表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/20

第2話「初ダンジョンで異変発覚」

 翌日の午後、俺は大学の学食で友人の山田と向かい合って座っていた。

「で、急にダンジョンに興味って、どうしたんだよ」

 山田ケンジは大学2年生だが、半年前から休学して冒険者をやっている。筋肉質な体に日焼けした肌、いかにも体育会系という感じの男だ。


「いや、なんとなく。最近バイトばっかりでつまんないし、ちょっと刺激が欲しくてさ」

 俺は昨夜のスキル獲得のことは言わずに、適当に理由をでっち上げた。いきなり「謎のスキルを手に入れた」なんて言っても信じてもらえないだろう。


「まあ、ユウヤなら向いてるかもな。真面目だし、慎重だし」

「え、そうかな」

「冒険者って、案外地味な作業が多いんだよ。戦闘なんて全体の3割くらいで、残りは準備とか後片付けとか」

 山田は唐揚げを口に放り込みながら続けた。


「じゃあ、今度一緒に初心者ダンジョン行ってみるか?俺が案内してやるよ」

「本当?ありがとう」

「ただし、装備は自分で揃えろよ。武器、防具、回復アイテム——最低限のセットで3万円くらいかな」

「3万円……」

 俺は財布の中身を思い浮かべた。バイト代を貯めていたとはいえ、3万円は結構な出費だ。

「まあ、初期投資だと思えばいいよ。ダンジョンで稼げるようになれば、すぐ回収できるから」



 翌週の土曜日。俺は新品の革鎧と短剣を身に着けて、市内にあるダンジョン入り口に立っていた。

「よう。なんだ、緊張してるのか?」

 山田は慣れた様子で装備を確認している。彼の装備は俺より格段に上質で、特に持っている剣は魔法の光を放っていた。


「当たり前だよ。初めてなんだから」

 目の前にあるダンジョンの入り口は、まるで洞窟のような暗い穴だった。20年前に突然出現したという話だが、今では観光地のような扱いで、入り口には受付のテントや装備を売る露店まで並んでいる。

「受付で登録してから入るんだ。万が一のときのために」

 受付で手続きを済ませ、俺たちはダンジョンに足を踏み入れた。


「うわ……」

 ダンジョン内部は薄暗く、松明の明かりがぽつぽつと灯っている。石造りの通路が続いており、ファンタジー映画のような雰囲気だった。

「最初の5階層は初心者用だから、そんなに危険じゃない。出てくるモンスターもスライムとかゴブリンとか、弱い奴ばかりだ」


 山田の説明を聞きながら歩いていると、突然俺の頭の中に情報が流れ込んできた。

 『スキル【在庫管理】が環境に適応しました』

 『新機能:モンスタードロップアイテム感知』


「え?」

「どうした?」

「あ、いや……」

 俺は困惑した。スキルがダンジョンで変化したのか?

 すると、前方に現れたスライムを見た瞬間、頭の中に情報が浮かんだ。

 『スライム:ドロップアイテム:スライムゼリー×1、確率:80%』

「おい、ユウヤ!ボーッとしてないで、初戦闘だぞ!」

 山田がスライムに向かって剣を振り下ろした。スライムは一撃で倒れ、小さな青いゼリー状の物体を残して消滅した。


「ほら、スライムゼリー。回復薬の材料になるから、結構いい値段で売れるんだ」

 山田がアイテムを拾い上げる。確かに俺が予想した通りのアイテムだった。

 (まさか、モンスターのドロップアイテムまでわかるようになったのか……?)

 次に現れたゴブリンを見ると、また情報が浮かんだ。


 『ゴブリン:ドロップアイテム:小銅貨×3、ゴブリンの耳×1、確率:60%、30%』

 山田がゴブリンを倒すと、予想通り小銅貨3枚とゴブリンの耳が落ちた。

「すげえな、今日は運がいい。普通、ゴブリンの耳なんてそうそう落ちないのに」

 俺は内心驚いていた。スキルの予想が完全に当たっている。

 さらに進んでいくと、今度は別の情報が頭に浮かんだ。


 『警告:回復アイテム在庫不足を検知。推奨補充数:回復ポーション×3』

 『警告:山田ケンジ装備品消耗度78%。メンテナンス推奨』


「山田、ちょっと待って」

「ん?」

「回復ポーション、あと何本ある?」

 山田は腰の袋を確認した。

「あー、2本か。確かに少し心配だな」

「それと、剣の調子はどう?」

「剣?うーん、確かに最近切れ味が落ちてる気がする……なんでわかるんだ?」

 俺は慌てて言い訳を考えた。


「いや、なんとなく。コンビニバイトで、商品管理に慣れてるからかな」

「へえ、そういうもんか」

 山田は特に疑わずに受け入れた。

 その後も進んでいくと、俺の頭には次々と情報が流れ込んできた。


 『発見:隠し宝箱、位置:左の壁から3歩、下から2段目の石』

 『警告:前方にゴブリン×3、推奨戦術:左側から接近』

 『在庫状況:この階層のモンスター素材回収率74%、最適化余地あり』

 まるでダンジョン全体が一つの巨大な倉庫で、俺がその管理者になったような感覚だった。


「なあ、山田」

「ん?」

「もしかして、左の壁に何かない?」

「え?」

 山田が指示された場所を調べると、隠し扉が見つかった。中には小さな宝箱があり、中級回復ポーションが3本入っていた。

「すげえ!よく気づいたな!隠し宝箱なんて、相当慣れた冒険者じゃないと見つけられないのに」

「た、たまたまだよ」

 俺は冷や汗をかいた。これは明らかに普通じゃない。コンビニで獲得したスキルが、ダンジョンで大幅にパワーアップしている。



 帰り道、山田は上機嫌だった。

「今日は大収穫だったな!ユウヤがいなかったら、あの隠し宝箱も見つからなかったし、装備のメンテナンスにも気づかなかった」

「そんなことないよ」

「いや、マジですごいって。冒険者の才能あるよ。今度また一緒に行こう」

 ダンジョンを出ながら、俺は自分の変化について考えていた。


 【在庫管理】スキルは、ダンジョンではもはや在庫管理の域を超えている。モンスターの情報、アイテムの予測、隠し要素の発見——まるでダンジョン攻略のチート能力だ。


 でも、なぜこんな能力を手に入れたんだろう。あの謎の老人は一体何者だったのか。

 疑問は尽きなかったが、一つだけ確実にわかることがあった。

 俺の人生が、昨日から大きく変わり始めている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