第12話「政府からの接触」
政府の緊急物流事業を開始してから2週間が経った。俺は毎日のように霞ヶ関の地下オペレーションルームに通い、全国各地への配送業務をこなしていた。
「田中さん、お疲れ様です」
鈴木課長が今日も状況報告を持ってやってきた。
「今月の配送実績、素晴らしいですね。成功率99.8%、平均配送時間3分」
俺は巨大モニターを見ながら答えた。
「まだ改善の余地はありますけどね」
画面には全国の配送状況がリアルタイムで表示されている。北海道から沖縄まで、緑の点滅が配送完了を示していた。
「それにしても、田中さんの技術は本当に革命的です。従来の物流では考えられない速度と正確性……」
その時、オペレーションルームの扉が開いた。
入ってきたのは、今まで見たことのない男性だった。40代前半、鋭い目つきに引き締まった体格。明らかに普通の官僚ではない。
「鈴木課長、お疲れ様です」
男性は丁寧に挨拶した。
「あ、田中さん、ご紹介します。こちらは内閣府の特命担当、山本次官です」
「内閣府?」
俺は驚いた。内閣府といえば、政府の中枢機関だ。
「田中様、初めまして。山本と申します」
山本次官は深々と頭を下げた。
「実は、田中様にお願いしたいことがございまして」
「お願い?」
山本次官は機密性の高そうなファイルを取り出した。
「田中様の物流技術について、国家レベルでの活用を検討しています」
「国家レベル?」
「はい。具体的には、国防、災害対策、そして……」
山本次官は声を低くした。
「ダンジョン災害対策です」
俺は眉をひそめた。
「ダンジョン災害?」
「実は、最近世界各地で『ダンジョン暴走』という現象が発生しています」
山本次官がファイルを開くと、世界各地のダンジョンから溢れ出すモンスターの写真が出てきた。
「アメリカのグランドキャニオンダンジョン、フランスのパリ地下ダンジョン、オーストラリアのエアーズロックダンジョン……」
「こんなにたくさん……」
「通常、ダンジョンはモンスターが外に出ないよう魔法的な結界で守られています。しかし、何らかの原因でその結界が破られ、モンスターが一般市民を襲う事件が多発しているのです」
俺は考え込んだ。確かに、最近日本でもそんなニュースを聞いた気がする。
「それで、俺に何を?」
「通常の救援隊では、モンスターの襲撃を受けて救援活動ができません」
山本次官は世界地図を広げた。
「しかし、田中様の次元間配送技術なら、危険地帯に直接物資を送ることができる」
地図には赤い印が無数についていた。
「これらは全て、ダンジョン暴走により救援困難になった地域です」
「確かに……」
俺は考え込んだ。国内の物流でも大変なのに、国際レベルとなると責任の重さが違う。
「でも、俺一人では……」
「もちろん、政府が全面的にバックアップします」
山本次官が新しい資料を取り出した。
「『田中物流国際部門』として、専用の組織を設立します」
資料には組織図が描かれていた。俺を部門長として、100人規模のスタッフが配置される予定だった。
「100人?」
「はい。物流専門家、国際法の専門家、各国との調整担当者……」
「そんな大がかりな……」
「田中様の技術は、もはや個人の範囲を超えています。国家戦略として取り組むべき技術なのです」
俺は圧倒された。確かに、最近の依頼は個人では対応しきれない規模になっている。
「少し考えさせてください」
「もちろんです。ただし……」
山本次官の表情が真剣になった。
「来月、国連で開催される『国際ダンジョン災害対策会議』で、田中様の技術を紹介したいのです」
「国連?」
「はい。世界各国のダンジョン管理機関が集まる緊急会議です。そこで田中様の技術をデモンストレーションしていただければ……」
俺は頭がくらくらした。つい3ヶ月前まで、ただのコンビニバイトだった俺が、国連で技術発表?
「あの、俺はそんな大それたことは……」
「田中様、謙遜は不要です」
鈴木課長が口を挟んだ。
「田中様の技術で、どれだけの人が救われているか。これは個人の技術ではなく、人類の宝です」
その夜、俺は地元の店に戻って、佐藤さんと山田に相談した。
「国連?マジかよ!」
山田が興奮している。
「ユウヤ、もう完全に世界レベルじゃん!」
「でも、責任が重すぎませんか?」
佐藤さんが心配そうに言った。
「世界中の人道支援なんて……」
「俺もそう思うんです。失敗したら、困る人がたくさんいる」
その時、俺のスキルが反応した。
『緊急要請:東南アジア某国、台風によるダンジョン暴走発生』
『状況:メガダンジョンの結界破損、Aランクモンスター大量流出』
『必要物資:対モンスター用装備、避難民向け食料20万人分、結界修復材料』
『現地到達困難:モンスター襲撃により空港閉鎖、道路寸断』
俺は立ち上がった。
「これ、今の俺の技術なら助けられる」
「田中さん?」
「考えてみれば、ダンジョン災害だろうが自然災害だろうが、困っている人がいることに変わりはない」
俺は【次元間物流】の海外配送機能を確認した。
『海外配送:可能、ダンジョン内配送も対応』
「やってみます」
俺は政府に連絡し、緊急ダンジョン災害支援として東南アジアへの物資配送を申し出た。
2時間後、俺は霞ヶ関のオペレーションルームで、人生初の国際ダンジョン災害対応を実行していた。
『配送先:東南アジア某国、ダンジョン災害被災地』
『配送物資:対モンスター装備×1000セット、避難民支援パック×20万セット、結界修復キット×50』
『配送開始』
巨大な光の柱が立ち上がった。今までで最大規模の配送だ。
『配送完了:20万人分の緊急支援物資および対モンスター装備を送付しました』
翌朝、ニュースで報道された。
『台風で暴走したメガダンジョンの災害地に、謎の支援物資が届けられました』
『現地のダンジョン管理局によると、光と共に対モンスター装備と大量の支援物資が現れ、20万人の避難民が救われたとのことです』
『また、謎の結界修復キットにより、ダンジョンの暴走も収束に向かっているとのことです』
画面には、物資を受け取って喜ぶ被災者の姿が映っていた。
その姿を見て、俺は決心した。
翌日、俺は山本次官に連絡した。
「国際部門の件、お受けします」
『そうですか!ありがとうございます』
「ただし、条件があります」
『何でしょう?』
「現場の判断を最優先にしてください。困っている人がいたら、政治的な配慮より人命を優先したい」
『もちろんです。田中様のその姿勢こそ、我々が求めているものです』
俺の新しい挑戦が始まろうとしていた。
もはや一国の物流を担うだけでなく、世界規模の人道支援に関わることになる。
責任は重いが、やりがいも桁違いだ!




