第13話「災害対応」
国際ダンジョン災害対策に本格参入してから1週間後、俺は人生で最大の危機に直面していた。
「田中さん!大変です!」
佐藤さんが血相を変えて霞ヶ関のオペレーションルームに駆け込んできた。
「日本で初めての『メガダンジョン地震』が発生しました!」
「メガダンジョン地震?」
俺は巨大モニターを見上げた。画面には日本列島が映っていて、東海地方に巨大な赤いマークが点滅している。
「震度6強の地震と同時に、静岡県の『富士山麓メガダンジョン』が完全暴走状態に!」
鈴木課長が慌てて説明した。
「地震でダンジョンの最深部まで亀裂が入り、今まで封印されていた古代級モンスターが大量流出してます!」
「古代級って……」
俺は【危機感知】スキルを最大出力で発動した。
『緊急事態検知:富士山麓メガダンジョン』
『流出モンスター:ドラゴン×20、古代巨人×15、リッチ×30、その他Sランク×200以上』
『避難対象:周辺住民約50万人』
『推定被害範囲:半径100km』
「50万人……」
俺はめまいがしそうになった。
「しかも、地震の影響で交通網が完全にマヒ状態。避難も救援も難しい状況です」
山本次官が緊迫した表情で報告した。
「田中さん、お願いします。あなたの技術でしか、この危機は乗り越えられません」
俺は深呼吸した。確かに大変な状況だが、パニックになっても仕方ない。
「わかりました。でも、これまでとは規模が違いすぎます。一人では無理ですね」
「何が必要ですか?」
「まず、全国の支店と連携します。山田、佐藤さん、他の店長たちにも協力してもらいましょう」
俺は全支店に緊急通信を送った。
『全店舗緊急事態:メガダンジョン災害対応』
『総力戦で挑みます。各店長は最大出力で待機』
すぐに返事が来た。
「ユウヤ!大阪支店、準備完了だ!」
山田の元気な声が響いた。
「東京支店も準備OKです!」
佐藤さんも頼もしい。
「名古屋、福岡、仙台も全店舗スタンバイ完了です!」
他の店長たちからも次々と報告が入る。
「よし!それじゃあ、史上最大規模の配送作戦を開始します!」
俺は【次元間物流】を全店舗同期モードで発動した。
「作戦名『オペレーション・セーフティネット』!」
なんとなくカッコいい名前をつけてみた。
「第一段階:避難民緊急支援!各店舗、避難用品を大量配送開始!」
『東京支店:避難テント×10万張配送開始』
『大阪支店:非常食×50万食配送開始』
『名古屋支店:毛布・防寒具×30万セット配送開始』
『福岡支店:簡易トイレ×5万基配送開始』
『仙台支店:飲料水×100万L配送開始』
『本店:避難誘導用品×1万セット配送開始』
6店舗同時の大規模配送で、静岡県内の避難所に次々と物資が届いていく。
「すげえ……6つの光の柱が同時に!」
現地のニュースキャスターが興奮して報道している。
「第二段階:対モンスター作戦支援!」
今度は自衛隊と冒険者ギルドへの装備支援だ。
『特殊装備配送:対ドラゴン用重火器×100、対古代巨人用拘束具×50、対リッチ用聖水×1000L』
『冒険者用:Sランク武器×500、最上級防具×500、回復薬×10000』
「おお!装備が降ってきた!」
現地の冒険者たちが歓声を上げている。
「第三段階:インフラ復旧支援!」
地震で壊れた道路や建物の応急復旧も必要だ。
『建設資材大量配送:応急橋梁×20、仮設道路材×1000トン、発電機×500台』
『医療支援:移動式病院×10、医薬品×大量』
「田中さん、現地から感謝の連絡が殺到してます!」
佐藤さんが通信を確認している。
「『まるで神様が助けてくれてるみたい』って!」
「『物資が光と一緒に降ってくる奇跡』だって!」
山田も興奮している。
でも、まだ終わりじゃない。一番大変なのはここからだ。
「最終段階:モンスター封印作戦!」
俺は【カスタム補給】を使って、特殊な封印道具を作成した。
『古代級モンスター封印キット×100』
『メガダンジョン結界修復装置×1』
