第4話「最初の顧客獲得」
佐藤さんとお茶をした翌日、俺はいつものようにコンビニでバイトをしていた。頭の中では昨日の出来事がぐるぐると回っている。
(佐藤さん、本当に綺麗だったな……)
カフェで向かい合って座って話したとき、彼女の笑顔が間近で見られて、俺は終始緊張しっぱなしだった。でも、ダンジョンのことや大学のことを色々聞いてくれて、すごく楽しかった。
そんなことを考えていると、突然頭の中に声が響いた。
『スキル【在庫管理】がレベルアップしました』
『Lv2→Lv3:新機能【需要予測】【顧客管理】が解放されました』
「お、また上がった」
『需要予測:周囲の人間が必要とするアイテムを事前に把握できます』
『顧客管理:取引相手の情報を記録・分析し、最適なサービスを提供できます』
面白そうな機能だ。試しに店内を見回してみると、深夜なのに数人の客がいた。意識を向けてみると——
『顧客A:大学生男性、推定年齢20歳、疲労度85%、求めるもの:エナジードリンク、菓子パン』
『顧客B:会社員女性、推定年齢28歳、ストレス度92%、求めるもの:アイス、甘いもの』
本当に表示された。しかも、実際に見てみると、その通りの商品を手に取っている。
これはすごい機能だ。
翌日の土曜日、俺はまた山田と佐藤さんとダンジョンに向かった。最近は週2回ペースで通っている。
「今日は中級ダンジョンに挑戦してみようと思うんだ」
山田が提案した。
「中級?大丈夫かな」
「ユウヤがいれば安心だよ。この前だって、お前のおかげで効率が3倍になったんだから」
そう言われると悪い気はしない。でも、レベルが上がった分、もっと責任も感じる。
ダンジョンに入ると、俺の新しいスキルが早速発動した。
『パーティメンバー分析完了』
『山田ケンジ:戦士、レベル12、装備消耗度45%、推奨アイテム:体力回復薬×2』
『佐藤ユキナ:魔法使い、レベル11、マナ効率78%、推奨アイテム:マナポーション×3、集中力向上薬×1』
前回よりもさらに詳細な情報が表示される。これなら、二人に最適なサポートができそうだ。
3階層まで順調に進んでいたとき、突然別のパーティとすれ違った。3人組で、全員俺たちより年上に見える。
「おう、君たち初心者?」
リーダーらしき男性が声をかけてきた。金髪で筋肉質、いかにも経験豊富そうな冒険者だった。
「あ、はい。中級ダンジョンは初めてです」
山田が答える。
「俺たちは『ストームブレード』って言うんだ。この辺りじゃそこそこ有名なパーティだぜ」
確かに、装備のレベルが俺たちとは段違いだった。特にリーダーの剣は、明らかに高級品だ。
「君たち、なかなかいいペースで進んでるじゃないか。でも、この先はもっと厳しくなるぞ」
そう言いながら、リーダーは俺たちの装備を値踏みするように見た。
「特に君」
リーダーが俺を指した。
「戦闘職じゃないよな?サポート系?」
「あ、はい。まあ、そんな感じです」
「ふーん。まあ、足手まといにならないよう気をつけろよ」
嫌な感じの言い方だった。山田の表情も少し険しくなる。
「あの、すみません」
俺は思い切って声をかけた。
「もしよろしければ、補給のお手伝いさせていただけませんか?」
「え?」
リーダーが眉をひそめた。
俺のスキルで彼らの状況を分析すると——
『ストームブレード分析結果』
『リーダー:体力65%、装備消耗度82%、メンテナンス必要』
『魔法使い:マナ40%、精神疲労度高』
『盗賊:毒状態軽度、解毒薬必要』
明らかに補給が必要な状態だった。
「リーダーさん、剣のメンテナンスはいつされました?」
「は?なんで君にそんなことを……」
「あと、魔法使いの方、マナがかなり少なくなってませんか?それと、盗賊の方、毒でも受けられました?」
