第14話「真の力の覚醒」
メガダンジョン災害から1週間後、俺は霞ヶ関のオペレーションルームで、いつものように全国の物流状況をチェックしていた。
「田中さん、今日は静かですね」
佐藤さんが安堵の表情を見せた。
「たまには平和な日があってもいいですよね」
そう思った瞬間だった。
「田中さん!大変です!」
山本次官が血相を変えて駆け込んできた。
「これは……これまでの全てを上回る規模です!」
「全国8箇所のダンジョンが同時暴走!しかも、今度は『飢餓状態』の避難民が80万人です!」
俺は巨大モニターを見上げた。日本列島の主要都市が赤く点滅している。
「80万人って……」
「大地震の影響で主要な物流拠点が壊滅、備蓄食料も底をつきました」
鈴木課長が深刻な数字を読み上げた。
「必要食料:1日240万食、必要期間:最低1週間」
「総計1680万食……」
俺は計算して愕然とした。今までの規模を遥かに超えている。
「しかも、ダンジョンから流出したモンスターが物資輸送を妨害してます」
「通常ルートでの食料調達は絶望的です」
俺は【在庫管理】スキルで全支店の在庫を確認した。
『全支店合計在庫:500万食相当』
『不足分:1180万食』
とんでもない数字が並んでいる。
だが、なんとか手の届く範囲かもしれない。
「田中さん……」
佐藤さんが心配そうに俺を見つめた。
「無理をしないでください。人間には限界があります」
その時、俺の頭の中に、今まで聞いたことのない声が響いた。
『真の力の解放条件が満たされました』
『【在庫管理】スキルの本質が覚醒します』
「え?」
『あなたは気づいていませんが、【在庫管理】は単なる物流技術ではありません』
『これは【創造神の管理権限】の一部です』
「創造神って……」
『この世界の全ての物質を管理・生成する権限です』
『ただし、使用には強い意志と覚悟が必要です』
『500万人の命がかかっている今、あなたの決意はいかに?』
俺は迷った。創造神の権限なんて、俺には荷が重すぎる。
でも、目の前には500万人の人々が飢えて苦しんでいる。
「やります」
俺は決断した。
「80万人を救えるなら、どんな力でも使います」
『覚悟を確認しました』
『【在庫管理MAX】への進化を開始します』
突然、俺の体が光に包まれた。
「田中さん!?」
佐藤さんが驚いている。
無理もないよな。
『スキル進化完了』
『【在庫管理MAX】:無制限物質創成』
『制限:存在する物質のコピーのみ可能』
『範囲:全世界対応』
俺は新しい力を確認した。頭の中に、世界中の全ての物質情報が流れ込んでくる。
食料、水、医薬品、建材……全てのデータが完璧に把握できる。
そして、それらを無制限に複製できる。
「これなら……」
俺は【無制限物質創成】を発動した。
「全国の避難所に、必要な食料を直接創成します!」
『創成開始:1680万食分の食料』
『配送先:全国避難所2500箇所』
『創成種類:栄養バランス完璧な食事セット』
店の前どころか、日本全国の空に巨大な光の柱が立ち上がった。
オペレーションルーム全体が明るい光に包まれていく。
『創成完了:全避難所への食料配布完了』
『追加創成:2週間分の保存食料』
『追加創成:清潔な飲料水1000万L』
『追加創成:医薬品・生活必需品一式』
俺は立て続けに物資を創成していく。今まで感じたことのないほどの力が体中に満ちていた。
30分後、全国から信じられない報告が次々と入ってきた。
「避難所に光と一緒に大量の食料が現れました!」
「しかも、温かくて美味しくて、栄養バランスも完璧です!」
「2週間分の保存食まで!これで当分安心です!」
「水も薬も全部揃ってる!まるで奇跡です!」
山本次官が震え声で報告した。
「田中さん……全国80万人の食料問題が、たった30分で解決しました」
「本当にやったんですね……」
佐藤さんが感動で涙ぐんでいる。
でも、俺はまだ終わっていなかった。
「次はモンスター対策です」
俺は【無制限物質創成】で、超強力な対モンスター兵器を創成した。
『創成:神器級モンスター討伐装備×10000セット』
『創成:自動モンスター捕獲システム×1000基』
『創成:超大型結界修復装置×100基』
全国のダンジョンに、光と共に最新鋭の装備が現れた。
「すげえ!この装備、Sランクモンスターが一撃で倒せる!」
「自動捕獲システムが勝手にモンスターを捕まえてる!」
「結界も勝手に修復されてる!」
現地の冒険者と自衛隊から歓声が上がった。
1時間後、全国のダンジョン暴走が完全に収束した。
『全ダンジョン正常化完了』
『避難民80万人、全員安全確保』
『食料・生活物資、2週間分確保完了』
「やりました!」
オペレーションルーム全体に歓声が響いた。
その夜、俺は地元の店で一人になって考えていた。
創造神の力……確かにすごい力だった。正直、ちょっと怖い。
「田中さん、お疲れ様でした」
佐藤さんがやってきた。
「今日の田中さん、本当にすごかったです」
「まあ、なんか凄い力が出ちゃいましたからね」
俺は曖昧に答えた。
「でも、これでよかったんですかね?こんな力を使って……」
「田中さん」
佐藤さんが俺の手を握った。
「田中さんは、80万人の命を救ったんです。それ以上に大切なことがありますか?」
「そうですね。まあ、結果オーライってことで」
俺は軽く答えた。深く考えすぎても仕方ない。
「それに、田中さんの気持ちは最初から変わってないじゃないですか」
佐藤さんが微笑んだ。
「困ってる人を助けたい。その気持ちは、コンビニで働いてた時と同じです」
「ああ、それはそうですね。まあ、規模がデカくなっただけで、やってることは大して変わらないかも」
確かにそうだった。コンビニでお客さんに商品を勧めるのも、80万人に食料を配るのも、本質的には同じことだ。
「ありがとうございます、佐藤さん。おかげでスッキリしました」
翌日、政府から正式な発表があった。
『田中ユウヤ氏を『国家最高顧問』に任命』
『今後、国家レベルの危機管理を一任』
『通称:現代の救世主』
「救世主かあ……なんか大げさですね」
俺は苦笑いした。
テレビでも大々的に報道された。
『80万人を救った奇跡の男』
『神の如き力を持つ救世主』
『日本の守護者、田中ユウヤ』
「守護者って、RPGの職業みたいだな」
俺は一人でツッコミを入れた。
「田中さん」
山田が魔法通信で呼びかけてきた。
「俺たちも、もっと頑張るぜ。お前一人に任せとけないからな」
「おう、よろしく。でも無理すんなよ」
「みんなで日本を守ろうぜ!」
「まあ、ぼちぼちやりましょうか」
仲間たちの熱い声に、俺は適当に答えた。
確かに大きな力を手に入れたけど、俺は俺だ。
あんまり堅く考えても仕方ない。困ってる人がいたら助ける。それだけのことだ。
つい5ヶ月前まで、ただのコンビニバイトだった俺が、今では80万人を救える存在になっている。
「まあ、人生何があるかわからないもんだな」
俺は一人でそんなことを呟いた。




