第10話「フランチャイズ化」
全国ニュースで報道されてから3日後、俺の店は文字通り大混乱状態だった。
「田中さん、今日だけで全国から200件以上の問い合わせが来てます」
佐藤さんが電話対応に追われながら報告してくれた。
「北海道から沖縄まで、『うちの地域にも出店してください』って……」
「200件って……」
俺は頭を抱えた。一人じゃとても対応しきれない。
その時、突然頭の中に新しいメッセージが現れた。
『スキル【在庫管理】がレベルアップしました』
『Lv6→Lv7:新機能【遠隔管理】【支店展開】【マネジメント】が解放されました』
「いいタイミングで新機能が来てくれたな。どれどれ」
『遠隔管理:離れた場所の店舗を統括管理できます』
『支店展開:複数地点に同時出店が可能です』
『マネジメント:他者にスキルの一部を委譲し、代理運営させることができます』
これは……まさにフランチャイズ経営のためのスキルじゃないか。
「佐藤さん、ちょっと実験してみませんか?」
「実験?」
「支店を作ってみるんです」
俺は【支店展開】スキルを発動してみた。すると、頭の中に日本地図が浮かび、各地のダンジョン情報が表示された。
『推奨出店地域:』
『東京ダンジョン:需要度A+、競合少』
『大阪ダンジョン:需要度A、競合中』
『名古屋ダンジョン:需要度B+、競合少』
『福岡ダンジョン:需要度B、競合なし』
「まずは東京から試してみましょう」
俺が【支店展開】を実行すると、頭の中に東京ダンジョンの映像が浮かんだ。
『支店設置完了:東京ダンジョン15階層』
『店舗タイプ:標準コンビニ+緊急サポート機能』
「本当にできた……」
俺は【遠隔管理】で東京支店の状況を確認した。ちゃんと商品が並んでいて、営業可能な状態になっている。
「でも、俺一人じゃ管理しきれませんよね」
そこで【マネジメント】スキルを試してみた。
『スキル委譲可能対象検索中……』
『適性者発見:佐藤ユキナ、委譲可能スキル:【基本在庫管理】【顧客サービス】』
「佐藤さん、ちょっと手を出してもらえますか?」
「え?はい」
俺が佐藤さんの手に触れると、光が走った。
『スキル委譲完了:佐藤ユキナに【基本在庫管理Lv3】を付与』
「あ!何か頭の中に情報が……」
佐藤さんが驚いている。
「東京の店舗の状況が見えます!商品の配置とか、在庫数とか!」
「成功ですね。これで佐藤さんに東京支店の管理をお任せできます」
その日の夕方、俺たちは東京に向かった。新幹線で3時間、東京ダンジョンに到着すると、確かに俺の支店ができていた。
「すごい……本当にあるんですね」
佐藤さんが感動している。
東京ダンジョンには、既に多くの冒険者がいた。俺たちの店に気づくと、ざわめきが起こった。
「あ!あの有名な田中さんの店じゃない?」
「東京にも出店したんだ!」
「古龍討伐をサポートした伝説の店主さんだよね?」
すぐに客が押し寄せてきた。
「店主さん!品質保証のコンビニが東京にも来てくれたんですね!」
「緊急サポートサービスもやってもらえるんですか?」
「うちのパーティも、深層ダンジョンに挑戦したくて……」
俺は嬉しくなった。東京でも俺のサービスが求められている。
「はい、もちろんです。東京支店では、佐藤さんが店長を務めます」
「佐藤です。よろしくお願いします」
佐藤さんが丁寧にお辞儀した。
「でも、緊急サポートとかできるんですか?」
客の一人が心配そうに聞いた。
「大丈夫です。私も田中さんからスキルを分けてもらったので、基本的なサポートはできます」
佐藤さんが【基本在庫管理】スキルを使って、客の装備状態を分析してみせた。
「あなたの回復ポーション、効果が80%まで低下してますね。新しいものに交換されることをお勧めします」
「え?本当だ!よくわかりますね!」
客が驚いている。
「さすが田中さんの店だ!」
その夜、東京のホテルで、俺たちは今後の戦略を話し合った。
「東京支店、初日から大盛況でしたね」
佐藤さんが嬉しそうに言った。
「売上も15000ゴールドを超えました」
「すごいですね。じゃあ、他の都市にも展開してみましょうか」
「山田さんにも声をかけてみませんか?」
「そうですね。山田なら大阪支店を任せられそうです」
翌日、俺たちは地元に戻り、山田にフランチャイズの話をした。
「マジで?俺が店長になれるのか?」
山田が目を輝かせた。
「もちろん。スキルを分けられるようになったから」
俺は山田に【基本在庫管理】と【顧客サービス】を委譲した。
「うおお!すげえ!商品の情報が頭に入ってくる!」
山田が興奮している。
「これで俺も、田中コンビニの店長か……」
「『田中コンビニ』って呼び方、気に入りました」
佐藤さんが楽しげに笑った。
1週間後、俺は【支店展開】を使って、一気に5都市に出店した。
東京(佐藤さん管理)、大阪(山田管理)、名古屋、福岡、仙台の5店舗体制だ。
名古屋、福岡、仙台には、現地で優秀な冒険者を見つけて、スキルを委譲して店長に任命した。
『全支店統括情報:』
『東京支店:日売上20000ゴールド、顧客満足度95%』
『大阪支店:日売上18000ゴールド、顧客満足度93%』
『名古屋支店:日売上12000ゴールド、顧客満足度92%』
『福岡支店:日売上10000ゴールド、顧客満足度94%』
『仙台支店:日売上8000ゴールド、顧客満足度91%』
『本店:日売上25000ゴールド、顧客満足度98%』
『総売上:93000ゴールド/日』
月間売上が約280万ゴールド……もはや大企業レベルだ。
「田中さん、すごいことになってますね」
佐藤さんが東京から通信魔法で連絡してきた。
「こちらも連日満員で、新規客が止まりません」
山田からも報告が来た。
「大阪でも『田中コンビニ』の名前が知れ渡ってるぜ。関西弁で『さすが田中はんの店やでぇ!』って親しまれてる」
俺は嬉しくなった。全国に仲間ができて、みんなでサービスを提供している。
その夜、俺は地元の店で一人になって考えていた。
いつのまにか、全国チェーンの経営者になっている。
でも、一番嬉しいのは、全国の冒険者たちから感謝されていることだ。
「全国展開、おめでとうございます」
常連客のカズヤさんがやってきた。
「ありがとうございます」
「でも、忙しくなって、俺たちとの時間が減ったりしませんか?」
カズヤさんが心配そうに聞いた。
「大丈夫ですよ。本店は俺が必ず守ります。ここが俺の原点ですから」
「それを聞いて安心しました」
カズヤさんが笑顔になった。
「田中くんがいる限り、俺たちも安心してダンジョンに挑戦できます」
俺は改めて思った。
全国展開も嬉しいけど、やっぱり一番大切なのは、目の前のお客さん一人一人を大切にすることだ。
いろいろ変化していっても、そこを忘れないようにしないとな。




