。深夜に攻略する時も安心ですね」
「あの、特別注文とかできませんか?」
別の冒険者が聞いてきた。
「特別注文?」
「うちのパーティ、火属性攻撃が得意なんで、火属性強化のアイテムとかあると嬉しいんですが」
俺は【需要予測】スキルを使ってみた。すると——
『特殊要求検知:火属性強化アイテム需要あり』
『推奨商品:フレイムエンチャント薬×5、火炎耐性ポーション×3』
「少々お待ちください」
俺が【自動発注】機能を使うと、数分後に該当商品が棚に並んだ。
「おお!本当にある!」
冒険者たちが驚いている。
「店主さん、すごいですね。まるで魔法みたい」
「いえいえ、たまたまですよ」
夕方、ダンジョンから出ると、山田が興奮して話しかけてきた。
「ユウヤ、今日の売上どのくらいだった?」
「えーっと……」
俺は頭の中の売上データを確認した。
「5000ゴールドくらいですね」
「5000ゴールド!?一日で?」
「コンビニバイトの日給より遥かに高いな……」
俺は複雑な気持ちだった。
「でも、これって本当にいいんでしょうか?」
「何が?」
「こんなにうまくいきすぎて、なんだか不安になってきて……」
佐藤さんが優しく笑った。
「田中さんは、みんなの役に立ってるんです。胸を張っていいと思いますよ」
「そうだよ。お前のおかげで、どれだけの冒険者が助かってると思ってるんだ」
山田も励ましてくれた。
その夜、テレビでニュースを見ていると、驚くべき報道が流れた。
『本日、市内ダンジョンに出現した謎のコンビニエンスストアが話題となっています。利用した冒険者によると、品揃えが豊富で価格も適正、しかも24時間営業とのことです』
「うわあ……テレビに出ちゃった」
俺は慌てた。まさかニュースになるなんて。
携帯電話が鳴った。山田からだった。
「おい、ユウヤ!テレビ見たか?お前有名人だぞ!」
「有名人って……」
「明日はもっと客が来るぞ。大丈夫か?」
「うーん、とりあえず何とかやってみます」
電話を切ってから、俺は考え込んだ。
つい1週間前まで、ただのコンビニバイトだった俺が、今ではテレビで報道されるような存在になっている。
これは、本当にいいことなんだろうか?
でも、お客さんたちの喜ぶ顔を思い出すと、やっぱり続けたいと思った。
みんなの役に立てるなら、それが一番いい。




