第3話「レベルアップと新機能」
ダンジョンから帰った夜、俺はコンビニでバイトをしていた。いつものように雑誌コーナーで立っていると、突然頭の中に声が響いた。
『スキル【在庫管理】がレベルアップしました』
『Lv1→Lv2:新機能【アイテム自動分類】【仮想倉庫】が解放されました』
「おお……」
俺は小さく声を上げた。昨日のダンジョンでの経験値が溜まったのだろうか。
『仮想倉庫:異次元空間にアイテムを保管できます。容量:100個まで』
『アイテム自動分類:取得したアイテムを用途別に自動整理します』
試しに店内の商品に意識を向けると、頭の中に整然とした倉庫のイメージが浮かんだ。まるでコンピューターの画面を見ているような感覚で、商品が種類別にきれいに分類されて表示される。
これはすごい……。
俺は興奮して手が震えた。さっそく明日、山田に報告しよう。きっと驚くに違いない。
翌日の夕方、俺は山田と一緒に再びダンジョンにやってきた。今日は山田のパーティメンバーも一緒だった。
「紹介するよ。佐藤ユキナ、俺たちのパーティリーダーで魔法使いだ」
山田が指差したのは、俺と同じくらいの年齢の女性だった。肩にかかる黒髪に知的な雰囲気、細身だが引き締まった体つきをしている。魔法使いの杖を持っていて、なんだかゲームのキャラクターみたいだった。
「佐藤です。よろしくお願いします」
彼女は丁寧にお辞儀をした。声も上品で、きっと頭がいいんだろうな、と俺は思った。
「こちらこそ。田中ユウヤです」
「ケンジから聞きました。昨日のダンジョンで隠し宝箱を見つけたって」
「あ、あれはたまたまで……」
「でも、初心者が隠し宝箱を見つけるなんて聞いたことないです。何かコツがあるんですか?」
佐藤さんは興味深そうに聞いてきた。可愛い女の子に関心を持たれて、俺は顔が熱くなった。
「え、えーっと……なんとなく、です」
「なんとなく、ですか」
佐藤さんは小首をかしげた。その仕草がまた可愛くて、俺はドキドキした。
「まあ、実際にダンジョンで見てもらおうよ」
山田が助け船を出してくれた。
ダンジョン内に入ると、俺のスキルが早速発動した。レベルアップしたおかげで、以前よりもさらに詳細な情報が表示される。
『スライム×5:推奨戦術:魔法による範囲攻撃』
『ドロップ予測:スライムゼリー×4、レアスライムコア×1(確率5%)』
「佐藤さん、前方にスライムが5匹います。魔法で一気に片付けられませんか?」
「え?まだ見えませんが……」
佐藤さんは困惑していた。確かに、まだスライムは視界に入っていない。
「あ、いや、なんとなくそんな気がしただけで……」
数秒後、角の向こうからスライムが5匹現れた。
「本当にいた……」
佐藤さんは驚いた表情を見せた。
「ファイアボール!」
彼女が杖を振ると、炎の球がスライムたちを一掃した。残ったアイテムは、俺の予想通りスライムゼリー4個とレアスライムコア1個だった。
「すごい……レアスライムコアが出てる!」
山田が興奮している。
「田中さん、本当にすごいですね」
佐藤さんが俺を見つめた。その視線がまっすぐで、俺は照れてしまった。
「あはは、たまたまだけどね……」
さらに進んでいくと、俺の新機能【仮想倉庫】が役に立つ場面がやってきた。
『警告:佐藤ユキナのマナポーション残量20%。回復アイテム不足』
『警告:山田ケンジの装備重量が適正値を超過。移動速度-15%』
「あの、佐藤さん、マナポーション足りてますか?」
「え?ええ、まだ大丈夫……あ、でも確かに残り少ないです」
「良かったら、これ使ってください」
俺は仮想倉庫から中級マナポーションを取り出した。まるで空中から取り出したように見えるので、二人とも目を丸くした。
「え?今のは……?」
「あー、特殊な保管スキルなんです。昨日レベルアップして覚えました」
「保管スキル?そんなスキル聞いたことないです……」
佐藤さんは感心したように言った。
「すげえじゃん!それがあれば、荷物を大量に持ち運べるな」
山田も興奮している。
「山田も、荷物重そうだから、余分な装備預かろうか?」
「マジで?助かるよ!」
俺は山田の予備装備を仮想倉庫に収納した。
「軽い!これなら楽に動けるよ」
「田中さんって、本当に便利なスキルをお持ちなんですね」
佐藤さんが感心している。褒められて、俺は嬉しくなった。
その後も、俺の能力は大活躍だった。隠し通路を発見し、モンスターの弱点を的確に指摘し、効率的なアイテム回収ルートを提案した。
「今日の収益、いつもの3倍になってる……」
佐藤さんが集計結果を見て驚いていた。
「田中さんがいると、本当に効率が違いますね」
「そんな、俺なんて戦闘は全然だめですし……」
「でも、サポートがこれだけできれば十分です。むしろ、戦闘専門の冒険者より貴重かもしれません」
佐藤さんはにこりと笑った。その笑顔を見て、俺の心臓が跳ね上がった。
「ユウヤ、お前すげえよ。もう俺たちのパーティに正式参加しない?」
山田が興奮して提案した。
「え、でも俺なんて……」
「何言ってるんです。田中さんみたいな人がいてくれたら、私たちも安心してダンジョンを攻略できます」
佐藤さんも賛成してくれた。
「ぜひ、一緒にやりましょう」
彼女が手を差し出してきた。俺は恐る恐るその手を握った。柔らかくて温かい手だった。
「よ、よろしくお願いします」
ダンジョンから帰る道、佐藤さんが話しかけてきた。
「田中さんって、大学生でしたよね?」
「はい、秋馬大学の2年です」
「私も同じ2年なんです。学部は違いますけど」
「そうなんですか」
「今度、良かったら一緒にお茶でもしませんか?ダンジョンのこととか、色々お話ししたくて」
俺は嬉しさのあまり、声が裏返りそうになった。
「は、はい!ぜひお願いします!」
「ふふ、ありがとうございます」
佐藤さんが笑った。その笑顔がとても綺麗で、俺は今日一日のことを思い返した。
スキルのおかげで、みんなから認められた。特に佐藤さんから褒められたときは、本当に嬉しかった。
これが、冒険者の世界か……。
バイトだけの退屈な日常から、ようやく抜け出せたような気がした。
そして、この先もっとすごいことが待っているような予感がしていた。