三人とも驚いた顔をした。
「え……確かに剣の調子は悪いけど、なんでわかるんだ?」
「マナも確かに少ない……」
「毒は軽いから大丈夫だと思ってたんだけど……」
俺は仮想倉庫から適切なアイテムを取り出した。装備メンテナンス用のオイル、上級マナポーション、解毒薬。
「良かったら、これ使ってください。お代は後で相談しましょう」
「え、でも……」
「いいから使ってみろよ」
山田が後押ししてくれた。
「この人のサポート、マジですごいから」
リーダーは半信半疑だったが、アイテムを使ってみた。剣にオイルを塗ると、見る見る輝きを取り戻した。
「これは……すげえ!切れ味が全然違う!」
魔法使いもマナポーションを飲んで驚いている。
「こんなに効果の高いマナポーション、初めて飲みました」
盗賊も解毒薬を飲むと、顔色が明らかに良くなった。
「おい、これ本当にすごいぞ……」
三人とも俺を見る目が変わった。
「君、何者だ?こんなに的確なサポートができるなんて……」
リーダーが感心している。
「いえ、たまたまです」
「たまたまじゃないだろ。俺たちの状態を一目で見抜くなんて、相当なスキルの持ち主だ」
俺は照れてしまった。こんなに褒められるなんて思わなかった。
「あの、よろしければ、今度俺たちと一緒にダンジョンを攻略しませんか?」
リーダーが提案してきた。
「え?でも俺は初心者ですし……」
「初心者?嘘だろ。君みたいなサポートができる人、プロの冒険者でもそうそういないぞ」
「本当です!」
佐藤さんが口を挟んだ。
「田中さんは始めて1週間なんです。でも、私たちも田中さんのおかげで効率が格段に上がりました」
「1週間でこのレベル?天才か?」
ストームブレードのメンバーたちが騒いでいる。
「お代の件ですが」
俺は話を戻した。
「今回使ったアイテム代は500ゴールドです。でも、今後も継続的にサポートさせていただけるなら、割引もできます」
「500ゴールド?安い!これだけ高品質なアイテムなら、普通は1500ゴールドはするぞ」
リーダーが驚いている。
俺のスキルで最適な価格設定ができているようだ。
「それじゃあ、今度俺たちの高級ダンジョン攻略に同行してもらえませんか?報酬は1日2000ゴールドで」
「2000ゴールド?」
俺は驚いた。コンビニバイトの日給より高い。
「ちょっと待てよ」
山田が割り込んできた。
「ユウヤは俺たちのパーティメンバーだぞ」
「あ、そうですね。山田たちがいなければ、俺も困ります」
「だったら、君たちのパーティと合同で行動しないか?報酬は山分けで」
リーダーが提案した。
「それなら……」
俺は山田と佐藤さんを見た。二人とも嬉しそうに頷いている。
「ぜひお願いします」
その日の帰り道、俺は上機嫌だった。
「すげえじゃん、ユウヤ!ストームブレードなんて、この辺りじゃ有名なパーティだぞ」
山田が興奮している。
「田中さん、本当にすごいです」
佐藤さんも嬉しそうだ。
「私たちまで一緒に高級ダンジョンに行けるなんて」
「いやあ、でも俺一人じゃ何もできませんよ。山田と佐藤さんがいてくれるからです」
「謙遜するなよ。お前のサポートスキル、マジで異常だって」
山田が笑った。
「でも、2000ゴールドの依頼かあ……」
「それだけ価値があるってことです」
佐藤さんが言った。
「田中さんのスキルは、本当に特別だと思います」
褒められて、俺は顔が熱くなった。
(俺にも、こんなふうに認められる日が来るなんて……)
つい1週間前まで、ただのコンビニバイトだった俺が、今では有名冒険者から依頼されるほどになった。
まだ信じられない気持ちだったが、もっと大きな変化が待っている。そんな予感がしていた。