『使用方法:簡単、誰でも使える設計』
「これで、モンスターたちを元のダンジョンに戻せるはずです!」
俺が封印キットを配送すると、現地の冒険者と自衛隊が協力してモンスター封印作戦を開始した。
でも、現実はそんなに甘くなかった。
「うわああああ!ドラゴンのブレスで戦車が溶けた!」
「古代巨人の一撃で建物が倒壊!避難してください!」
「リッチの死霊魔法で冒険者が次々と戦闘不能に!」
現地からの絶望的な報告が入る。
『戦況報告:自衛隊戦力30%減、冒険者ギルド戦力50%減』
『古代級モンスターは封印キットでも効果薄』
『このままでは全滅の可能性』
俺は焦った。普通の封印キットでは古代級には通用しないのか。
「田中さん!もっと強力な封印道具を!」
現地指揮官から緊急要請が入った。
俺は【カスタム補給】を最大出力で発動した。
『古代級専用・超強力封印キット×100』
『使用条件:複数人での協力作業必須』
『効果:古代級モンスターを強制的にダンジョンに送還』
「これなら!緊急配送します!」
新しい封印キットが配送されると、戦況が一変した。
「やった!ドラゴンが光に包まれて消えていく!」
「古代巨人も封印された!ダンジョンに戻ってる!」
「リッチたちも次々と封印されてる!」
現地からの報告が希望に満ちたものに変わった。
そして最後に、俺は結界修復装置を富士山麓メガダンジョンの入り口に配送した。
『結界修復完了:富士山麓メガダンジョン、正常状態に復帰』
『災害対応終了:避難民50万人全員安全確保』
「やったあああ!」
オペレーションルーム全体に歓声が響いた。
その夜、俺は地元の店で打ち上げをしていた。全国の店長たちも魔法通信で参加している。
「ユウヤ、お前マジで英雄だよ!」
山田が興奮している。
「テレビで『現代の救世主』って呼ばれてたぞ!」
「田中さん、今回の作戦、本当にお疲れ様でした」
佐藤さんも嬉しそうだ。
「6店舗同時配送なんて、誰も思いつきませんよ」
「みんながいたからできたことです」
俺は素直にそう思った。一人じゃ絶対に無理だった。
「それにしても、『オペレーション・セーフティネット』って名前、カッコよかったですね」
佐藤さんが笑った。
「あ、それ適当につけたんですけど……」
「でも、メディアでもその名前で報道されてますよ」
確かに、ニュースでは「田中物流による『オペレーション・セーフティネット』が日本を救った」と報道されている。
「今度から、大規模災害対応の時はちゃんとした作戦名をつけましょうか」
俺は提案した。
「次は『オペレーション・ホープ』とか?」
「いいですね!」
みんなが賛成してくれた。
翌日、山本次官から連絡があった。
『田中さん、昨日の災害対応、素晴らしかったです』
「ありがとうございます」
『実は、今回の成功を受けて、政府で『田中物流法』という特別法を制定することになりました』
「田中物流法?」
『はい。大規模災害時に、田中さんの技術を最優先で活用できる法的根拠です』
『これで、田中さんは正式に『国家災害対策特別顧問』に任命されます』
俺は驚いた。ついに国の役職に就くことになるとは。
でも、嬉しいよりも責任を感じる。
つい4ヶ月前まで、ただのコンビニバイトだった俺が、今では50万人の命を預かる立場になっている。
「田中さん、大丈夫ですか?」
佐藤さんが心配そうに声をかけてきた。
「あ、はい。ちょっと責任の重さに圧倒されて……」
「でも、田中さんなら大丈夫です」
佐藤さんが微笑んだ。
「だって、いつも一番に困ってる人のことを考えてるじゃないですか」
そうか。確かに俺は、最初から変わっていないのかもしれない。
コンビニで働いていた時も、お客さんのことを第一に考えていた。
今も同じで、困っている人を助けたいという気持ちは変わらない。
規模が大きくなっただけで、本質は同じなんだ。
「ありがとうございます、佐藤さん」
俺は安心した。
これからも、この気持ちを忘れずに。
俺ならやれる――そう思えるようになってきた!




