第11話「異次元倉庫」
全国6店舗の運営が軌道に乗ってから1週間後、俺は今までにない規模のスキルアップを経験した。
『スキル【在庫管理】がレベルアップしました』
『Lv7→Lv8:新機能【次元間物流】【無限倉庫】【現実世界連携】が解放されました』
「レベル8……」
今までとは明らかに違う。頭の中に流れ込んでくる情報量が桁違いだ。
『次元間物流:現実世界とダンジョン世界を結ぶ流通ネットワークを構築できます』
『無限倉庫:容量制限のない異次元倉庫空間を展開可能です』
『現実世界連携:一般企業・政府機関との取引が可能になります』
これは……もはや個人商店の範囲を完全に超えている。
「田中さん、どうされました?」
佐藤さんが心配そうに声をかけてきた。彼女は東京支店から本店に戻ってきて、俺のサポートをしてくれている。
「新しいスキルが……ちょっと規模が大きすぎて」
「どんな機能ですか?」
俺は説明しながら、【無限倉庫】を発動してみた。すると、店の奥に巨大な光の扉が現れた。
「うわあ!?」
佐藤さんが驚いている。
扉の向こうを覗くと、見渡す限り続く巨大な倉庫空間があった。天井が見えないほど高く、地平線まで商品棚が続いている。
「これ、本当に無限なんでしょうか……」
俺たちは恐る恐る中に入ってみた。
『異次元倉庫へようこそ』
『現在の収容量:0/∞』
『管理可能商品種類:全アイテム対応』
本当に無限だった。
「すごすぎます……これがあれば、どんな大量注文でも対応できますね」
佐藤さんが感心している。
その時、俺の携帯電話が鳴った。見知らぬ番号だ。
「はい、田中です」
『田中様でいらっしゃいますか?私、経済産業省の物流課長、鈴木と申します』
「経済産業省?」
『実は、田中様の物流システムについて、ぜひご相談したいことがございまして……』
翌日、俺は人生初の政府機関を訪れていた。霞ヶ関の高層ビルの20階、経済産業省物流課の会議室は、思っていたより質素だった。
グレーの会議テーブルに6脚の椅子、壁には日本地図と物流関連の資料が貼られている。窓からは東京の街並みが見えた。
「田中様、本日はお忙しい中ありがとうございます」
鈴木課長は50代くらいの温厚そうな男性だった。
「こちらこそ。でも、なんで俺なんかに?」
「謙遜なさらずに。田中様のダンジョン物流システムは、もはや国家レベルの技術です」
鈴木課長が資料を広げた。
「実は、我が国は深刻な物流危機に直面しています」
資料には、日本各地の物流状況が示されていた。過疎地への配送困難、災害時の供給断絶、コスト増大……
「田中様の次元間配送技術があれば、これらの問題を一気に解決できるのではないでしょうか」
「次元間配送って……」
俺は【現実世界連携】スキルの詳細を確認した。
『現実世界配送:ダンジョン技術を応用した超高速物流が可能』
『配送範囲:全国対応』
『配送時間:最短1分』
これは確かにすごい技術だ。
「もし、田中様に政府の物流事業に協力していただけるなら……」
鈴木課長が提示した契約書を見て、俺は目を疑った。
『年間契約金:10億ゴールド』
「10億ゴールド?」
「全国の過疎地、離島、災害地域への緊急物流をお任せしたいのです」
俺は考え込んだ。確かに社会貢献にはなるが、責任も重大だ。
「少し検討させてください」
「もちろんです。ご返答をお待ちしております」
店に戻ると、佐藤さんと山田が待っていた。
「どうでした?」
俺は政府からの提案を説明した。
「10億ゴールド?マジかよ!」
山田が驚いている。
「でも、それだけ大きな責任ですよね」
佐藤さんが真剣な表情で言った。
「全国の物流を担うなんて……」
その時、俺の【次元間物流】スキルが反応した。
『緊急要請:北海道某村、豪雪により孤立状態』
『必要物資:食料、燃料、医薬品』
『推定人口:120人、物資不足による危険度:高』
「これは……」
俺はニュースを確認した。確かに、北海道の山村が大雪で孤立していると報道されている。
「田中さん、これって……」
佐藤さんが俺を見つめた。
「助けに行きませんか?」
俺は決心した。政府との契約はまだだが、困っている人がいるなら放っておけない。
「やってみましょう」
俺は【次元間物流】を発動した。
『配送先設定:北海道某村』
『必要物資計算中……』
『推奨物資:食料パック×150、燃料×200L、医薬品セット×30』
『総費用:50000ゴールド』
高額だが、人命に関わることだ。
「無限倉庫から調達開始!」
俺は異次元倉庫に入り、必要な物資を集めた。食料、燃料、医薬品……全て最高品質のものを選んだ。
『配送準備完了』
『次元間物流発動』
店の前に巨大な光の柱が立ち上がった。物資が光に包まれて消えていく。
『配送完了:北海道某村に緊急物資を送付しました』
その夜、ニュースで続報が流れた。
『孤立していた北海道某村に、謎の救援物資が届けられました』
『村長の話によると、光と共に大量の物資が現れたとのことです』
『住民の皆さんは、この奇跡的な出来事に感謝の声を上げています』
画面に村の人々が映った。
『本当に助かりました。諦めかけていたところに、まるで神様からの贈り物でした』
俺は胸が熱くなった。自分の能力で、本当に人を救えたんだ。
翌日、鈴木課長から電話があった。
『田中様、昨日の件は田中様でしたか?』
「はい」
『素晴らしい!これこそ、我々が求めていた技術です』
『ぜひとも、政府との契約をお願いします』
俺は決断した。
「わかりました。お受けします」
1週間後、俺は正式に政府の物流事業に参画していた。経済産業省の地下3階に新設された「緊急物流対策センター」で、俺専用のオペレーションルームが用意されている。
壁一面に全国の物流状況を表示する巨大モニターが並び、各地の配送要請がリアルタイムで表示される。
俺はそのモニターを見ながら、異次元倉庫への転送ゲートを操作していた。
『田中物流:政府公認全国緊急配送サービス』
という新しい事業が始まったのだ。
異次元倉庫は本格的な物流拠点となり、全国の離島、過疎地、災害地域への配送を担当している。
「田中さん、今日も全国から感謝の手紙が届いてます」
佐藤さんが大量の手紙を持ってきた。
「離島の人から『生活必需品が安定して届くようになった』って」
「過疎地のお年寄りから『薬が切れずに済む』って」
「災害地域から『復興物資がすぐに届いて助かった』って」
俺は嬉しくなって手を握りしめた。コンビニから始まった俺のビジネスが、今では社会インフラになっている。
「山田からも連絡ありました」
佐藤さんが魔法通信機を確認した。
「大阪支店でも、企業との連携が始まってるって。地元企業の配送業務を請け負ってるそうです」
「みんな頑張ってくれてますね」
その時、【現実世界連携】から新しい通知が来た。
『大手商社より提携申し込み』
『国際物流への参入打診』
『推定契約額:50億ゴールド/年』
「50億ゴールド……」
俺はめまいがしそうになった。
「田中さん、大丈夫ですか?」
「ああ、ちょっと規模が大きすぎて……」
でも、これも成長のチャンスだ。俺のスキルで、もっとたくさんの人を助けられるかもしれない。
気がついたら国家事業に関わっている。
こうなったら、行けるところまで行くしかない!




